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『ホーソン効果』。身体活動量は測定意識だけで増大する

📖 文献情報 と 抄録和訳

ウェアラブル活動量計の有無が歩数に与える影響について

📕Tayler, William B., et al. "The Effect of Wearable Activity Monitor Presence on Step Counts." American Journal of Health Behavior 46.4 (2022): 347-357. https://doi.org/10.5993/AJHB.46.4.1
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※ Connected Papersとは? >>> note.

🔑 Key points
🔹運動する時間を増やし、運動不足を解消するための方法は、考えているよりもずっと簡単だという研究を、米国のブリガムヤング大学が発表した。ただ歩数計を持ち歩くだけで、たとえその画面を見なくても、以前よりもたくさん歩くようになるという。
🔹運動量を増やしたいと思っている人は、まずは歩数計や活動量計を持ち歩く習慣を身に付けることが重要だとしている。
🔹毎日の歩数などをカウントし、少しずつでも運動の量と強度を高めていくと、糖尿病・高血圧・肥満・睡眠時無呼吸症候群など、多くの慢性疾患のリスクを減らせる。

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[背景・目的] 本研究では、ウェアラブル活動量計とトラッキングが身体活動に及ぼす影響を2週間にわたり検証した。

[方法] 90名の若年成人が参加した。研究開始前に、各参加者は身体活動レベル(歩数)をトラッキングするiPhoneアプリをダウンロードするよう求められたが、アプリの目的は告げられなかった。次に、参加者を次の3つのグループにランダムに割り付けた。

(1) 測定意識群:歩数の測定を知っているだけで、歩数などのデータを見ないグループ
(2) 測定意識+記録群:測定について知っていて、歩数などもチェックするグループ
(3) コントロール群:そもそも歩数が測定されていることを知らないグループ(対照群)

■ 対照群において歩数は測りつつも非計測意識をつくる方法
対照群は、アプリをダウンロードした後、介入群には歩数計が渡されることで、「ああ、あれで介入群は歩数を測るのね」と認識し、「逆にいえばそれを渡されていない自分は測られていないのね」という非計測意識をつくり出すことに成功している。

測定意識群と測定意識+記録群の参加者には歩数計が配布され、2週間装着してもらった。さらに、測定意識+記録群の参加者には、毎日の歩数を記録し、2週間後にその記録を提出するように指示した。対照群では、歩数計は配布されず、歩数の記録も求められなかった。

[結果] 測定意識+記録群は、1日の歩数を増やしたが、測定意識群でも、1日の歩数を平均して388歩(SE=-186.9)増やした(p<.05)。

[結論] ウェアラブルモニターは1日の歩数を緩やかに増加させる。多くの人は、自分の行動が測定され監視されていると感じると、それに反応する傾向がある。測定されていることを重要と感じやすいからである。しかし、本研究では、毎日の歩数を記録することを追加しても、さらなる利点は得られないようである。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

これまでにも、身体活動量を計測することの威力は報告されてきた。
それは、ホーソン効果、という理論に裏打ちされる。
ホーソン効果とは、「モニターされていることを意識すると行動が変わる」という効果だ。

✅ ホーソン効果とは?
・「ホーソン効果」とは、人は一般に注目されることを好み、特別な扱いを受けると、さらに成果を上げようとする傾向があること。
・米国シカゴにある電機メーカーのホーソン工場で、1924年から8年間にわたり行われた「ホーソン実験」によって発見された効果。
・照明を明るくするなどの物理的な労働条件よりも、注目されている意識や親密な人間関係が生産性の向上につながることが判明し、現代の組織研究のきっかけにもなった。

🌍 参考サイト >>> site.

先行研究では、身体活動量計を用いたRCTにおいて、介入群、非介入群ともに身体活動量が増した(📕Turunen, 2020 >>> doi.)。
すなわち、身体活動量計を装着→「身体活動量がモニターされるのだ」と意識することで、身体活動量の増大に向けた行動が促進されたわけだ。

だが、この身体活動量計を装着することの効果を、真に明らかにすることはできないだろうと思っていた。
なぜなら、非計測意識をつくり出すことができないからだ。
「自分はいま歩数を計測されている」と思っていない状態をつくることは、歩数計を渡した段階で不可能になる。どこまでいってもバレてしまうのだ。
驚いたことに、今回の研究では、携帯アプリと歩数計を2段階配布することで、うまいこと非計測意識を持たせることに成功していた。
目的に対する方法が秀逸な研究だ。

その結果は、やはり測定意識をもつことが、身体活動量の増大にとって重要であることが示唆された。
やはり、「測ることは育むこと」である。

人間社会においては、測定される対象のほうも、測定のために取り出され注目されるという事実のために、新たな価値が加えられる。いかに科学的に処理しても、管理のために特定の現象を抽出するという行為そのものが、現象の重視を表明したと同じ効果を持つ。管理のための測定を行うとき、測定される対象も測定する者も変化する。測定の対象いは新たな意味と新たな価値を賦与される。したがって管理に関わる根本の問題は、いかに管理するかではなく何を測定するかにある。

ドラッガー「マネジメント」

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