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リハ病棟環境の科学。3病棟の行動マッピングによる示唆

📖 文献情報 と 抄録和訳

新設された3つの脳卒中病棟における物理的環境と多職種によるチームワーク

Anåker, Anna, et al. "The physical environment and multi-professional teamwork in three newly built stroke units." Disability and Rehabilitation 44.7 (2022): 1098-1106. https://doi.org/10.1080/09638288.2020.1793008

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] 新築・改築された3つの脳卒中病棟における物理的環境と多職種のチームワークを調査すること。

[方法] 観察研究が実施された。参加者は、レビューされた脳卒中病棟で働く多職種チームのスタッフ全員である。データは、行動マッピングと半構造化観察により収集し、内容分析と記述統計により分析した。

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✅ 図. 3病棟の見取り図

[結果] 行動マッピングで観察した結果、2人以上のチームメンバーと患者が一緒に観察されているものはほとんどなかった。また、脳卒中病棟では、多職種チームメンバー全員が同じ場所にいることはなかった。

✅ インタビューの分析から明らかとなった3つの主要なカテゴリー
(i)ユニットのハブ

 あるユニット(SU1)では、ワークステーションが完全に透明になっており、テーブルの上の書類やコンピューターの画面がすべて患者や親族から見える状態になっていた。物理的にオープンなデスクは、スタッフが機密を保持することを難しくしている。観察中、患者はしばしばワークプレイスの周りに座ったり歩いたりした。スタッフはコンピュータからログアウトし、机の上に書類を残さないようにしなければならない。また、廊下や近くの病室では、スタッフの話す声が筒抜けであることも観察から分かった。医師やセラピスト(理学療法士、作業療法士)が患者の健康状態を報告するために通りかかることもあった。もう一つのタイプの職場は、廊下に面したガラス壁で、ドアを閉めることができる、隠れ家的な職場であった(SU2、SU3)。これらのワークプレイスは、曇りガラスであることもあれば、そうでないこともあった。これらのワークプレイスは視界を確保することができるが、スタッフがドアを閉めることを選択できるため、機密性を確保することができる。
(ii)場所の分割
 すべての脳卒中病棟では、職種の部屋が分かれていた。どの脳卒中病棟にも、多職種チームが日常業務で一緒に過ごせるような場所はなかった。その代わり、脳卒中病棟全体に異なる仕事場が広がっていた。すべてのユニットで、廊下の一端にナースステーションがあり、反対側には理学療法士や医師のための部屋があった。看護師、医師、理学療法士、作業療法士は、それぞれの職能に応じた個室を持っていた。その部屋で、書類作成や事務作業、ケアプランの作成などを行っていた。多職種が一同に会し、患者さんのケアを計画するのは、特別なチーム会議の時だけでした。2つの脳卒中病棟(SU1、SU3)では、このチームミーティングは部屋の中央にテーブルがある特別なセミナールームで行われた。1つの脳卒中病棟(SU2)では、すべてのチームミーティングは廊下にある作業場の1つで行われた。
(iii)パワーインバランス
 医師がチームメンバーに背を向けてカルテを読むなど、チームメンバー全員が参加できないような環境であったため、対面でのディスカッションには適していなかった。ケアプラン作成時に多職種チームの一部が患者さんに会う場合も、別の会議室・ミーティングルーム(SU1、SU2、SU3)で行われ、きちんとテーブルと椅子が用意されていた。このような状況では、誰もが患者さんとアイコンタクトを取ることができた。

[結論] 物理的環境のデザインは、多職種間のチームワークにとって重要である。脳卒中病棟の設計にあたっては、物理的環境の影響をよりよく理解し、多職種チームワークに関連するエビデンスを取り入れることを重視しなければならない。

[リハビリテーションへの示唆] リハビリテーションへの影響物理的環境と効果的なチームワークの関連性を理解することで、よりカスタマイズされた支援的な設計ソリューションにつながる可能性がある。物理的環境のデザインは、脳卒中病棟における効果的なチームワークの重要な部分として考慮されるべきである。物理的環境には共有ワークステーションを含め、チームメンバーが顔を合わせてコミュニケーションできるようにすべきである。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

「居は気を移す」という言葉がある。
住む場所によって、人の気性(気持ち)は変わる、という意味合いの言葉。
今回抄読した論文は、リハ病棟にも、さまざまな環境があることを教えてくれた。
その上で、病棟におけるチームワークや機密性の保持、パワーインバランスに影響を及ぼすかもしれない環境も示唆している。
僕が、臨床経験の中で病棟環境として重要だと思っていることを整理してみる。

▶︎①ナースステーション vs. 患者の垣根
・ナースステーション内と外の間にはカウンターという名の垣根がある
・その垣根が、PC入力などしやすいようにしているためか、結構高い
・すると、患者側から見て、ナースステーション内との間に高く厚い壁があるように感じる
・それが、医療者と患者の間のパワーインバランスをインバランスを生んでいると思う
・提案❗️:ナースステーションを一段低めて外から見た垣根を低める
▶︎②ハブとしてのテーブル
・僕の勤務する病棟のナースステーションはど真ん中に看護師が作業するテーブルがある
・そこで看護師がいろいろ作業をしている
・ナースステーションを通ると必ず看護師が「目に入る」状態になる
・看護師が目に入ると、必要なチームワークが想起されることがある
・チームワークを取ろうと思っていく意思先行型と、環境をみてチームワークを取ることを想起する環境先行型があるが、その後者にとって、環境はとくに重要
・提案❗️:ナースステーションのワークテーブルが動線内に設計されてあることが重要
※ チームワークにとっての20秒ルールになるのかもしれない(20秒ルールは以下note参照)
▶︎③機密性:ありとなしのエリアを明確に分けるべし
・病室でその患者の転帰先のことを話すなど、あってはならぬこと
・だが、明確にエリアが決まっていないと、つい話してしまいがちになる
・そのため、明確に「機密性の高い会話をするゾーン(名前がついていると良い)」とそれ以外のゾーンに分ける必要がある
・大事なことは、機密性一辺倒にならないこと。それのみを求めると、すべてにドアがつくことになって、パワーのインバランスが生じてしまうだろう
・だから、場所の区分が必要になる
・提案❗️:機密ゾーンと非機密ゾーンを明確に分ける

病棟環境の科学。これを突き詰めたら、凄いことになりそうな気がする。
だが、その前に明確にすべきは、自分たちが何を求めているのかを知ること。
その求めたいものがあって、それを実現するために、どういう環境が適しているか?、という話になるのだから。

求めよ さらば与えられん
新約聖書―マタイ伝・七

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