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コグニサイズの威力。認知と運動の両輪でMMSEが改善

📖 文献情報 と 抄録和訳

軽度認知障害者における認知機能に対する多成分非薬理学的介入の効果

📕Gómez-Soria, Isabel, et al. "Effects of multi-component non-pharmacological interventions on cognition in participants with mild cognitive impairment: a systematic review and meta-analysis." Archives of Gerontology and Geriatrics (2022): 104751. https://doi.org/10.1016/j.archger.2022.104751
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✅ 前提知識:コグニサイズ(Cogniceise)とは?
- コグニサイズとは、国立長寿医療研究センターが開発した運動と認知課題(計算、しりとりなど)を組み合わせた、認知症予防を目的とした取り組みの総称を表した造語。
- 英語のcognition(認知)とexercise(運動)を組み合わせてcognicise(コグニサイズ)と言う。
- 認知症予防に運動を取り入れる必要性を提唱している。
- この研究の中ではmulti-component non-pharmacological interventions (MNPI)と呼ばれている(認知と運動を同時並行する介入と同一セッション内に認知課題と運動課題が独立して存在する場合があるが、今回は両者を区別せず考察を進める)
🌍 参考サイト >>> site.
🔑 Key points
- MNPI(multi-component non-pharmacological interventions)療法 ≒ コグニサイズ
- コグニサイズ(運動+認知介入)はMCI被験者のグローバル認知を改善する。
- 二成分介入は神経可塑性に寄与することができる。
- 認知的・身体的介入はグローバルな認知に利益をもたらす可能性がある。
- 認知的・身体的介入は認知のみの介入より好ましい。

[背景・目的] 軽度認知障害(mild cognitive impairment: MCI)は、認知症に移行するリスクが高い中間の認知機能障害の段階を示す。MCIに対する有効な薬理学的治療法がないため、多成分非薬理学的介入(MNPI)がMCIにどのように役立つかを理解しようとする研究が増えてきている。この系統的レビューとメタアナリシスの目的は、MCI高齢者のグローバル認知と認知機能に対する2成分MNPI(認知刺激、認知トレーニング、認知リハビリテーションに基づく同時認知介入、認知と身体介入の併用)の効果を評価し、2つの介入間の効果の度合いを比較することであった。

[方法] 2010年から2021年1月18日までに発表された無作為化対照試験および臨床試験を電子データベース(PubMed、Web of Science、Scopus、Cochrane Central)で検索した結果、562件の研究が見つかった。PEDroスケールによる品質がFairからGoodの8件の研究がこのレビューに含まれた。

[結果] ランダム効果モデルのメタ解析から,介入群と対照群のプールされた標準化MMSE平均差は,MMSEスコアにおいてグローバル認知に有意な小~中効果を示し(0.249;95%CI = [0.067,0.431] ),身体介入と認知介入の複合でより大きくなると思われた。しかし、メタアナリシスでは、特定の認知機能に関する効果は示されなかった。

[結論] 我々の分析は,MNPIがMCI高齢者のグローバルな認知機能を改善し得ることを支持するものであった。しかし、MCI高齢者に対するMNPIの潜在的な利益を分析するために、より多くの研究が必要である。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

『文武両道』、という。

✅ 文武両道の意味
- 文武両道とは、文事と武事、学芸と武芸、その両道に努め、優れていることを指す語。
- 現代では勉学と運動(スポーツ)の両面に優れた人物に対しても用いられる。

この語は、「全く別々と思われる2つの道を極めし者」という印象を受ける。
神は二物を与えた、に近い印象。
以前、学校スポーツが学業成績を上げる効果を有する効果を明らかにした論文抄読の中で、『文武一道』という名前をつくった。
その意は、「文と武は両道ではなく、お互いが相互を高め合う唇歯補車の関係である」というもの。

今回、MCI高齢者を対象としたメタアナリシスで明らかになったのは、武(運動)は文(成績)の威力を高めるということだ。
「コグニサイズ」という名前が、日本にはある。
個人的には、運動と認知介入の併行を示す、世界で一番良い用語ではないかと思っている。
しっかり体を示している。直感的。呼びやすい。ちょっとかわいい。
少なくとも、MNPIではよくわからない。
ここでは、コグニサイズがどうして認知機能を高めうるのか、その仕組みが当該論文の考察にヒントを得たので考えたい。

■ 「予備脳」という概念
- 脳障害とそれに伴い発現する症状との関係を考える上で,脳予備能 (brain reserve; BR)認知予備能(cognitive reserve; CR)という考え方がある.
- 脳予備能とは,脳の容積,脳重,脳周囲径などの物理的・形態的な大きさの予備力である.すなわち何らかの病理学的な侵襲に対して,認知機能低下を引き起こすまでの間にシナプスやニューロンなどに形態的な余裕があることを意味している.
認知予備能は,脳損傷を受ける前のさまざまな要因,例えばそれまで受けてきた教育歴,病前の知的機能の高さ,職業の知的複雑さ,余暇活動の充実度,社会的交流の多さ,有酸素運動などによる機能的,心理学的な予備力である.- 脳予備能が形態的・量的なものであり生得的であるのに比して,認知的予備能は機能的・質的なものであり,生前の生活習慣という個人の経験に依存する. つまり,認知予備能は,各自がどの程度柔軟に脳内のネットワークを利用するかに依存する.
📕 吉澤浩志. 神経心理学 34.2 (2018): 142-154. >>> doi.
📕 Stern, Yaakov. Neuropsychologia 47.10 (2009): 2015-2028. >>> doi.

■ 予備脳を高めることで認知症リスクを低下させる
- 認知症の発症リスクを低減するため、高い認知的予備能を維持することが重要であり、これは主に精神的に刺激的な活動に参加することで達成できる(📕Valenzuela, 2006 >>> doi.)

■ 予備脳を高めるコグニサイズとその仕組み
- 認知的介入と身体的介入を組み合わせたコグニサイズは、運動単独よりも認知機能の改善に効果的(📕Suzuki, 2013 >>> doi.)であり、運動単独よりも脳の認知予備能に影響を与えることができる(📕Jeong, 2021 >>> doi.)
- 身体的介入は神経細胞の構造的完全性と脳容積を維持する(ハードウェア)一方で、認知的介入は神経回路の機能と可塑性を強化し(ソフトウェア)、認知予備能をサポートする(📕Cheng, 2016 >>> doi. )。

スライド2

✅ 図. コグニサイズが認知機能を高める仕組みの概念図。身体介入はハードウェアを認知介入はソフトウェアを強化する

予備脳という概念と、運動と認知介入がそれぞれ別の予備脳改善にアクセスしているという考え方は勉強になった。
コグニサイズ。どんどん、取り入れていきたい。

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