見出し画像

比例回復モデルの妥当性。下肢運動麻痺回復は3ヶ月で頭打ち?

📖 文献情報 と 抄録和訳

初発脳梗塞後の下肢運動機能回復の解明

📕Lee, Hyun Haeng, et al. "Understanding of the Lower Extremity Motor Recovery After First-Ever Ischemic Stroke." Stroke (2022): 10-1161. https://doi.org/10.1161/STROKEAHA.121.038196
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar 🌲MORE⤴ >>> Connected Papers
※ Connected Papersとは? >>> note.
✅ 前提知識:比例回復モデルとは・・・?
・比例回復の法則とは、脳卒中発症3ヶ月の時点で、患者は最大回復力の約70%を取り戻すべきだというものである(📕 Krakauer, 2015 >>> doi.)。
・比例回復モデルの例:図. ベイジアン混合モデリングによって識別された 5 つのグループが異なる色で示され、モデルが指数関数に適合することを示す曲線。患者のパフォーマンスは、Fugl-Meyer 上肢 (FM-UE) スケールで測定される。これらの 5 つのグループは 3 つにまとめられ、括弧で示され、良い、中程度、悪いと名付けられた(📕 Bowman, 2021 >>> doi.)。

スライド2

[背景・目的] 下肢の比例回復モデルの妥当性を検証することを目的とした.

[方法] 2012年8月から2015年5月までにKorean Stroke Cohort for Functioning and Rehabilitationに登録された患者の臨床データをレビューした。回復割合は,Fugl-Meyer Assessment of Lower Extremityスコアとして測定した,初期運動障害に対する運動回復量として算出した。ロジスティック回帰法を用いて、Fugl-Meyer Assessment of Lower Extremityスコアが満点になる確率をモデル化し、それによってスコアの天井効果を考慮しました。脳卒中後3ヶ月と6ヶ月のFugl-Meyer下肢評価スコア満点達成率の差を示すため、一般化推定方程式法によりマージナルモデルを構築した。また、傾向スコアマッチング分析を行い、回復割合の脳卒中後3ヶ月と6ヶ月の初期運動障害への依存性を明らかにした。

[結果] 1085名の患者を評価した。脳卒中後3カ月と6カ月の回復割合はそれぞれ0.67±0.42と0.75±0.39であった。脳卒中発症時の神経機能障害と年齢が1単位(1-unit)下がると,Fugl-Meyer下肢評価スコアが満点になる確率が上昇し,それは脳卒中発症後3カ月と6カ月の両時点で発生した.下肢の運動機能が完全に回復する人の割合は、脳卒中後3カ月と6カ月で大きく異なった。また、脳卒中後3カ月と6カ月の回復割合は、下肢の初期運動障害によって決定されることが明らかになった。

スライド3

[結論] これらの結果は、比例回復モデルとは一致しない。結論下肢の比例回復モデルは無効であることが明らかになった。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

比例回復モデル、概念としては知っていたがこのような『名前』がついている事を初めて知った。
この名前を知ったことで、この概念が凝固され、そこにしっかりと存在するものになった。とてもアクセスしやすく、記憶に残るものとなった。

「発症3ヶ月くらいで、改善の頭打ちがくる」
3ヶ月より前か、3ヶ月より後か。
白か、黒か。
これはとても分かりやすく、そして分断された知識だ。
人間には、こういう知識を好む傾向(バイアス)があるらしい。
それを『分断本能』という。
この比例回復モデルが、例えその名前は知らなかったとしても、広く流布されている理由は、人間の本能にとってとても受け入れやすい知識だからだろう。
だが現実は、2つに分断できるほど単純ではない。

今回の研究から、比例回復モデルが当てはまる症例もいれば、当てはまらない症例もいる事を学んだ。
具体的には、重症例、である。
重症例は改善が3ヶ月を過ぎても70%未満となる症例も多いようだ。
この知識を知る前は、例えば後輩とのコミュニケーションは以下のようだった。

後輩:「発症3ヶ月を過ぎて、運動麻痺が重度なのですが、予後はどう思われますか?」
:「発症3ヶ月を過ぎると運動麻痺の改善は頭打ちになるから、期待しにくいかもしれないね」

スライド4

だが、今回の知識を得た僕は、こう答えるだろう。

:「重症者の場合、発症3ヶ月を過ぎても改善する人が多いみたいなんだ。だから、まだ改善する可能性はあるよ。3-6ヶ月の間にも希望はある可能性が高い」

スライド5

白と黒だけではない、この世界は。
灰色の中のコントラストに違いがあるだけなのだ。
その灰色の中にも、複数の可能性があることを、忘れたくはない。
分断本能に抗う術は、勉強である、知識である。
しっかりと勉強し、真実に近い現実を生きたい。

○●━━━━━━━━━━━・・・‥ ‥ ‥ ‥
良質なリハ医学関連・英論文抄読『アリ:ARI』
こちらから♪
↓↓↓

【あり】最後のイラスト

‥ ‥ ‥ ‥・・・━━━━━━━━━━━●○

#️⃣ #理学療法 #臨床研究 #研究 #リハビリテーション #英論文 #文献抄読 #英文抄読 #エビデンス #サイエンス #毎日更新 #最近の学び

この記事が参加している募集

最近の学び