紫音 咲夜

小説って良いな。 Twitter→@shionnsakuya

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最近の記事

記録1:祠と解けない雪③

 初芽が冴子に出会って気に入られたのは、入学してすぐの頃だった。四月も半ば、S大が女子大ということもあり、露出狂の出現が多かった。初芽が大学を出たところ、冴子もまた、露出狂と対面していた。気づいてしまった以上、放っておくわけにもいかない。  だから、初芽はそっと背後から近づき、変態男に背負い投げをかました。かなり太っていたが、体は簡単に宙へと浮く。その後は別のS大生が警察に通報し、変態男は無事に逮捕された。そして、なぜか冴子に気に入られた。 「男に声をかけず、いきなり背負い投

    • 記録1:祠と解けない雪②

      「で、どうだ?」 「はぁ。どうだ、と言われましても……」  火戦初芽は溜息をついて、もう一度パソコンの画面を見つめる。何から何まで胡散臭い雰囲気しか感じない。もっと言うなら、ブログのアクセス数欲しさに、奇妙奇天烈なことをやっているだけに思える。どうだ、と意見を求められても、特別感想など出てこない。  しかし、それをそのまま言ったところで、目の前の先輩、都々森冴子は聞く耳を持たない。彼女の中で答えは決まっていて、初芽はそれに従うだけだ。時々、どうしてこんな先輩に付き合っているの

      • 記録1:祠と解けない雪①

         オカルト調査日記  二〇XX年 〇月×日  Y県にある田舎の集落で、洞窟を発見した。不思議なことに、それは人の手によって作られたように見えた。規模はそれほど大きくない。出入り口から奥までは、十メートルくらいだ。横幅は、大人が二人並べるくらいだろう。一本道の一直線だから、入口に立って最奥を見ることもできる。とはいっても、灯りのない洞窟だ。実際は、暗すぎるせいで、入口に立っても最奥は見えない。  洞窟内には、祠が一つあるのみだった。場所は最奥で、扉が壁にくっつく形で置かれていた

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          『初芽と冴子のオカルト日記』の表紙

        記録1:祠と解けない雪③

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          『真寧姫子の百合営業日記(裏)』

          『真寧姫子の百合営業日記(裏)』

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          ゾンビハニワくん①

          ゾンビハニワくん①

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          エピローグ 完全なるハッピーエンドには遠くても

           エリリカは、アリアの腕を勢いよく捕まえる。まるで、一生逃がさないとでも言うように。突然のことで、アリアは反応に遅れてしまう。 「私、エリリカ・フレイムとメイド長のアリア・アカシアも結婚することにしました」 「・・・・・・え、え、ええっっ!!!!」  アリアが珍しく大声を上げる。こんな話は聞いていない。そもそも、アリア自身は一度も了承したことがない。エリリカの発言に一番衝撃を受けたのは、当事者であるアリアだった。あまりの衝撃に、声が裏返る。 「あの、そのようなお話は聞いており

          エピローグ 完全なるハッピーエンドには遠くても

          第57話 セルタの話

           セルタの態度の意味がようやく分かった。彼はアスミが疑われていると勘違いして、怒っていたのだ。エリリカに挑むように質問しては、やり返されていたけれど。  それに、アスミがアリアやエリリカを避けていた理由も分かった。エリリカはセルタの婚約者。セルタと付き合っていることが知られたら、と怯えていたのだ。それほど二人は思い合っている。結婚まで考えていても不思議ではない。セルタがエリリカの申し出をすぐに承諾したのだって、元から結婚する気がなかったからだ。  セルタとアスミは数分間、視線

          第57話 セルタの話

          第56話 アクア夫妻の秘密

          「戦争に同意した理由は、アクア王国の勝ちが約束されていたからだ。アクア王国は、マーク大臣のお陰で文明、技術面ともに有利だった。どう考えても戦争に負けるはずがない。それなら、戦争に勝って上下関係をはっきりさせようと思ったのだ。  わしらの考えた通り、戦争に勝つことができた。半年以上掛かったのは、予想外だったがな。コジーとエリー、ライ大臣は、降伏を申し入れてきた。戦争の理由を口外しないこと、降伏すること、わしらはどちらも受け入れた。条件を付けてな。それが、ローラだ。分かりやすく言

