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貸し剥がし、倒産……平成不況で追い詰められた大人たちの上を、カナとミヨリ、二人の天女は浮遊する。或いは『フワつく身体』第四回。

※文学フリマ東京にてなどで頒布したミステリー小説、『フワつく身体』(25万文字 366ページ)の連載第四回です。(できるだけ毎日更新の予定)

初回から読みたい方はこちら:「カナはアタシの全て……。1997年渋谷。むず痒いほど懐かしい時代を背景にした百合から全ては始まる。」

前回分はこちら:病身の美頼から告げられる言葉「カナは生きている」……そして、徐々に浮上する二十年前との繋がり。或いは『フワつく身体』第三回

『フワつく身体』ってどんな作品?と見出し一覧はこちら:【プロフィール記事】そもそも『フワつく身体』ってどういう作品?

八割方無料で公開いたしますが、最終章のみ有料とし、全部読み終わると、通販で実物を買ったのと同じ1500円になる予定です。

本文:ここから

▼参考文献より引用

さあゲームの始まりです
愚鈍な警察諸君
ボクを止めてみたまえ
ボクは殺しが愉快でたまらない
人の死が見たくて見たくてしょうがない
汚い野菜共には死の制裁を
積年の大怨に流血の裁きを

SHOOLL KILL
学校殺死の酒鬼薔薇


今までに自分の名で人から呼ばれたこともない。もしボクが生まれた時からボクのままであれば、わざわざ切断した頭部を中学校の正門に放置するなどという行動はとらないであろう やろうと思えば誰にも気づかれずにひっそりと殺人を楽しむ事もできたのである。ボクがわざわざ世間の注目を集めたのは、今までも、そしてこれからも透明な存在であり続けるボクを、せめてあなた達の空想の中でだけでも実在の人間として認めて頂きたいのである。

※Wikipedia 「神戸連続児童殺傷事件」
https://ja.wikipedia.org/wiki/神戸連続自動殺傷事件
(2018年8月アクセス)

●一九九七年(平成九年) 五月二十三日 世良田美頼の日記


You could be loved, more than now, more than ever
But you have clear eyes and stay now
Your heart is winered,vanishing and burning
You would came true your wish

「うまいじゃないですかー。安全地帯」

 ワインレッドの心を歌い終えたオヤジに機嫌よさげにカナは言った。やせていて、なで肩で、マッチ棒みたいなオヤジだったけど、本当に歌はうまかった。

 そして、それ以上にオヤジに対するカナの猫の被り方は本当にうまいと思った。

「ありがとう。ほめてもらって、ボクこんなことしか取り柄ないからさ」

 オヤジはそう言って照れた。

 今日のオヤジは、カナが公衆電話から聞いた伝言ダイヤルで見つけてきた人だった。

 四十代と言っていたけれど、もうちょっと上かもしれない。伝言ダイヤルに吹き込まれた慣れない感じの、緊張した声が気に入ったんだとカナは言った。

 一緒にカラオケに行ったあと、気に入ってもらえたらエッチ、というのが条件だった。

 マサと名乗ったそのオヤジの携帯に電話すると、三人でアタシとミヨリがいつも使っているセンター街のカラオケボックスに行って、気に入った方とホテルということになった。

「で、ボクとミヨリ、どっちにするの? マサさん悪い人じゃなさそうだし、ボクたちはどっちでもいいよ。ね、ミヨリ」

 と言って、カナはその黒い瞳をアタシに向けた。

 アタシはうなづく。

 たぶん、説教しながらぶち込んで来たりはしなそうだ。

「あ、でも3Pはなしね。ウチらの間でそうきまってるから」

 二人で一緒の相手とやってしまうと、あとでお互いを清められる力が弱まってしまう、とカナは言ってアタシたちの間では3Pはしないことになっていた。

 オヤジはうつむいて、恥ずかしそうに首の後ろをさわりながら、何秒か黙り込んだあとで言った。

「それなんだけどね、やっぱり、やめようと思うんだ」

「えー、どっちもタイプじゃなかったとか」

 カナが口を尖らせた。

「ちがうんだ。そうじゃないんだ。君たちはとってもかわいくて、美しくて、ボクなんかには勿体無い」

「なにそれ」

「ボクは蒲田で生まれ育って、今もずっと蒲田にいるんだけど。うちの祖父の菩提寺がね、池上にあって、そこのお堂に登るとそこの壁にすごく綺麗な天女が二人描かれていたんだ、柔らかく波打つ羽衣を着て、一人は花かごを持って、もう一人は笛を吹いて。小学生になったばかりだったかな。はじめて見たとき、あまりの美しさに動けなくなった。初恋だったのかもしれない。君たちを見ていたら思い出したんだ。天女様をお金でホテルに連れ込んではいけない。そう思ったんだ」

