咲谷 紫音

小説を読むのも書くのも好き。時々、イラストや漫画も描くよ。 Twitter→@shio…

咲谷 紫音

小説を読むのも書くのも好き。時々、イラストや漫画も描くよ。 Twitter→@shionnsakuya

記事一覧

記録1:祠と解けない雪⑧

 初芽が止める間もなく、冴子は持ったままのスノードームを逆さにする。九割が雪に埋まっているせいで、逆さにしても中の人形は見えない。しかし、土台についている、真っ…

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記録1:祠と解けない雪⑦

 初芽の反応が予想通りで面白かったのか、冴子は大笑いした。 「あっはっは。いや、すまん。怒るなよ。真面目に話すさ。初芽は、この洞窟を見てどう思った?」 「どうって…

記録1:祠と解けない雪⑥

「こ、これは……スノードーム、か?」 「そう、みたいですね?」  お互いに顔を見合わせ、鏡合わせのように首を傾げる。祠とスノードームに、繋がりを見いだせない。  …

咲谷 紫音
2週間前
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記録1:祠と解けない雪⑤

 灯りを点けていないから、壁を伝って歩くしかない。しかし、一本道なのが功を奏した。お陰で、道が見えなくても簡単に辿り着ける。壁は洗った食器のようにつるつるで、手…

咲谷 紫音
2週間前

記録1:祠と解けない雪④

「はぁ。まさか本当に来るとは」 「もっと嬉しそうにしてくれよ。大好きな私との大冒険だぞ」 「いつ私が大好きだって言ったんですか」  スキップで進む冴子とは逆に、初…

咲谷 紫音
2週間前

記録1:祠と解けない雪③

 初芽が冴子に出会って気に入られたのは、入学してすぐの頃だった。四月も半ば、S大が女子大ということもあり、露出狂の出現が多かった。初芽が大学を出たところ、冴子も…

咲谷 紫音
3週間前

記録1:祠と解けない雪②

「で、どうだ?」 「はぁ。どうだ、と言われましても……」  火戦初芽は溜息をついて、もう一度パソコンの画面を見つめる。何から何まで胡散臭い雰囲気しか感じない。もっ…

咲谷 紫音
3週間前
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記録1:祠と解けない雪①

 オカルト調査日記  二〇XX年 〇月×日  Y県にある田舎の集落で、洞窟を発見した。不思議なことに、それは人の手によって作られたように見えた。規模はそれほど大き…

咲谷 紫音
4週間前
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『初芽と冴子のオカルト日記』の表紙

咲谷 紫音
4週間前
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『真寧姫子の百合営業日記(裏)』

咲谷 紫音
4週間前
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ゾンビハニワくん①

咲谷 紫音
3か月前

エピローグ 完全なるハッピーエンドには遠くても

 エリリカは、アリアの腕を勢いよく捕まえる。まるで、一生逃がさないとでも言うように。突然のことで、アリアは反応に遅れてしまう。 「私、エリリカ・フレイムとメイド…

咲谷 紫音
3か月前

第57話 セルタの話

 セルタの態度の意味がようやく分かった。彼はアスミが疑われていると勘違いして、怒っていたのだ。エリリカに挑むように質問しては、やり返されていたけれど。  それに…

咲谷 紫音
3か月前

第56話 アクア夫妻の秘密

「戦争に同意した理由は、アクア王国の勝ちが約束されていたからだ。アクア王国は、マーク大臣のお陰で文明、技術面ともに有利だった。どう考えても戦争に負けるはずがない…

咲谷 紫音
3か月前

第55話 気づいた理由

「警備兵が通したのだから、あの場を通っても怪しまれない人物であることは確かです。また、城内の構造や事情、グラスの色をよく知る人物であることも条件です。城内の構造…

