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Intrinsic capacity。WHOが定義した内在的能力とは?

📖 文献情報 と 抄録和訳

高齢者における内在的能力の定義と評価:システマティックレビューとスコアリングシステムの提案

📕López-Ortiz, Susana, et al. "Defining and assessing intrinsic capacity in older people: a systematic review and a proposed scoring system." Ageing Research Reviews (2022): 101640. https://doi.org/10.1016/j.arr.2022.101640
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※ Connected Papersとは? >>> note.
✅ 前提知識:内在的能力(intrinsic capacity, IC)とは?
・世界保健機関(WHO) によると、機能的能力は、内在的能力 (IC; 「個人のすべての身体的および精神的能力の合計」として定義)、環境に関連する特性、および個人とこれらの特性の間の相互作用でそれぞれ構成される(📗WHO, 2015 >>> book.)。
・さらにWHOでは、内在的能力を、個人の身体的、精神的(心理社会的能力を含む)能力、機能的能力の組み合わせと定義し、5つの内在的能力を特定している。その5つは、(i)認知、(ii)心理(気分、社会性を含む)、(iii)感覚機能(視覚、聴覚を含む)、(iv)バイタリティ(恒常性調節、すなわちエネルギー摂取とエネルギー利用のバランス)、(v)移動能力(筋肉機能を含む)。(📕Cesari, 2018 >>> doi.)
・2017 年、WHO は革新的なアプローチである Integrated Care for Older People (ICOPE) を提案した。これは、IC を改善して健康な老化を達成することに焦点を当てたもの (📕World Health Organization, 2017 >>> pdf.)。

【Ageing Research Reviews】López-Ortiz, 2022:高齢者における内在能力の定義と評価:システマティックレビューとスコアリングシステムの提案_サムネイル

🔑 Key points
🔹WHOは、健康的な加齢の指標として「内在的能力」(IC)を定義した。
🔹ICの定義については、研究によって評価方法が大きく異なるものの、全体的なコンセンサスは得られている。
🔹ICの様々な側面を考慮したグローバルな能力スコアの妥当性を検証する必要がある。

[概要] 世界保健機関は、健康的な加齢の指標として「内在的能力」(IC)という言葉を導入している。しかし、ICの定義と評価については論争が存在する。我々は、高齢者におけるICの定義と評価方法について検討することを目的とした。さらに、新しいICのスコアリング方法を提案した。

[方法] PubMed, Web of Science, Cochrane Library, Scopus, SPORTDiscus(2022年2月10日まで)において、高齢者(60歳以上)のICを評価する研究について系統的な検索を実施した。

[結果] 33件の研究が含まれた。ICの定義や、運動、活力、感覚、認知、心理という異なる次元については全体的なコンセンサスが得られている。しかし、これら5つの次元の評価方法は研究によって大きく異なり、すべての異なる次元を考慮してICを評価するための最終的なグローバル複合スコアを計算するための最良の方法についてのコンセンサスは得られていない。

[結論] ICは臨床的に非常に重要な概念であるが、残念ながら十分に活用されていない。我々は、0(最悪)~10(最高)のグローバルスコアによる、ICの各次元の評価の標準化を提案する。

✅ 提案されたスコアリングシステムの概要
・0 (考えられる最悪の IC) から 10 (最高) までの範囲
・0 ~ 2 の範囲を確立して、5 つの次元すべてに均等に重みを付け、それぞれの状態を階層化する
・0 = 著しく障害、1 = 部分的に障害、2 = わずかに損傷している or 完全に保存されている
・提案されたテスト (認知、MMSE、活力、MNA、感覚、自己申告の問題、心理学、CSDD、運動能力、 SPPB) と、各次元の評価と層別化に使用されるカットオフポイントが提案されている

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

まず、内在的能力という概念を初めて知った。
これは、高齢者の全般的な健康状態を指し示す指標と理解したが、そもそも、どうしてこのような指標が必要となっただろう?
背景を理解したいと思った。
勉強したところ、以下のような背景があるようだ。

・WHOにとってヘルシーエイジングとは、病気のない人生ではない(病気は何歳になっても起こりうる)
・ヘルシーエイジングとは、「高齢期のウェルビーイングを可能にする機能的能力を開発し維持する過程である」と考えている
・しかし、現在のヘルスケアシステムは、生涯にわたって人々のIntrinsic Capacities (I.C) を維持するために組織されているのではなく、急性疾患のエピソードを特定し治療するために組織されている。
・急性疾患中心の医療から、Healthy Ageingを実現する統合医療への転換が急務となっている。
・そこで2017 年、WHO は革新的なアプローチである Integrated Care for Older People (ICOPE) を提案した。これは、IC を改善して健康な老化を達成することに焦点を当てたもの

すなわち、病気が起こってから立て直すのではなく、常に健康状態を改善して、健康な老化を達成しようという意図があるようだ。
そのための指標として、「病気か病気でないか」ではなく、「どの程度の健康状態か」を測れるようにICを整えつつあるということ。

"if you cannot measure it, it does not exist."
測定できないものは存在しないのだ

ブレネー・ブラウン

この言葉が指し示すように、ICスコアリングシステムのような具現化されたスコアがなければ、自分自身が「どの程度の健康状態か」は存在しえず、意識することもできない。
だが、10点満点のスコアリングとして存在することで、健康状態が目に見えるようになる。
そうすると、他者と比較したり(例. あの人より健康だわ)、自分の経時的に比較したり(例. 1ヶ月前より健康だわ)、基準値と比較したり(例. 死亡リスクの基準値より健康だわ)、といった『比較』が生まれる。
比較が生まれると、「高い」「低い」「良い」「悪い」「嬉しい」「悔しい」といった『価値』が生まれる。
測定は比較をつくり、比較は価値を生む。
そして、その価値が、人間を行動に駆り立てるガソリンとなる
WHOがつくろうとしているものは、とても大きいものなのかもしれない。

評価することが、創造することなのである
よく聞きなさい、あなたがた創造する者よ!
評価そのものこそ、この世で高く評価され珍重される宝にもまさる宝である
評価によってはじめて価値が生じる
評価がなければ、存在の胡桃はうつろであろう
よく聞きなさい、あなたがた創造する者よ!
もろもろの価値の変化
ーそれは創造者が変化するからである
創造者になる運命を持った者は、常に破壊せずにはやまない

ニーチェ ツァラトゥストラ

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