          第56話 アクア夫妻の秘密

          第55話 気づいた理由

          「警備兵が通したのだから、あの場を通っても怪しまれない人物であることは確かです。また、城内の構造や事情、グラスの色をよく知る人物であることも条件です。城内の構造は、王族と一部の使用人しか入れない四階以上も含みます。平等にいきましょうか。私、メイド長のアリア、執事長のトマス、ライ大臣、勤続年数の長いかつ住み込みメイドのローラとアスミ、ダビィ王、ミネルヴァ女王、セルタ王子、イレーナ大臣。  ライ大臣の事件を思い出して下さい。犯人の条件が分かりますね。それは、犯人がアリバイトリック

          第55話 気づいた理由

          第54話 犯人の話

          「ローラ・ウェルは、アクア王国の前大臣である、マーク・スタンの娘よ」  エリリカは、先ほどよりも落ち着いたトーンで淡々と話す。とうとう耐え切れなくなったミネルヴァが、悲鳴を上げた。ダビィは顔を抑えて下を向く。アクア夫妻はそのまま止まってしまった。  アクア夫妻以外は、今日一番の衝撃を受けた。いや、与えさせられた。エリリカに向けられた視線が、再びローラに向けられる。視線を一身に受けても、両手を頬に添えてニコニコとしている。しかし、アリアの悲しそうな顔を見て少しだけ切ない表情にな

          第54話 犯人の話

          第53話 質問:鳩

           エリリカは最後、挑発するかのようにローラを見た。当のローラは悔しがるどころか、面白そうという顔でエリリカを見ている。完璧な推理で負かされているのに、それが態度に現れていない。 「他にも質問したいことがあるんですけど~」 「え、一つって言ったじゃない」 「鳩に気づいたのはどうしてですか」 「全然聞いてないし」  エリリカは諦めて溜息を吐いた。ローラは自分の罪が暴かれているというのに、目を輝かせて説明を待っている。完全にいつものローラのペースだ。  ぶつくさ文句を言いながらも、

          第53話 質問:鳩

          第52話 そして、犯人は?

           注目された人物、もとい犯人、もといローラ・ウェルは、いつもの人懐っこい笑顔を崩さない。アクア夫妻は苦々し気な表情でローラを見ている。  この中で、一番驚いたのはアリアだろう。ローラのことは、ずっとずっと妹のように可愛がってきた。昨日だって、普通に話していた。  待て、とアリアは心の中で思う。最近ローラが話しかける内容は、「捜査がどれくらい進んでいるのか」ということばかりだった。アリアを通して、エリリカがどれくらい解けているのか、確認していたのだ。 「何日ぶりに話したのかしら

          第52話 そして、犯人は?

          第51話 イレーナ大臣の事件の真相②

          「「「「「「「「鳩っっ!?」」」」」」」」  全員の驚く声が綺麗に合わさる。  いや、誰かは分からないが、一人遅れて声を出したことにアリアは気づいた。サッと周りを見渡しても、全員が驚いた顔をしているせいで、見抜くことができない。  エリリカも気づいたようだが、あえてスルーしている。 「アリア、『最近は前よりも鳩が多いですわよね』って言ってたわね。その通りよ。最近急に、鳩の飛ぶ頻度が高くなった。私の誕生パーティーの朝も、お父様達の葬儀の朝も、鳩を見たわ。あの鳩が、ライ大臣の元に

          第51話 イレーナ大臣の事件の真相②

          第50話 イレーナ大臣の事件の真相①

          「最後に、イレーナ大臣の死について説明していくわ。  最初にも言ったけど、イレーナ大臣は毒殺された。この毒は、お父様とお母様を殺した物と全く同じ。これについても、クレバ医師に検死してもらったから確実よ」  クレバ医師が再び笑顔で手を振っている。  アクア城へイレーナ大臣を尋ねた日、彼女は帰らぬ人となった。部屋にあったパンの欠片を検分してもらい、同じ毒であることが判明した。これも、動かしようのない事実。 「毒は粉末状だから、普通は飲み物と一緒に飲むわね。それなのに、イレーナ大臣

          第50話 イレーナ大臣の事件の真相①

          第49話 ライ大臣の事件の真相②

          「ただ吊るすだけなら、水瓶は落ちない。そこで使用したのが氷よ。氷なら、部屋の温度を調節することで、水にできる。つまり、氷で水瓶を吊るせば、時間差で落とすことができるってこと。シャンデリアと水瓶を繋いでいた物がなくなるからね。  その三、水瓶の中の水の量と床の染みが合わないのはなぜか。それは、床の染みが水瓶の中の水じゃなくて、解けた氷だからよ。水瓶は吊るすために軽量化するはずだから、中に水は入れないわ。水瓶を吊るしていた氷が解けたから、あれだけ床が濡れていたのよ。  その六、暖

          第49話 ライ大臣の事件の真相②