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施設入所者の実際。2年後の自立歩行維持者は○%

📖 文献情報 と 抄録和訳

施設入所高齢者における歩行時のモビリティとモビリティ低下の発生率および危険因子:2年間の縦断研究

de Araújo, José Rodolfo Torres, et al. "Mobility during walking and incidence and risk factors for mobility decline among institutionalized older adults: a two-year longitudinal study." Archives of Gerontology and Geriatrics (2022): 104702.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

🔑 Key points
-施設に入所しているブラジル人高齢者の移動の軌跡はダイナミックである。
-83歳以上と入院は移動能力低下の危険因子である。
-83歳以上の高齢者では、歩行能力の回復の可能性が低下している
-施設に入所している高齢者にとって、自立した移動能力を維持することは困難である。
-多職種が連携し、障害予防に努める必要がある。

[背景・目的] 施設入所高齢者の歩行時の移動能力の変化(維持と回復)の軌跡を分析し、移動能力低下の発生率と危険因子を検証すること。

[方法] Natal-RN(ブラジル)の10の介護施設に入所している60歳以上の358名を対象に、2年間の縦断的前向き研究を実施した。移動度はBarthel indexの「歩行」項目を用いて評価した。ベースライン時の社会人口統計学的変数、施設関連変数、健康関連変数が考慮された。ポアソン回帰を用いて多重モデルを構築した。

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✅ 図1. 歩行時の移動の軌跡を把握するための3つの段階の理論モデル。段階が上がれば改善となる。

[結果] 歩行時の移動性低下の発生率は、12ヵ月後には10.6%(95%信頼区間[95%CI]=7.4~13.8)、24ヵ月後には37.7%(95%CI=18.0~26.6)であった。年齢83歳以上(相対リスク = 1.58; 95% CI = 1.24 to 2.02; p < 0.001) および入院(相対リスク = 3.16; 95% CI = 1.55 to 6.45; p = 0.002) は移動能力低下の予測因子であった。自立歩行の維持率は12ヵ月後に31.8%(95%CI = 31.8 to 42.9)、24ヵ月後に23.2%(95%CI = 26.8 to 38.5)であった。また、回復の割合は12ヵ月後に2.5%(95%CI = 1.0 to 5.0)、24ヵ月後に1%(95%CI = 0.2 to 2.6)であった。

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✅ 図2. 本研究と地域在住高齢者(別研究)における歩行自立維持率の推移
📕地域在住高齢者:Ahmed et al. Journal of the American Medical Directors Association 20.10 (2019): 1199-1205. >>> doi.

[結論] ブラジル北東部の施設入所高齢者の歩行時の移動能力の軌跡は動的であり(すなわち、24ヶ月後に移動能力低下の発生率が増加する)、高齢および入院と関連していた。歩行能力の回復の可能性は低く、自立した移動の維持は困難である。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

「病院はいいよ。三度三度のご飯は黙ってても出てくるし、洗濯もする必要がないし。天国だよ。ああ、帰ったら不安だなぁ」

だから、いいんだよ。
三度三度のご飯が出てこないから、
洗濯する必要があるから、
天国ではないから、
だから、いいんだよ。
施設入居者は、あらゆる介護度において身体活動量が低いことが示されている(📕Mc Ardle, 2021 >>> doi.)。
生活の中で、機能需要に晒されていない高齢者の歩行能力が低下しやすい。
しごく、納得のゆく話だ。

流水濁らず。
老兵老いず。兵である限りにおいて。
錆びることを防ぐには、稼働を続けること、回り続けること、止まらないこと。
在宅復帰しないということは、
安全と引き換えに、「使用」を手放すこと。

これは、全医療者が、肝に銘じておくべきことだと思う。
在宅復帰を選択しないことは、生活環境の選択において、非常に大きなことだと。
人間は、守るほど弱くなり、晒されるほど強くなる。
が、晒されると、全員は救われない。

ところで、危険が全くない中に、成長とか、革新とかってあるのだろうか?
少なくとも、経験は少しずつ奪われている。
いま、危険な遊具や、授業科目が絶滅しているように。
最近、遊具の周りにだけ柵がされた公園を見た、親はその柵の周りから子どもを見ているという光景・・・。
うまく言えないのだけれど、気持ち悪かった。
「養殖」?
僕たちは、何かに養殖されつつあるのかもしれない。

安全と危険、安全圏と安全圏の外。
パラドックス。
弊害を無くし切ろうとすると、それが弊害となる。
環境を選んだり、つくったりすることは、なんと難しいことか。
その狭間で、僕たち理学療法士には、何かができると信じる。

近代科学の抱いている目標は、できる限り微かな苦痛、できる限り長い生命
ニーチェ
すべてはじめは危険だ
しかし、とにかく始めなければ始まらない

ニーチェ 人間的な、あまりに人間的な

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