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アームスリーブの威力。脳卒中後の肩脱臼予防効果

📖 文献情報 と 抄録和訳

亜急性期脳卒中患者におけるライクラ製アームスリーブの受容性:患者、介護者、臨床医の観点からの検討

📕Kumar, Praveen, et al. "Acceptability of Lycra arm sleeve in people with sub-acute stroke: patients’, carers’ and clinicians’ perspectives." Physiotherapy 118 (2023): 31-38. https://doi.org/10.1016/j.physio.2022.08.002
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📗 ライクラ製アームスリーブの効果, Mini review
■ 研究❶ 健常者を対象とした研究において、アームスリーブを装着しない場合と装着した場合のAGT距離(acromion-greater tuberosity [AGT] distance, 肩峰-大結節距離)測定値(t = 5.112, df = 30, P = 0.003)および肩甲骨測定値(0.3 cm; 95% CI, 0.04-0.4 cm; t = 2.501, df = 30, P < 0.01 )において平均 0.12 cm(95% 信頼区間 [CI], 0.07-0.16 cm)の有意な減少が認められた(📕Kumar, 2020 >>> doi.)。
■ 研究❷ 脳卒中者を対象とした研究において、AGT距離の測定において、平均0.13cm(95%信頼区間、-0.01~0.28cm)の減少が見られたが、これは統計的に有意ではなかった(t = 3.503, df = 5, P = 0.062)。肩甲骨下部の測定では、平均1cm(95%信頼区間、0.07~1.92cm)の減少を示し、これはスリーブを装着しない場合と装着した場合を比較すると統計的に有意だった(t = 2.781; df = 5, P = 0.039)(📕Kumar, 2022 >>> doi.)。

[背景・目的] これまでの研究で、ライクラスリーブは脳卒中患者の肩甲上腕亜脱臼を軽減する可能性があることが判明している。本研究の目的は、脳卒中の亜急性期におけるライクラスリーブの患者、介護者、スタッフの認識から、ライクラスリーブの受容性を調査することであった。

[方法] 18歳以上の片麻痺と肩外転筋力が3以下(Medical Research Councilスケール)の脳卒中生存者で、インフォームドコンセントを提供できる人を、医学的に安定した時点で募集した。患者は3ヶ月間、1日10時間までライクラ製スリーブを装着した。スリーブ装着後3ヶ月に、装着直後群、装着遅延群、医療スタッフに対してアンケートを実施した。

[結果] 27人の患者(即時群(n = 19)、遅延群(n = 8))、23人の介護者/家族、36人の医療スタッフ(看護師(n = 10)、看護助手(n = 5)、理学療法士(n = 10)、理学療法助手(n = 3)、作業療法士(n = 8))がアンケートに回答した。複数のスタッフが複数の患者について報告した結果、いくつかの質問に対して看護スタッフからは最大で37の回答が、治療スタッフからは46の回答があった。27名の患者のうち、全員がスリーブの快適さを実感していた。スリーブ装着にかかる時間は平均2~5分であった。スリーブは、患者(96%, n = 24/25)、介護者/家族(96%, n = 21/22)、看護師(92%, n = 34/37)、治療者(91%, n = 41/45)から日常生活で受け入れられると報告された。

[結論] ライクラスリーブの装着は、日常生活活動/リハビリテーション中の患者にとって容認できるものであった。しかし、臨床の場で日常的に使用する前に、スリーブの有効性に関する研究が必要である。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

近年、publishされた3本の論文のミニレビューのような形になった。
脳卒中者の肩の亜脱臼、痛みは臨床上しばしば出くわす症状だ。
それに対してできることの1つの解決策が示された。
それが、『アームスリーブ』の装着だ。

だが、これをみたときに感じたことがある。
「上腕と前腕にしかかかっていないのに、どうして肩関節に影響が及ぼせるの?」ということ。
これには、大きく2つの仕組みがあるように思われた。

まず、神経生理学的な仕組み。
1つの筋収縮のスイッチは、ただ1つの筋にリンクするのみでなく、複数筋にリンクしている。
そのスイッチによる複数筋の筋活動は、筋シナジーと呼ばれたりする。
前腕や上腕筋の圧迫→押されるスイッチは、肩関節周囲筋のスイッチも押しうるかもしれない。

次に、運動連鎖的な仕組み。
たとえば、思いっきり握力を入れてみてほしい。
すると、上腕や肩関節周囲にも力が入ることが確認されるはずだ。
それは、上記の神経生理学的な仕組みのほかに、運動連鎖的に考えて「そうするしかない」から。
どういうことか。以下のような感じだ。

●前腕筋に思いっきり収縮が加わる
 →前腕筋の起始部は上腕にある
 →その収縮は手/手指関節のみでなく肘も動かそうとする
 →肘を固定するためには上腕部の複数の筋収縮が必要
 →上腕部の筋の起始部は肩甲骨や胸郭にある
 →その収縮は肘関節のみでなく肩関節も動かそうとする
 →肩を固定するためには肩甲帯/胸郭の複数の筋収縮が必要

上記2つのメカニズムから、前腕筋や上腕筋を活性化できれば、肩関節/肩甲帯周囲筋の活性化を促せる可能性があると納得できた。
先日、慢性疼痛は脳萎縮を引き起こすことを明らかにした文献を抄読した。

脳卒中後の回復のゴールデンタイムは概ね限定的で、よく知られるところでは、脳血管疾患の運動麻痺の改善は大部分が発症3ヶ月以内に起こる(📕Ramsey, 2017 >>> doi.)。https://doi.org/10.1038/s41562-016-0038
その最中、脳は一方的に発展すべきであって、縮こまっている場合ではないのだ。
神経回復、機能回復の障壁を取り除くという意味合いにおいて、今回のアームスリーブは、大いに役立つ可能性がある。
そして、その装着が使用者にとって、快適であることも確認された、装着時間もまあ許容範囲内だろう。
この著者がすごいと思うのは、着実に実装に向かって進んでいるところだ。
知識でやめていないところだ。
「現実を変えるまでやってやろうじゃないか」という、執念に似た熱量を感じる。
Kumar先生、ついてゆきます🏃💨

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