咲谷 紫音
3か月前

第54話 犯人の話

「ローラ・ウェルは、アクア王国の前大臣である、マーク・スタンの娘よ」  エリリカは、先ほどよりも落ち着いたトーンで淡々と話す。とうとう耐え切れなくなったミネルヴ…

咲谷 紫音
3か月前
記録1:祠と解けない雪⑧

記録1:祠と解けない雪⑧

 初芽が止める間もなく、冴子は持ったままのスノードームを逆さにする。九割が雪に埋まっているせいで、逆さにしても中の人形は見えない。しかし、土台についている、真っ黒な足らしき二本の棒だけは確認できた。
 その瞬間、入口の方、背中側に気配を感じた。集落の人間に気づかれたかもしれない。冴子も同じことを考えているのか、初芽を二回、肘で突いた。三回目に突かれたタイミングで、同時に懐中電灯を向ける。
 そこに

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記録1:祠と解けない雪⑦

記録1:祠と解けない雪⑦

 初芽の反応が予想通りで面白かったのか、冴子は大笑いした。
「あっはっは。いや、すまん。怒るなよ。真面目に話すさ。初芽は、この洞窟を見てどう思った?」
「どうって……自然にできた洞窟には見えませんでした。人の手で―」
「そう、まさにその通りだっ! この洞窟は、人工的に作られたものなんだよ。その目的は、祠を人目から遠ざけるためだ。元々はこんな流れだったんだろう。
 この集落には、昔から祠があった。初

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記録1:祠と解けない雪⑥

記録1:祠と解けない雪⑥

「こ、これは……スノードーム、か?」
「そう、みたいですね?」
 お互いに顔を見合わせ、鏡合わせのように首を傾げる。祠とスノードームに、繋がりを見いだせない。
 さらに不思議なのは、スノードームの中が見えないことだ。スノードームと言えば、台形の土台に、半円形の透明なドームがくっついている。そして、土台の上には小さな人形が置かれる。水と洗濯のりで、雪の結晶型やキラキラした紙を浮かせる。スノードームを

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記録1:祠と解けない雪⑤

記録1:祠と解けない雪⑤

 灯りを点けていないから、壁を伝って歩くしかない。しかし、一本道なのが功を奏した。お陰で、道が見えなくても簡単に辿り着ける。壁は洗った食器のようにつるつるで、手を怪我することもなかった。床に障害物はなく、転ぶこともない。かなり丁寧に舗装しているのか、暗闇でも移動しやすかった。
「さて、初芽。君の出番だ。頼んだぞ」
「……は?」
 冴子は、嬉しそうに祠から二、三メートル離れた位置に移動した。小さい懐

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記録1:祠と解けない雪④

記録1:祠と解けない雪④

「はぁ。まさか本当に来るとは」
「もっと嬉しそうにしてくれよ。大好きな私との大冒険だぞ」
「いつ私が大好きだって言ったんですか」
 スキップで進む冴子とは逆に、初芽はたらたらと歩いている。田舎すぎるせいで、バスも電車もなければ、タクシーも捕まらない。目的地までは歩くしかなかった。
 初芽はショルダーハーネスを引っ張り、リュックを上げる。重すぎるせいで、だんだんと落ちてくるのだ。
「へばるなよ、初芽

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記録1:祠と解けない雪③

記録1:祠と解けない雪③

 初芽が冴子に出会って気に入られたのは、入学してすぐの頃だった。四月も半ば、S大が女子大ということもあり、露出狂の出現が多かった。初芽が大学を出たところ、冴子もまた、露出狂と対面していた。気づいてしまった以上、放っておくわけにもいかない。
 だから、初芽はそっと背後から近づき、変態男に背負い投げをかました。かなり太っていたが、体は簡単に宙へと浮く。その後は別のS大生が警察に通報し、変態男は無事に逮

