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同僚の臨床的な好み。僕たちがEvidenceに基づけない理由

📖 文献情報 と 抄録和訳

脳卒中後の歩行を改善するための筋力トレーニング:理学療法士、患者、職場の要因が運動処方にどのように影響するか

📕Tole, Genevieve, et al. "Strength training to improve walking after stroke: how physiotherapist, patient and workplace factors influence exercise prescription." Physiotherapy Theory and Practice 38.9 (2022): 1198-1206. https://doi.org/10.1080/09593985.2020.1839986
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[背景・目的] 筋力低下は、脳卒中後の歩行に影響を与える主要な障害として確立されており、筋力トレーニングはこの筋力低下を改善するための有効な介入である。しかし、臨床現場では、エビデンスに基づく筋力トレーニングのガイドラインを実施する際に、エビデンスと実践のギャップがあることが浮き彫りになっている。目的:歩行リハビリテーションを受ける脳卒中サバイバーに筋力トレーニングを処方する際に、オーストラリアの理学療法士が感じる障壁と促進要因を調査すること。

[方法] 現在オーストラリアで脳卒中患者にリハビリテーションサービスを提供している理学療法士を対象に半構造化面接を実施した。インタビューは逐語的に書き起こし、行ごとに主題分析を行い、テーマとサブテーマを作成した。

[結果] 参加者は、脳卒中後の患者への対応に3ヶ月から42年の経験を持つ16名の理学療法士(女性12名)であった。主なテーマは、1)患者要因が筋力トレーニングのアプローチに影響を与える、2)筋力トレーニングの原則の解釈と実施は多様である、3)職場の状況が提供する治療に影響を与える、であった。理学療法士は、筋力トレーニングの原則の知識、解釈、実施に大きなばらつきがあり、筋力トレーニングの運動処方はエビデンスやガイドラインに基づくものはほとんどなかった。職場の要因としては、同僚の臨床的な好み、労働力のリソースに合わせるために練習を修正する必要があることなどが挙げられた。

✅ 同僚の臨床的嗜好が診療に影響する
・理学療法士は、同僚の臨床的アプローチと研究的関心の両方から影響を受けていた。彼らは、大学での教育から学んだことも話したが、筋力トレーニングの原則に関する知識や応用の大部分は職場で身につけたものであると報告してる。
・理学療法士が脳卒中患者に筋力トレーニングを実施する際に、知識や技術を向上させるためにどのようなトレーニングが有益であるかを尋ねたところ、2種類の知識の伝達が確認された。
・多くの人が、オンラインポータルのような筋力トレーニングの原理を具体的に実践するためのリソースに素早く簡単にアクセスすることを望んでいた。
・また、重度の運動機能障害やコミュニケーション・認知機能障害などの重大な神経学的障害がある場合に、これらの原則を実施することの難しさを考慮し、実際の患者を対象とした対面式の実践トレーニングを同様に強く望んでいる者もいた。
<印象的なコメント>
● 地元で本当に影響を受けたことのひとつは、筋力トレーニングの研究をしている同僚がいたことです。(参加者3)
● 脳卒中を扱う同僚たちと接していると、筋力トレーニングという言葉はあまり聞きません。(参加者13)

[結論] 脳卒中後の歩行を改善するための筋力トレーニングの実施状況は多様であった。効果的な筋力トレーニングプログラムの実施に対するセラピスト関連の障害は、知識、トレーニング、研究への参加を改善する必要性を強調している。限られた財源で、脳卒中教育やスキルアップを組織的に優先させる必要性を示している。エビデンスと実践のギャップを縮めることは、依然として課題である。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

10月のJPTA newsに面白い調査記事が載っていた。
テーマは『臨床の理学療法士は、どのような手段・ツールを使いながら、目の前の疑問や問題と向き合っているのだろう?』。

【JPTA news】2022年10月 JPTA NEWS No.339 特集:理学療法の質の担保 >>> site.

これを見ると、やはり先輩や同僚というのは、当事者の臨床に与える影響が大きいらしい。
“Residents-as-Teachers”、“Residents-as-Teachers”、どちらも似たような意味だ。
すなわち、遠くの偉大な研修会のコーチより、最も近くにいる上長こそ、もっとも重大なインパクトを与える教師である。
今回の抄読研究において、改めてそう実感させられた。
目の前の臨床のプログラムや、臨床思考過程に影響を与えているのは、多くの場合『その職場での経験』である。

思い出してみてほしい。
1日の臨床において、今までの自分の経験や、先輩から得た知識でないものは、少なくないか?
以下のような言葉を吐いた人がいた。

人間即機械 ー 人間もまた非人格的な機関にすぎん
人間が何かってことは、すべてそのつくりと、そしてまた、遺伝性、生息地、交際関係などなど、その上にもたらされる外的力の結果なんだな
つまり、外的諸力によって動かされ、導かれ、そして強制的に左右されるわけだよ
完全にね
みずから創り出すものなんて、なんにもない
考えること1つにしてからだな

マーク・トウェイン

いわく、人間に真のゼロイチはない。
そこには、既存知識の『選択』と『組み合わせ』があるのみ。
そして、その既存知識を形成するのは、『職場での経験や知識』と『勉強によって得た外界からの経験や知識』の二択だ。
思い切っていえば、多くのセラピストにとって、前者に比重が大きいことを感じている。
勉強しなければならない。
勉強しなければならない。
常に、自分でも思っているし、同僚にもいつも言っている。
その理由が、これだ。

すなわち、その職場での経験だけに終始していると、少なくとも集団としての生長はあり得ない。
なぜなら、『既存知識や経験』が増えないから。
人間にゼロイチがないのなら、その集団の将来に見えるのは、「先輩より劣化した後輩」(100%のコピーはあり得ないわけなので)が構成する、だんだん力の衰退していく組織だ。
そんな集団デザインになっていてはならない、と心から思う。
だからこその『勉強』だ。
外界から、新たな何か、を組み入れないければならない。
そして、その新たな何か、を持った自分が隣人にとっての同僚にならなければならない。
そうなってはじめて、その集団にとっての最前線たりうる。
要は、『お前が生長しろ』、率先垂範せよ、という話だ。
隣人にとっての、後輩にとっての、最強の同僚たれ。

井の中の蛙。
その井の中のみを知る。
その井の水を善くするには、
水を汲み入れるしかない。
そこには、どうしたって外出が含まれる。
外へ出て、経験しろ。
本を読み、勉強しろ。
しかるのち、鼻血が出るまで考え抜け。
その中で、心の底から納得できる、いくつかのことが掘り出されるだろう。
それが『信念』と呼ばれるものだ。
そのマグマのように煮えたぎった信念が、バスタブに入れられた焼石のような仕方で、水温を変えることだろう。
きみにできることは、ただ、自分の温度をさらに上げることのみ。
いまに、最大最強の光を当てよ、いまを焦がせ。
隣人にとっての最強の同僚たれ。
それのみが、集団をリードする術と信じて。

SuperHuman

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