自由とは忘却なり。腰痛からの回復者は保護を忘れる
📖 文献情報 と 抄録和訳
保護から非保護へ。保護から非保護へ:動作、姿勢、障害性腰痛からの回復を調査する混合法研究
[背景・目的] 腰痛は、動作や姿勢が関係していると一般的に考えられている。しかし、腰痛と動作・姿勢の関係について、特に回復後の人々がどのように理解しているかについては、ほとんど分かっていない。我々はこの理解を質的に探求し、それがどのように変化し、量的な変化とどのように関連しているかを調べることを目的とした。
[方法] 障害のある非特異的腰痛患者12名を対象とした既存の単一症例デザインに基づく混合法研究。理学療法による12週間の認知機能療法介入の前後にインタビューを行い、そこから得られた定性的な知見を、動作、姿勢、心理的要因、痛み、活動制限に関する個別の定量的な測定値と統合した。
[結果] ベースライン時のインタビューにおいて、動作と姿勢に関する強い信念が確認された。緊張とこわばりの生活体験は「非意識的な保護」の体現を特徴とし、医療や社会のメッセージは痛みに関連する恐怖と「意識的な保護」を促すものであった。様々なプロセスを通して、ほとんどの参加者は、より保護的でない動きと姿勢の戦略で、時間の経過とともに改善したことを報告した。そして、ほとんどの参加者は、自動的で正常な、恐れのないパターン(「無意識的な非保護」)に戻り、腰痛のことを忘れていた。ある参加者は、意味のない変化を報告し、保護されたままだった。自己報告要因のポジティブな変化に伴って、脊柱の範囲が広がり、動きが速くなり、姿勢がよりリラックスし、背筋の筋電図が減少した。
[結論] 本研究結果は、持続的で障害のある非特異的腰痛からの回復過程において、人々がどのように動作や姿勢に意味を見出すかを理解するための枠組みを提供するものである。これは、動きと姿勢の脅威から治療への再認識につながる。
[臨床意義] 障害性腰痛を持つ12人の認知機能療法介入前後の質的インタビューから得られた知見は、意識的・非意識的保護から、ある者は意識的非保護へ、多くの者は非意識的非保護への個人的回復の道程を浮き彫りにしていた。運動、姿勢、心理的要因、痛み、活動制限に関する事前および事後の定量的測定は、定性的な知見とよく統合されていた。この結果は、動作と姿勢が多次元的な疼痛スキーマの一部を形成している可能性を示唆している。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
患者さんとの話の中での、頻出会話の1つではないだろうか。
健常者は自分の歩き方を考えない。
自分の食べ方を考えない。
自分の話し方を考えない。
ただ、目的が認識されると、勝手に歩き、勝手に食べ、勝手に話しているのだ。
考えることはといえば、その目的とその内容だけだ。
以下の言葉に集約されている(名著なので、セラピストは必読書❗️)。
だが、ひとたび疾患を発症する、障害/傷害をおう、症状が出現すると、世界は激変する。
「あれ、どうやって歩いてたんだっけ?どうやったら痛くなく歩けるかな。」とか、考えるようになるのだ。
意識の水面下に、潜り込んで原因を探ろうとする。
以下の言葉に、集約されている。
1つの構成物がその役目を果たさなくなったとき、分解してみなくてはならなくなる。
目覚まし時計が鳴らなくなったら、分解してその原因を探り、修理が必要になるように。
設計図まで、展開しなきゃならなくなる。
それは、容易なことではない。
高度な知力と、膨大な労力を要する仕事だ。
プロの仕事、職人の仕事であるべき高度な内容。
そして、そのプロ、職人こそ、僕たち理学療法士(+OT & ST)だ。
プレイヤーの成功が、意識を無意識に折り畳むことにあるなら、
治療者の成功は、宇宙ほどもある無意識領域の力学や設計を熟知し、時にバラし、時に組み立てる、という至難の業を縦横無尽に繰り出すことが求められる。
つまり、無意識を意識の日のもとに引っ張り出し、晒し、すべからく説明し切れる、という能力が求められる。
そのような質問を学生や新人にしたときには、宇宙人に遭遇したようなポカンとした顔をされることになる。
それまでに考えもしてこなかった大陸なのだろうと思う。
そりゃそうだ、と僕は思う。
何せ、健常者はほとんど立ち入ることのない領域なのだからね。
だけれども、『そこ』こそが、僕たちの主戦場なのだ。
それは、早晩、知ることになるだろう。
知らないままでいる人も、いるかもしれない。
だけどそれは、セラピストとして決して、幸いなことではないと僕は思う。
ごく狭い領域に安住して、職業人生を終えることに近いから。
そんな人が担当セラピストとしてきたら、きっと僕は惚れてしまうだろうと思う。
そして、そんなセラピストに、僕自身がなってゆきたいのだ。
思いが強すぎて、当該論文のことをほとんど触れることなく、この長文・・・。
最後に、その膨大な身体運動の水面下のシステムを理解しきる自信がない、と挫けそうなあなた。
大丈夫。
僕を含め、だれも分かりきっている人間はいない。
なにせ、かのニュートンすら、こう言っているのだ。
僕たちは、その力の及ぶ範囲で、精一杯、真理を追い求めればいいのだと信じている。
たった1つでも前進があれば、この上なく幸いなことだ、という楽観を胸に。
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