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記録1:祠と解けない雪②

記録1:祠と解けない雪②

「で、どうだ?」
「はぁ。どうだ、と言われましても……」
 火戦初芽は溜息をついて、もう一度パソコンの画面を見つめる。何から何まで胡散臭い雰囲気しか感じない。もっと言うなら、ブログのアクセス数欲しさに、奇妙奇天烈なことをやっているだけに思える。どうだ、と意見を求められても、特別感想など出てこない。
 しかし、それをそのまま言ったところで、目の前の先輩、都々森冴子は聞く耳を持たない。彼女の中で答えは

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記録1:祠と解けない雪①

記録1:祠と解けない雪①

 オカルト調査日記
 二〇XX年 〇月×日
 Y県にある田舎の集落で、洞窟を発見した。不思議なことに、それは人の手によって作られたように見えた。規模はそれほど大きくない。出入り口から奥までは、十メートルくらいだ。横幅は、大人が二人並べるくらいだろう。一本道の一直線だから、入口に立って最奥を見ることもできる。とはいっても、灯りのない洞窟だ。実際は、暗すぎるせいで、入口に立っても最奥は見えない。
 洞

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エピローグ 完全なるハッピーエンドには遠くても

エピローグ 完全なるハッピーエンドには遠くても

 エリリカは、アリアの腕を勢いよく捕まえる。まるで、一生逃がさないとでも言うように。突然のことで、アリアは反応に遅れてしまう。
「私、エリリカ・フレイムとメイド長のアリア・アカシアも結婚することにしました」
「・・・・・・え、え、ええっっ!!!!」
 アリアが珍しく大声を上げる。こんな話は聞いていない。そもそも、アリア自身は一度も了承したことがない。エリリカの発言に一番衝撃を受けたのは、当事者であ

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第57話 セルタの話

第57話 セルタの話

 セルタの態度の意味がようやく分かった。彼はアスミが疑われていると勘違いして、怒っていたのだ。エリリカに挑むように質問しては、やり返されていたけれど。
 それに、アスミがアリアやエリリカを避けていた理由も分かった。エリリカはセルタの婚約者。セルタと付き合っていることが知られたら、と怯えていたのだ。それほど二人は思い合っている。結婚まで考えていても不思議ではない。セルタがエリリカの申し出をすぐに承諾

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第56話 アクア夫妻の秘密

第56話 アクア夫妻の秘密

「戦争に同意した理由は、アクア王国の勝ちが約束されていたからだ。アクア王国は、マーク大臣のお陰で文明、技術面ともに有利だった。どう考えても戦争に負けるはずがない。それなら、戦争に勝って上下関係をはっきりさせようと思ったのだ。
 わしらの考えた通り、戦争に勝つことができた。半年以上掛かったのは、予想外だったがな。コジーとエリー、ライ大臣は、降伏を申し入れてきた。戦争の理由を口外しないこと、降伏するこ

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第55話 気づいた理由

第55話 気づいた理由

「警備兵が通したのだから、あの場を通っても怪しまれない人物であることは確かです。また、城内の構造や事情、グラスの色をよく知る人物であることも条件です。城内の構造は、王族と一部の使用人しか入れない四階以上も含みます。平等にいきましょうか。私、メイド長のアリア、執事長のトマス、ライ大臣、勤続年数の長いかつ住み込みメイドのローラとアスミ、ダビィ王、ミネルヴァ女王、セルタ王子、イレーナ大臣。
 ライ大臣の

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第54話 犯人の話

第54話 犯人の話

「ローラ・ウェルは、アクア王国の前大臣である、マーク・スタンの娘よ」
 エリリカは、先ほどよりも落ち着いたトーンで淡々と話す。とうとう耐え切れなくなったミネルヴァが、悲鳴を上げた。ダビィは顔を抑えて下を向く。アクア夫妻はそのまま止まってしまった。
 アクア夫妻以外は、今日一番の衝撃を受けた。いや、与えさせられた。エリリカに向けられた視線が、再びローラに向けられる。視線を一身に受けても、両手を頬に添

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