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脳卒中者の歩行の振り出し:味方が弱い?敵が強い?

▼ 文献情報 と 抄録和訳

片麻痺歩行の遊脚相に沿ってモニターされた足首のアゴニストとアンタゴニストの活性化

Ghédira, Mouna, et al. "Agonist and antagonist activation at the ankle monitored along the swing phase in hemiparetic gait." Clinical Biomechanics 89 (2021): 105459.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識;アゴニストとアンタゴニストとは?
アゴニスト Agonist:当該関節運動の主導筋 >>> 例. 足関節背屈に対するアゴニストは前脛骨筋
アンタゴニスト Antagonist:当該関節運動の拮抗筋 >>> 例. 足関節背屈に対するアンタゴニストは下腿三頭筋
✅ ハイライト
- 歩行時の足関節周辺におけるアゴニストとアンタゴニストの活性化の特徴
- 片麻痺では、スイング時に下降指令が足関節の拮抗筋に誤導される
- 下腿三頭筋の痙縮性共収縮により、能動的背屈がますます阻害される
- 標準化された前脛骨筋のリクルートは、麻痺した脚では障害される
- 前脛骨筋の活性化を高めても、能動的背屈の矯正には不十分である

[背景・目的] 脳卒中片麻痺者の下降指令は、アゴニストには減少し、アンタゴニストには誤導される。歩行の遊脚相に沿ってアゴニストとアンタゴニストの活性化をモニターし、麻痺脚と非麻痺脚を比較した。

[方法] 慢性片麻痺の成人42名を対象に,前脛骨筋,ヒラメ筋,内側腓腹筋の両側筋電図を用いた歩行分析を行った。前脛骨筋のアゴニスト活性化、ヒラメ筋と腓腹筋のアンタゴニスト活性化の係数を、遊脚相の3分の1の時間帯で測定した(T1, T2, T3)。これらの係数は、ある筋の任意の期間における二乗平均平方根のEMGと、同じ筋の最大随意等尺性収縮の100msにおける二乗平均平方根のEMGとの比として定義された。

[結果] 関節運動においては非麻痺側と比較して、麻痺側では足関節の背屈と膝関節の屈曲が減少した(P<1.E-5)。次に、筋活動においては非麻痺側と比較して、前脛骨筋のアゴニスト活性化係数(+100±28%、P<0.05)、ヒラメ筋のアンタゴニスト活性化係数(+224±41%、P<0.05)、内側腓腹筋のアンタゴニスト活性化係数(+276±49%、P<0.05)が高かった。麻痺側では、前脛骨筋のアゴニスト活性化係数はスイング中期から減少し、ヒラメ筋と内側腓腹筋のアンタゴニスト活性化係数は増加し、スイング後期には足関節の背屈が減少した(P < 0.05)。

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[解釈] 片麻痺のスイング段階では、正常化された前脛骨筋の活動は非麻痺脚よりも高く、足底屈筋の著しい活動の増加(共縮)を補うことができない。この状況は、膝の再伸展時の腓腹筋の伸展に関連していると思われる足底屈筋の活性化の増加と並行して、前脛骨筋の加入量が減少することにより、スイングに伴って悪化する。

▼ So What?:何が面白いと感じたか? 

脳卒中者の振り出しは問題となりやすい。トゥークリアランス(地面から足を離す)が不十分となり、つまづき、転倒の原因となる。
その代表的な要因の1つが「足関節背屈筋の筋力が弱い」である。
多くの場合、足関節背屈筋が、足関節底屈筋より大きな障害を受ける。
それに対して、これまで介入の主眼が「弱い背屈筋を強くする」に偏っていた。
随意運動を繰り返す、電気刺激を並行した筋トレを行う、歩行中にも電気刺激を加える・・・、など。

ただ、このトゥークリアランスが低下するという現象をグッとヒキでみたときに、足関節背屈という運動が起こらない理由として、「味方(背屈筋)が弱い」の他にもう一つ、「敵(下腿三頭筋)が強い」があることに気がつく。
今回の論文が明らかにしたのはこの部分で、結論としては「敵が強い」の影響が結構大きそう、だ。
戦いに勝つ方法は、味方を強くすることだけではない。
敵を弱くすることも、立派な戦略であると心得たい。

お前を殺すために、お前より強くなる必要はない
お前を弱くすればいいだけの話
お前が生きるために手段を選ばないように
私も・・・、私たちもお前を殺すために手段を選ばない

鬼滅の刃 珠世

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