「なに言ってんの? ウチら、そんなんじゃないし、しょちゅう援交してるし」

「きっと君たちは天女なんだ。自分たちでは気づいていないかもしれないけど、そうなんだ」

 アタシたちはキョトンとするしかなかった。

「お金だったら、さっき払ったカラオケ代にプラスしてホテルの方も払うよ。でも、きまった。行かない」

 そう言って、オヤジはズボンのポケットからクタクタになった黒い財布を出して、ガラステーブルの上に四万円を置いた。そのときのオヤジの顔は泣いているような、でもすっきりとしているようななんとも言えない顔だった。

 そして、立ち上がると、カラオケボックスから出ていった。

 カナとアタシは二人カラオケボックスに取り残された。

「なんだったんだろね」

 アタシはカナを見た。
「ま、いいんじゃない。もらうもんはもらったんだし。それより、時間余っちゃったね。これからどうしよう」

 とカナは聞いてきた。

 アタシは少し黙ってから、

「……カナとキスしたい」

 と小さく答えた。

 すると、カナの優しい唇が近づいてきた。

 何度も舌を絡めてカナとキスをした。カナの唇がアタシの首筋を伝って乳房にたどり着こうとしたところで、カナは顔を上げた。

「あのオヤジとヤらなくてすんだってことは、どうせ清めなくてもいいんだから、もっと気持ちい方がいいか」

「え?」

「そうだ、どうせだったらクラブ行こう」

 アタシは、カナと続きができるならなんでも良かった。

 カナはS女子校の制服を脱いで、カラオケボックスの外に私服をとりに行って着替えた。バーバリーブルーレーベルのワンピだ。

 カラオケボックスの近くのコインロッカーを、アタシたちはクローゼット代わりにしていて、そこにいつもS女の制服と、制服指定のない都立に通うときに着てる、なんちゃって制服、それから完全な私服を入れ替えておいている。

 バーバリーチェックのノースリーブワンピは本当に他の子と被りまくるアイテムだけれど、カナが着ると他の子とはぜんぜんちがう。
 ワンピースに着替え終えると、仕上げみたいに、その白い指にシャネルのカメリアリングをはめた。

 大きな白いセラミックの花がついているリングは、最近のカナのお気に入りで、カナの手タレみたいなほっそりとした指を引き立てた。

 ああ、やっぱりカナは完全体なんだとアタシは思う。

 アタシもどこの店だったかは忘れたけどマルキューで買った、ベトナム刺繍の入ったホルターネックのワンピを着た。それで、まだ少し夜になると外は寒そうだったから、上から白いレースのカーディガンを羽織った。

 そしてアタシたちはカラオケボックスを出て、クローゼット替わりに使っているコインロッカーに都立高の制服っぽい服と、S女の制服を両方しまうと、スペイン坂の途中にあるクラブに向かった。クラブは地下一階にあって、狭い階段を潜ると大音響でドラムンベースが鳴り響いていた。

「ていうか、ドラムンベース流行りすぎじゃない? 聞き飽きたよ」

 カナはそう言ったけど、軽やかに踊りはじめた。

 そして、カナはフロアにいた大学生っぽいグループの間をすり抜けて、踊りながらバーカウンター方へ歩いていった。まるで森の中を駆けていくカモシカのようだった。

 カナはカウンターでマティーニを二つ頼む。

「えー、マティーニは辛いよ」

 アタシがそう言うと

「ダメだよ。これから、気持ちよくなるにはマティーニぐらい強いのが必要なんだ」

 カナがそう返すとまもなく、カウンターからちょうど頼んだマティーニが出て来る。カナはカクテルグラスの中の透明な液体を一気にあおった。そして、最後にグラスの中に沈んでいたドライオリーブを、バーガンディー色の唇でしゃぶった。

