初芽が止める間もなく、冴子は持ったままのスノードームを逆さにする。九割が雪に埋まっているせいで、逆さにしても中の人形は見えない。しかし、土台についている、真っ…
初芽の反応が予想通りで面白かったのか、冴子は大笑いした。 「あっはっは。いや、すまん。怒るなよ。真面目に話すさ。初芽は、この洞窟を見てどう思った?」 「どうって…
「こ、これは……スノードーム、か?」 「そう、みたいですね?」 お互いに顔を見合わせ、鏡合わせのように首を傾げる。祠とスノードームに、繋がりを見いだせない。 …
灯りを点けていないから、壁を伝って歩くしかない。しかし、一本道なのが功を奏した。お陰で、道が見えなくても簡単に辿り着ける。壁は洗った食器のようにつるつるで、手…
「はぁ。まさか本当に来るとは」 「もっと嬉しそうにしてくれよ。大好きな私との大冒険だぞ」 「いつ私が大好きだって言ったんですか」 スキップで進む冴子とは逆に、初…
初芽が冴子に出会って気に入られたのは、入学してすぐの頃だった。四月も半ば、S大が女子大ということもあり、露出狂の出現が多かった。初芽が大学を出たところ、冴子も…
「で、どうだ?」 「はぁ。どうだ、と言われましても……」 火戦初芽は溜息をついて、もう一度パソコンの画面を見つめる。何から何まで胡散臭い雰囲気しか感じない。もっ…
オカルト調査日記 二〇XX年 〇月×日 Y県にある田舎の集落で、洞窟を発見した。不思議なことに、それは人の手によって作られたように見えた。規模はそれほど大き…
エリリカは、アリアの腕を勢いよく捕まえる。まるで、一生逃がさないとでも言うように。突然のことで、アリアは反応に遅れてしまう。 「私、エリリカ・フレイムとメイド…
セルタの態度の意味がようやく分かった。彼はアスミが疑われていると勘違いして、怒っていたのだ。エリリカに挑むように質問しては、やり返されていたけれど。 それに…
「戦争に同意した理由は、アクア王国の勝ちが約束されていたからだ。アクア王国は、マーク大臣のお陰で文明、技術面ともに有利だった。どう考えても戦争に負けるはずがない…
「警備兵が通したのだから、あの場を通っても怪しまれない人物であることは確かです。また、城内の構造や事情、グラスの色をよく知る人物であることも条件です。城内の構造…
「ローラ・ウェルは、アクア王国の前大臣である、マーク・スタンの娘よ」 エリリカは、先ほどよりも落ち着いたトーンで淡々と話す。とうとう耐え切れなくなったミネルヴ…
咲谷 紫音
2024年6月4日 17:44
初芽が止める間もなく、冴子は持ったままのスノードームを逆さにする。九割が雪に埋まっているせいで、逆さにしても中の人形は見えない。しかし、土台についている、真っ黒な足らしき二本の棒だけは確認できた。 その瞬間、入口の方、背中側に気配を感じた。集落の人間に気づかれたかもしれない。冴子も同じことを考えているのか、初芽を二回、肘で突いた。三回目に突かれたタイミングで、同時に懐中電灯を向ける。 そこに
2024年5月31日 17:50
初芽の反応が予想通りで面白かったのか、冴子は大笑いした。「あっはっは。いや、すまん。怒るなよ。真面目に話すさ。初芽は、この洞窟を見てどう思った?」「どうって……自然にできた洞窟には見えませんでした。人の手で―」「そう、まさにその通りだっ! この洞窟は、人工的に作られたものなんだよ。その目的は、祠を人目から遠ざけるためだ。元々はこんな流れだったんだろう。 この集落には、昔から祠があった。初
2024年5月24日 18:18
「こ、これは……スノードーム、か?」「そう、みたいですね?」 お互いに顔を見合わせ、鏡合わせのように首を傾げる。祠とスノードームに、繋がりを見いだせない。 さらに不思議なのは、スノードームの中が見えないことだ。スノードームと言えば、台形の土台に、半円形の透明なドームがくっついている。そして、土台の上には小さな人形が置かれる。水と洗濯のりで、雪の結晶型やキラキラした紙を浮かせる。スノードームを
2024年5月21日 16:57
灯りを点けていないから、壁を伝って歩くしかない。しかし、一本道なのが功を奏した。お陰で、道が見えなくても簡単に辿り着ける。壁は洗った食器のようにつるつるで、手を怪我することもなかった。床に障害物はなく、転ぶこともない。かなり丁寧に舗装しているのか、暗闇でも移動しやすかった。「さて、初芽。君の出番だ。頼んだぞ」「……は?」 冴子は、嬉しそうに祠から二、三メートル離れた位置に移動した。小さい懐
2024年5月20日 18:48
