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ミリエン可塑性。知られざる脳卒中後、神経回復の仕組み

📖 文献情報 と 抄録和訳

脳卒中後に身体活動レベルが高い人は、健康な高齢者と同程度のミエリンパターンを示す

📕Greeley, Brian, et al. "Individuals with Higher Levels of Physical Activity after Stroke Show Comparable Patterns of Myelin to Healthy Older Adults." Neurorehabilitation and neural repair (2022): 15459683221100497. https://doi.org/10.1177/15459683221100497

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:ミリエン可塑性とは?
- ミリエンとは?:軸索はミエリン(髄鞘)と呼ばれる脂質に富んだ白い物質で何層にも取り巻かれている。ミエリン自体は絶縁体だが,神経信号を素速く伝える役割をする。軸索にはところどころミエリンの途切れた隙間(ランビエ絞輪)があり,信号はこの隙間を伝播する。
- 白質と灰白質:軸索の集まりは白く見えることから「白質」,ニューロンの細胞体(核のある部分)の集まりは「灰白質」と呼ばれる。神経科学の研究は長い間,灰白質に集中していた。記憶が貯蔵されている細胞体こそが脳の主役で,軸索はただのケーブルと考えられていたからだ。
- 近年注目されているミリエン異常:しかし近年,多発性硬化症をはじめ,ミエリン異常がかかわると考えられる病気が多数見つかった。また,経験や環境によって白質の発達に違いがあることも明らかになり,白質と学習の相関を裏付けるデータも得られている。ピアニストと一般の人の脳画像を比較したところ,プロでは特定の領域の白質が発達していることがわかった- 。
🌍 参考サイト >>> site.(図はwiki)

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[背景] ミエリン非対称比(Myelin asymmetry ratios, MAR)は、脳卒中後の運動障害や機能に関係し、寄与している。身体活動(physical activity, PA)はミエリン可塑性を誘導し、脳卒中後に生じる半球ミエリン非対称性を緩和する可能性がある。本研究の目的は、身体活動レベルが高い人は、低い人と比較して、MARが低いかどうかを調べることである。

[方法] 脳卒中患者22名と健常高齢者26名の両側運動領域5か所からミエリン水分率を測定した。72時間(3日間)手首に装着した加速度計で活動レベルを定量化した。各グループ内でクラスター分析を行い、活動レベルの高低を定義した。

[結果] 高齢者群では、PAレベルにかかわらず、MARは同程度であった。脳卒中の高PA群に比べ、低PA群ではより大きなMARを示した。脳卒中と高齢者のPA高値群では、MARに差はなかった。低PA群では、脳卒中者は高齢者と比較してMARが大きかった。腕の障害、病変の大きさ、年齢、脳卒中発症からの時間、腕の優先的な使用は、脳卒中発症群間で差がなかったことから、運動障害の重症度と脳損傷の程度がPAの差に影響しないことが示唆された。

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✅ 図. 脳卒中経験者と高齢者における身体活動(PA)群の平均ミエリン非対称比(MAR)。エラーバーは標準誤差を表す。丸印は個々のデータポイントを表す。

[結論] 脳卒中発症者で身体活動的な人は、運動領域のMARが低い(すなわち、両半球のミエリンが同程度である)。脳卒中のような神経学的障害が発生した場合、高レベルのPAが神経保護になり、ミエリンの非対称性を緩和する可能性がある。あるいは、脳卒中後に高濃度のPAを促進することで、ミエリンの非対称性を軽減できる可能性もある。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

これまで、脳可塑性のイメージは「灰白質(ニューロンのうち細胞体)」で起こる回復過程だった。

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✅ Types of Recovery
- 左端のように神経が損傷されると、以下の3つの様式で新たなシナプス結合ができる
- ①損傷前には機能していなかったシナプス結合が顕在化する(Unmasking;仮面をはがされること、顕在化)
- ②新たな神経突起が発芽する(Sprouting)
- ③神経幹細胞から新たな神経細胞が生まれて置き換わること(Transplantation)
📕 Taub, Edward, Gitendra Uswatte, and Thomas Elbert. Nature Reviews Neuroscience 3.3 (2002): 228. >>> doi.
🌍 参考サイト >>> site.

だが、今回の論文を勉強してわかったのは、「ケーブル部分(ミリエン可塑性)」の重要性だった。
Taubのモデルがニューロン間の関連を説明するのに対し、ミリエン可塑性はニューロン内の機能を説明するモデルと感じた。
そして、脳卒中後には、おそらく両方のルートから回復が起こってきている。
そのミリエン可塑性の改善を高めるのに、身体活動量が重要であることが判明したということ。

さて、脳卒中改善の病態に2つのルートがあることを知って、何が変わるだろう。
直感的には大きく2つある。

▶︎①回復のゴールデンタイムが違うかも知れない
- 現在、脳卒中後の運動麻痺の神経回復のゴールデンタイムは3-6ヶ月との報告が多い
- だが、地域リハに従事したことのある職員はわかると思うが、地域でも結構改善が起こりうる
- それは、もしかしたらミリエン可塑性の改善のゴールデンタイムが長いか、かなり後半に起こるからかも知れない
- もしそうなら、脳卒中リハの土台となる考え方が全く変わってくる❗️すなわち、これまで治らないと思われていた部分が、治る人、治らない人を明瞭に把握できる可能性があるということ。
▶︎②有効な介入が違うかも知れない
- ニューロン間に変化を及ぼす介入と、ミリエン可塑性に影響を及ぼす介入は、違うかも知れない
- というか、多分違うだろう
- 課題特異性も違うだろうし、そこに響かせるための強度や頻度だって、違うだろう
- それが、モニタリングできる可能性が出てきたということ

脳卒中後のリハビリテーション、その病態レベルのターゲットが明瞭なものへと変わりつつあるかも知れない。
たとえば将来的に、その病態レベルがリアルタイムに把握できるような技術的な革新があれば、とても効果的な治療が可能になるだろうし、オーダーメイドに近づくだろう。
技術革新と医療は、唇歯補車なり。勉強しよう🏃‍♂️💨

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