膝関節マルアライメント。両脚立位と片脚立位で全然違う
📖 文献情報 と 抄録和訳
両脚立位から片脚立位へ、関節内変化によるグローバルなバルスマルアライメントの増加
Bardot, Léo-Pôhl, et al. "Global varus malalignment increase from double-leg to single-leg stance due to intra-articular changes." Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy 30.2 (2022): 715-720.
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar
✅ 前提知識:この研究で用いられている角度の定義
- 股関節-膝関節角度(hip-knee-ankle angle, HKA):この角度が小さくなるほど、膝関節内反が大きくなる。FTAとはちょうど逆側の角度を見ていることに注意。
- 外側遠位大腿骨角度(lateral distal femoral angle, LDFA):図参照。
- 内側近位脛骨角度(medial proximal tibial angle, MPTA):図参照。
- 関節線収束角(joint line convergence angle, JLCA):図参照。
[背景・目的] 脛骨骨切り術の術前矯正は、通常、体重をかけた長下肢X線写真に基づいて行われ、手術は仰臥位で非加重で行われる。本研究の目的は、内反尖頭症に対する楔状骨切り術(MOWHTO)を行う前に、仰臥位、両足立ち(DL)、片足立ち(SL)の3つの異なる体重負荷状態における下肢アライメントの差異を評価することであった。本研究の仮説は、四肢の負荷が進行すると術前の瘤状変形が大きくなることである。
[方法] このレトロスペクティブ研究は、孤立性変形性膝関節症(AhlbäckグレードIまたはII)および有意な骨盤内脛骨粗面(> 6°)を有する患者89人(96膝)を対象としたものである。仰臥位、DLスタンス、SLスタンスの違いを、股関節-膝関節角度(HKA)、外側遠位大腿骨角度(LDFA)、内側近位脛骨角度(MPTA)、体重負荷線比(WBL)、関節線収束角(JLCA)について分析した。
[結果] 仰臥位からDL姿勢では、HKA角度は175.5°±1.1°から176.3°±1.1°にわずかに増加し、JLCAは2.0°±0.3°から1.8°±0.3°に変化したが統計的に有意差はみられなかった。DL姿勢からSL姿勢では、HKA角度は176.3°±1.1°から174.4°±1.1°に減少し(p < 0.05)、JLCAは1.8°±0.3°から2.6°±0.3°に増加(p < 0.05 )した。DL姿勢とSL姿勢の間でΔHKAとΔJLCAに有意な相関が見られた(R2=0.46;p=0.01)。
[結論] 両脚立ちから片脚立ちへの体重負荷により、膝関節内反のマルアライメントは増加し、それに伴いJLCAも増加する。したがって、片足立ちのX線画像は、JLCAの患者固有の変化を考慮した術前計画の修正に有用であると思われる。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
分かりやすい膝関節内反(HKA角度)に着眼して考察を進める。
片脚立位では、膝関節内反が有意に大きくなった。
これは、直感的にも納得できる、まあそうでしょうという結果。
驚いたのは、背臥位より両脚立位の方が内反が「減少した」ことだ(有意ではないが)。
これは、何だろう、なぜ、このようなことが生じるのだろう。
両脚立位と片脚立位の力学構造を把握すれば、解釈できる。
外的トルクと内的トルクという2つの視点から紐解いてみる。
以下の図をご覧いただきたい。
まず、外的トルク。
荷重が膝関節に与える外的トルクの方向は、床反力線と膝関節軸の位置関係から考えて、変わらない。
両者とも膝関節を「内反」させる方向に働く。
ただし、その量は全く異なる。
片脚立位では、床反力もおよそ2倍になるだろうし、モーメントアームの大きさも増大する。
すなわち、片脚立位では荷重が膝を内反させようとする力が圧倒的に大きくなる。
次に、内的トルク。
股関節内転筋、外転筋が鍵を握っていると思う。
両脚立位では、床反力線と関節軸との関係から見ても、ブリッジという力学的位置関係から考えても、「股関節内転筋」の出力を要すると思われる。
この場合には、骨盤に対して大腿骨は内方に移動しようとするから、膝関節の内反は減じる方向に動く可能性が高い。
一方、片脚立位では、床反力線と関節軸との関係から見て、「股関節外転筋」の出力を要する。
この場合には、骨盤に対して大腿骨は外方に移動しようとするから、膝関節の内反は増強する方向に動く可能性が高い。
これで、「なぜ背臥位より両脚立位の方が膝内反が減じるか?」の答えが出せる。
両脚立位では、外的な膝関節内反トルクは背臥位より大きくなるが、それ以上に、股関節内転筋の出力による大腿骨内方移動の影響が大きいことで、膝内反が減じると思われる。
そして、片脚立位では、外的トルクから見ても、内的トルクから見ても、膝関節内反を増強する力が加わるため、膝内反のマルアライメントが増大するのだろう。
結論。
マルアライメントの観察は、両脚立位だけではなく、片脚立位も絶対にせよ。
歩行時のアライメントに近いのは、言うまでもなく片脚立位の方だろうから。
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