「ミヨリもはやく」

 カナに急かされて、アタシも覚悟をきめてマティーニを一気飲みした。熱いお酒が喉の奥を燃やしていくようだった。

 フロアはさっきのドラムンベースの曲が終わって、もっとサイケデリックな曲がかかっていた。ビートに乗って、アルコールが回っていく。アタシはカナの姿を追う。アルコールと激しいビートの中で見るカナは、ああ、やっぱり完全体だと思う。

「ねえ、君もゴアトランス好き?」

 アタシはカナのことだけ見ていたいのに、チャラい感じの大学生っぽい男が声をかけてきた。でも、アタシは無視してカナの方だけを見つめつづけた。

 カナにも同じように大学生ぐらいの男が声をかけている。カナはアタシとちがってちゃんと相手してやってるけど、アタシはつまらない男にカナがとられてしまうんじゃないかと思って気が気じゃなかった。でもカナはちゃんとうまくあしらって、そいつはだんだん離れていった。良かった。

 気づくとフロアには、ずいぶん人が増えていた。

 耳に入った話だと、自由が丘で人身があって東横線が止まっているんだそうだ。時間つぶしにクラブに来た人で溢れかえりはじめていた。

 すると、カナがアタシの耳元でささやいた。

「マティーニとトランスでじゅうぶん気持ちよくなったし、続き、しよ?」

 カナがアタシの手をひいて連れて行ったのは女子トイレだった。

 二人で同じ個室に入るとお互いを激しく求め合った。

「ミヨリ、ヤバいよ、もうびしょびしょじゃん」

 アタシを責めるように、カナがささやく。

「だってカナがさっき途中でやめちゃうから、お酒と音楽で。……あっ、あん」

 アタシの息をカナがキスでふさいでから

「でもボクもヤバイ。もう踊っている間、どうにかなりそうだった」

 と言って、アタシたちは指と舌で、お互いの体を深く絡め合った。

 フロアの照明がドアの隙間から漏れてきていて、天井に映っていた。オーロラみたいだとアタシは思った。

 そうしている間、アタシはとろけそうになりながら、カナに言った

「はあっ、……んっ、さっきね、あのマサとか言うオヤジが、あっ、アタシたちのことを天女とか言ってたけど、アタシのことは知らないけど、カナは天女だと、思うの」

「はあっ、どうして……? 天女はこんなところで、こんなことしないよ。んっ、ふう」

「でも、カナは綺麗。すごく綺麗。あっ、あっ」

「でも、さっきね、ボクとミヨリが、同じ場所に描かれた天女だって言ってもらえたのは、あっ、単純に嬉しかったよ。ボクとミヨリは二人で一人なんだ。はあっ…、はあっ、ボクとミヨリは、あっ、あっ、互いが、互いの片割れなんだ」

 その言葉が嬉しくて、泣いてしまった。体じゅうがじんじんして、味わったことのない感覚に包まれながら、涙を流していた。


●一九九七年(平成九年) 五月二十六日 世良田美頼の日記

 学校は好きじゃない。

 カナが見せてくれるものに比べて、何もかもがダルい。

 でも、カナと出会えたこと、それだけはこの高校に通っていて唯一いいことだったかもしれない。

 中学のとき、同じクラスだったフカガワタマキが、もうずっと無視しているのに今日もしつこく話しかけてきた。本当にあのデカ女はうざい。

 中学のとき、アタシはデブだった。その上、運動神経が鈍いから動きもトロくて、天然とか言われていた。

 天然なんて、ぜんぜん褒め言葉じゃない。

 クラスのみんなにアタシは見下されていたんだと思う。

 だから、アタシは変わりたかった。高校に入ってダイエットした。ダイエットなんてどうやればいいんだか分からなかったけど、ともかく食べなきゃいいんだと思った。

 やせたらきっと強くなれる。

 デブはクラスの中で自動的にダサくて地味な方のグループに入る。イケてる方のグループに入ったところで、せいぜいお笑いポジションしかない。だから、アタシはやせるまで友達を作らないってきめた。