「はぁ。まさか本当に来るとは」「もっと嬉しそうにしてくれよ。大好きな私との大冒険だぞ」「いつ私が大好きだって言ったんですか」 スキップで進む冴子とは逆に、初芽はたらたらと歩いている。田舎すぎるせいで、バスも電車もなければ、タクシーも捕まらない。目的地までは歩くしかなかった。 初芽はショルダーハーネスを引っ張り、リュックを上げる。重すぎるせいで、だんだんと落ちてくるのだ。「へばるなよ、初芽
2024年5月17日 21:33
初芽が冴子に出会って気に入られたのは、入学してすぐの頃だった。四月も半ば、S大が女子大ということもあり、露出狂の出現が多かった。初芽が大学を出たところ、冴子もまた、露出狂と対面していた。気づいてしまった以上、放っておくわけにもいかない。 だから、初芽はそっと背後から近づき、変態男に背負い投げをかました。かなり太っていたが、体は簡単に宙へと浮く。その後は別のS大生が警察に通報し、変態男は無事に逮
2024年5月13日 18:53
「で、どうだ?」「はぁ。どうだ、と言われましても……」 火戦初芽は溜息をついて、もう一度パソコンの画面を見つめる。何から何まで胡散臭い雰囲気しか感じない。もっと言うなら、ブログのアクセス数欲しさに、奇妙奇天烈なことをやっているだけに思える。どうだ、と意見を求められても、特別感想など出てこない。 しかし、それをそのまま言ったところで、目の前の先輩、都々森冴子は聞く耳を持たない。彼女の中で答えは
2024年5月11日 13:08
オカルト調査日記 二〇XX年 〇月×日 Y県にある田舎の集落で、洞窟を発見した。不思議なことに、それは人の手によって作られたように見えた。規模はそれほど大きくない。出入り口から奥までは、十メートルくらいだ。横幅は、大人が二人並べるくらいだろう。一本道の一直線だから、入口に立って最奥を見ることもできる。とはいっても、灯りのない洞窟だ。実際は、暗すぎるせいで、入口に立っても最奥は見えない。 洞
2024年5月11日 13:04
2024年5月11日 12:54
2024年2月24日 18:40
2024年2月24日 18:34
エリリカは、アリアの腕を勢いよく捕まえる。まるで、一生逃がさないとでも言うように。突然のことで、アリアは反応に遅れてしまう。「私、エリリカ・フレイムとメイド長のアリア・アカシアも結婚することにしました」「・・・・・・え、え、ええっっ!!!!」 アリアが珍しく大声を上げる。こんな話は聞いていない。そもそも、アリア自身は一度も了承したことがない。エリリカの発言に一番衝撃を受けたのは、当事者であ
2024年2月24日 18:32
セルタの態度の意味がようやく分かった。彼はアスミが疑われていると勘違いして、怒っていたのだ。エリリカに挑むように質問しては、やり返されていたけれど。 それに、アスミがアリアやエリリカを避けていた理由も分かった。エリリカはセルタの婚約者。セルタと付き合っていることが知られたら、と怯えていたのだ。それほど二人は思い合っている。結婚まで考えていても不思議ではない。セルタがエリリカの申し出をすぐに承諾
2024年2月24日 18:29
「戦争に同意した理由は、アクア王国の勝ちが約束されていたからだ。アクア王国は、マーク大臣のお陰で文明、技術面ともに有利だった。どう考えても戦争に負けるはずがない。それなら、戦争に勝って上下関係をはっきりさせようと思ったのだ。 わしらの考えた通り、戦争に勝つことができた。半年以上掛かったのは、予想外だったがな。コジーとエリー、ライ大臣は、降伏を申し入れてきた。戦争の理由を口外しないこと、降伏するこ
2024年2月24日 18:26
「警備兵が通したのだから、あの場を通っても怪しまれない人物であることは確かです。また、城内の構造や事情、グラスの色をよく知る人物であることも条件です。城内の構造は、王族と一部の使用人しか入れない四階以上も含みます。平等にいきましょうか。私、メイド長のアリア、執事長のトマス、ライ大臣、勤続年数の長いかつ住み込みメイドのローラとアスミ、ダビィ王、ミネルヴァ女王、セルタ王子、イレーナ大臣。 ライ大臣の
2024年2月24日 18:25
「ローラ・ウェルは、アクア王国の前大臣である、マーク・スタンの娘よ」 エリリカは、先ほどよりも落ち着いたトーンで淡々と話す。とうとう耐え切れなくなったミネルヴァが、悲鳴を上げた。ダビィは顔を抑えて下を向く。アクア夫妻はそのまま止まってしまった。 アクア夫妻以外は、今日一番の衝撃を受けた。いや、与えさせられた。エリリカに向けられた視線が、再びローラに向けられる。視線を一身に受けても、両手を頬に添