見出し画像

記憶力を強化する20分間の脳電気刺激

📖 文献情報 と 抄録和訳

高齢者における反復的神経調節によるワーキングメモリと長期記憶の長期的かつ解離性改善

📕Grover, Shrey, et al. "Long-lasting, dissociable improvements in working memory and long-term memory in older adults with repetitive neuromodulation." Nature Neuroscience (2022): 1-10. https://doi.org/10.1038/s41593-022-01132-3
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar, Natureハイライト(Japanese)
🌲MORE⤴ >>> Connected Papers
※ Connected Papersとは? >>> note.

[背景・目的] 高齢者の記憶を保護・増強する技術の開発は、トランスレーショナル・メディシンの永続的な目標である。何らかの情報(例えば、乗る予定の列車が発車する番線)を短時間記憶しておくためには、作業記憶が必要だが、休暇から飛行機で戻って、空港のどこに自分の車を駐車していたのかを思い出すのは、長期記憶の一例だ。作業記憶と長期記憶のパフォーマンスは、個人差が大きく、加齢によって低下する傾向がある。

[方法] 150人の参加者(65〜88歳)の作業記憶と長期記憶を改善することを目的とした実験を行った。4日連続で毎日20分間受ける反復神経調節プロトコル。参加者は、電極が埋め込まれた帽子をかぶり、20単語が列挙されたリストの読み上げを聴いた後、すぐに思い出すという課題を実行し、その際に、帽子の中の電極を通して電流を流した。このリストは、5種類用意された。Reinhartたちは、以前の研究での結果に基づいて、2つの脳領域に的を絞り、2種類の周波数の電気刺激を加えた。

スライド2

✅ 図. シータレートIPLとガンマレートDLPFC HD-tACSのプロトコルと、それに対応する電場モデルを皮質表面の3次元再構築で示した。左DLPFCと左IPLを対象とし、各プロトコルは最大限の焦点性を得るために、中心-周囲、ソース-シンクパターンで構成された9つの電極を使用した。

[結果] 下頭頂小葉に4 Hzの電気刺激を加えた場合にリストの最後の部分に含まれた単語(作業記憶に貯蔵されていたことを反映している)の想起が改善され、背外側前頭前野に60 Hzの電気刺激を与えた場合にはリストの最初の部分に含まれた単語(長期記憶に貯蔵されていたことを反映している)の想起が改善された。今回の研究の開始時に認知パフォーマンスが最も低かった参加者は、脳への電気刺激による恩恵が最も大きかった。

[結論] これらの効果が1か月以上持続するかどうか、また、こうした特異的な方法で脳疾患による認知機能障害のある人や認知症のリスクがある人の記憶機能を増強できるかどうかを突き止めるためには、さらなる研究が必要である。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

以前、薬と運動の効果についての論文を抄読した際に、『生命力パラメータ』という数値について言及した。

スライド3

✅ 生命力パラメータとは?
・全効果量に対する内発的効果の割合(%)。
・この数値が高いほど、当事者の内発的な努力によって得られた効果、当事者の生命力・力強さを向上させる介入と解釈できる
■ 内発的効果とは?
・自分自身の自発的な行動や努力によって得られた効果のこと。
・負荷に打ち勝って筋力を得ることに代表される。
■ 外発的効果とは?
・外的な操作によって得られた効果のこと。
・外科手術による効果に代表される。

今回の電気刺激による記憶力の改善は、素晴らしい効果だと心から思う。
だが、全効果量に対する、内発的効果は小さく、外発的効果が主だ。
すなわち、生命力パラメータの数値は低い。

超音波療法による温熱と組織伸張において『Stretch Window』という考え方がある。
・超音波療法によって即時的に温熱効果が得られる
・そのタイミングでストレッチをかけなければ長期的な効果は得られない
・さながら、「電子レンジで解凍しただけでは料理にならない」(by 業者)
📕 Holcomb, William R., and Chris Blank. Journal of Sport Rehabilitation 12.2 (2003): 95-103. >>> doi.

スライド4

要は、外発だけでは究極的には立ち行かない、ということ。
自ら負荷に打ち勝ち、獲得された筋肉A。
外的に、とってつけた筋肉B。
筋肉Bが真の筋肉とは、どうしても思われないのだ。
AからBを引いたあとに、何か確かなものが残ると信じたい。

外発はあくまでサポートであり、主操縦者ではないし、なるべきでもない。
その舵は、どこまでも本人が握って離してはいけない!
シンギュラリティの川を渡るには、確かな道徳/倫理観が要る。

そして、仮説に仮説を重ねるが、生命力パラメータは『喜び』と正の相関関係をもつと信じる。
例えば、いきなり甲子園の優勝旗を渡されても、誰も喜びはしないだろう。
そこに至るまでに労苦、努力、涙、叱責、敗北、勝利、生長。
走馬灯に映るべき、たくさんの映像があるから。
その優勝旗は、無限の喜びをもたらす。
Journey is rewords. (旅そのものが報酬だ) by スティーブ・ジョブズ
自分で踏み出した一歩から始まる物語にしか、喜びは湧き得ない。
外発だけから得た感情は、とってつけたような単なるエキサイト、興奮。
喜びの泉は、当人にしか掘れない、自分自身でつくるもの。
ものすごい技術力に圧倒されて、外発的に偏重しそうになった時、必ず生命力パラメータを確認したい。
いかに、内発性をもった医療を提供できるか。
その分野は、僕たちリハビリテーションの主戦場だ。
いまこそ、活躍のとき。

波の絶えず砕ける岩頭の如くあれ。
マルクス・アウレーリウス

○●━━━━━━━━━━━・・・‥ ‥ ‥ ‥
良質なリハ医学関連・英論文抄読『アリ:ARI』
こちらから♪
↓↓↓

【あり】最後のイラスト

‥ ‥ ‥ ‥・・・━━━━━━━━━━━●○

#️⃣ #理学療法 #臨床研究 #研究 #リハビリテーション #英論文 #文献抄読 #英文抄読 #エビデンス #サイエンス #毎日更新 #最近の学び

この記事が参加している募集

#最近の学び

181,931件