 だから一学期の間に頑張ってやせて、夏休みが明けたころ、話しかけて来たのが、クラスでちょっと浮いてたカナだったんだ。カナはアタシに街へ出ることを教えてくれた。

 渋谷に行って、マルキューを見て回って、プリクラを撮って、お金が足りなくなったら援交する。

 カナは、ココナツ色に肌を焼いて、金髪にしたコギャルじゃなかった。コギャルみたいな量産型はつまらないと言った。

 最初、そう聞いたとき、アタシはリョウサンガタって言葉が頭の中で、漢字にならなくて、ぼんやりしてしまった。カナは本もよく読む。

 援交と言っても、ぜんぶがぜんぶエッチしなきゃいけないわけじゃない。ファミレスで食事したり、カラオケに行ったりするだけでお金をくれるオヤジもいる。でもそれだけじゃ欲しいものを買うのにはぜんぜん足りなくて、ブルセラに行って、靴下とか売りはじめた。靴下からパンツになって、もうパンツ売っちゃったんなら、エッチしちゃった方がいいんじゃないってことになった。

 だけど、アタシはやっぱり、知らないオジサンと裸になって抱き合って、そのオチンチンを体の中に入れることにはすごく抵抗があった。

 でも、カナはそれは特別なことじゃないよ、って言った。

「昔の日本では、夜這いっていう文化があってね、女の子は初潮をすぎたら、いろんな人とセックスしたの。結婚しても、旦那さん意外の人とも。特にお祭りの日とか、開放的になっていろんな男性とやるものだったんだ。高校生だから純真でいなきゃとか、そんなの戦後の一時期だけの価値観だよ。生まれた子の父親が誰か分からなくても、その家の子として、村の子として育てたんだ」

 それが、一年の三学期で、アタシは処女だったから、はじめての人とする前にカナとエッチの練習をした。

 そう、エッチしないのは、エッチできないこと。

 それはモテないってことで、超ダサいんだ。

 最近カラオケボックスでよく聴く、SPEEDはアタシたちよりも、みんな年下で、去年デビューしたときは一番年下の、島袋寛子なんて小六だったけど、デビュー曲の「Body & Soul」がセックスの歌だってことぐらいはアタシにも分かった。

With a sweet love affair
Words are not enough
Don't be afraid painful action
Let's go into our inside, together

身体と心! Take off all clothers
身体と心! Take courage

 中学生の子たちが、セックスについて歌っているような世の中なのに、本当、処女のままなんて、たしかに超ダサいと思った。

 はじめての相手は四十ぐらいの優しそうな人だった。なにをしている人なのかは知らない。でも、やっぱり怖かったし、終わってカナのところに戻ったときに自分が汚れちゃったような気がしてさみしくて悲しかったら、カナが優しくキスしてくれた。そのときから、援交のあとに二人で清め合う儀式をすることがきまった。

 処女は二十万ぐらいなった。本当にそんなにお金を出す人がいるんだなとアタシは驚いた。でもその二十万もすぐに、なくなってしまった。

 渋谷には欲しいものが次から次へと湧き出てくる。
 アニエスベーの時計、ジバンシーの香水、ダナキャランのワンピース、ドルガバのスカート、シャネルの財布。

 欲しいものは目まぐるしくて、時給七百円のバイトなんかいくらやったって、貯まったころには流行遅れになっちゃう。

 世の中はもうここ五年ぐらい不景気で、大学生になったら就職活動が大変らしい。

 楽しいのは今だけ。

 カナも言ってるし、テレビで取材されてた女子高生たちもみんなそう言ってた。

 だいたい、ハタチすぎたらババアなんだ。

 だから、今をうんと楽しむためにはどうしたってお金が必要なんだ。

 休み時間、うざいタマキを無視していたら、カナが「話がある」って言ってきた。

 それで二人になりたいって言って、廊下の一番端の窓際に連れて行かれた。ウチらの少し上の世代がすごく生徒数が多かったから、一番端の教室は空き教室になっていて、あんまり人が来なかった。

