【小説】ひとひらの花
それはまるで滝の中に身を浸したかと見紛うばかりでした。私の身体は一面の薄らと白い水面の上を滑ってゆくかの如くでした。私はおもいきり腭を上げて、その向う側にあるはずの夜空を覆い尽くした花花花を見上げて歩いておりました。その薄紅の花の間を洩れて、きらきらと煌めく光りが、私の歩調に合わせて点滅しておりました。それは、洩れ来る星々の明かりなのですが、まるで花の水の流れの中を行く身になっている当方の感覚にしてみれば、星の瞬きが、落ち来る滝に湧き立ち上る水沫きの如くに感じられたのです。