「金曜日、クラブに行ってたときさ、自由が丘で人身があったって言ってたじゃん。あれ、その直前にウチらが会ってた、オヤジのマサさんだったんだ」

「えっ?」

「マサさんがさ、財布出して、テーブルに四万置いたときさ、財布のカード入れのところで透明になってる部分があって、運転免許証入ってたんだよね。で、チラっと本名が見えた。鈴木政男って平凡すぎて、日本中にどれくらいいるんだろうなって思ったからさ、覚えてた。で、自由が丘で人身があって五十代の男性が死亡っていうニュースを土曜日に見た。次の日の新聞に、蒲田の鈴木政男さんっていう人のお悔やみが載ってたんだ。気になって、メモが残ってたから金曜日に伝言ダイヤルで聞いた携帯番号に電話してみた。そしたら、奥さんと思われる女の人が出て、泣きながらマサさんは死んだって言われた。取引先のフリして聞いてみたら、やっぱり金曜に自由が丘で電車に飛び込んだって」

「……そうだったんだ」

 マサさんがガラステーブルに四万円置いたときの、泣きそうな、でもすっきりしたような顔を思い出した。

「マサさん、町工場の社長だったみたい。でも不景気で会社倒産させたばっかで、奥さんね『真面目な人だったのに』とか言ってた。真面目にやってきたのに、会社倒産させちゃって、ヤケ起こして悪いことしてみようって、ウチらと援交しようとしたんだけど、やっぱりできなくて、自殺した、そんなところだと思う」

 話の深刻さの割にカナの声は乾いていた。

 アタシはなんだか寒くなっていた。血の気がひくっていうのはこういうことを言うんだろう。アタシたちのうちのどちらかとエッチしていれば、マサさんは死ななかったんだろうか、それとも同じだったんだろうか。

 そして、エッチしてから死んだんだったら、感じ方がちがっていたのかもしれない。セックスはその人の心がアタシに乗り移ってくる。乱暴な人の心、優しい人の心。いくらお金のために、あっさりすませそうとしていても、そこからまのがれない。

 きっとマサさんとエッチをしていたらわんわんと泣いていただろう。
「マサさんが自殺したのはアタシたちのせいかな」

 アタシがそう言うと、カナは

「ちがうよ。ミヨリ、マサさんが死んだのは、弱かったから。それ以上でもそれ以下でもないんだ。マサさんは弱かったから、ウチらの中に勝手に天女を見てそこに逃げた。そして人生からも逃げた。それだけだよ。死にたいやつは死ねばいい。弱いやつは淘汰される。これからの時代は強いやつしか生き残れない。知ってる? イタリアの自殺研究家のモルセッリという人は、『自殺は自然界の生存競争において心身に不完全な点のある人が消滅する自然淘汰の一手段である』って言ったの。だから弱いやつが勝手に死んだだけ」

 と言った。

「なんかそれ、冷たいよ。マサさんはアタシたちの中に子供のころに見た天女を見たんだ。救われたかったんだ。そんなふうに突き放したら、かわいそうだよ」

 アタシはそう言うと、カナは笑った。そして私をハグした。

「そうだね。ミヨリは優しいね」

 カナは相変わらず、ディオールのドルチェヴィータをつけていて、いい匂いがした。

 これからの時代は強いやつしか生き残れない。こないだ似たようなことをテレビでも言っていた。時代は変わる、新しい時代についていけない人はこぼれ落ちるしかないんだと。

 でもカナは強い。

 完全体なのだから。

 カナと一緒にいればアタシは負けることはないんだ。

本文:ここまで

 次回はこちら:第五回

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読者の皆様へ:

※この話はフィクションであり、現実の人物、団体、施設などとは一切関係がありません。

※警視庁の鉄道警察隊に渋谷分駐所は存在しません。渋谷駅、及び周辺でトラブルにあった場合は、各路線の駅員、ハチ公前の駅前交番、渋谷警察署などにご連絡ください。

※現在では、一九九九年に成立した児童買春・児童ポルノ禁止法において、
性的好奇心を満たす目的で、一八歳以下の児童と、性交若くは、性交類似行為を行った場合、
五年以下の懲役若くは五百万円以下の罰金、又はその両方を併科されます。
本作品は、こういった違法行為を推奨、若しくは擁護するものでは決してありません。


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