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漫画みたいな毎日。「望まれたように、応えなくてもいい。」

先週、土曜日。
長男がサイエンス系ワークショップ「原生林での生態系を学ぶ」に参加するため、自宅から130キロ以上離れた土地での集合に合わせて、朝5時に出発した。

到着は、集合時間ぴったり。だいたい片道3時間。道産子の方々にとっては、「ちょっと息子を送ってくるわ。」という程度の距離らしい。北海道はでっかいどう!

長男が、集合場所から原生林までの送迎マイクロバスに乗り込んだのを見届けると、夕方まで時間ができた夫、私、二男、末娘の四人は、駅近くの科学館に向かった。

事前に調べた所、丁度「大迫力の恐竜ロボット出現!恐竜ワールド!」という特別展が開催されていた。

恐竜や古生物の好きな二男は好きかもしれないと思い、予約することにした。

二男は、要求の多くないタイプである。

嫌なことは、はっきりイヤと言うし、やりたくないことは、上手にスルーするが、然程、押しが強くない。

要求がハッキリ&強めの長男と末娘に挟まれた真ん中っ子なので、私も夫も気にかけている部分である。

「恐竜展、行く?」と聞くと、目を輝かせ、「うん!いつ行くの?!」と嬉しそうである。その顔を見られただけで、私も夫も嬉しくなる。

8時過ぎに長男を見送る予定だったので、科学館の開館に合わせ、一番早い時間の枠で予約をとった。

時間通りに受付に行くと、それなりに長い列が出来ており、入口には、「来場1万人を達成!」と大きな垂れ幕が掲げられていた。

宣伝とは、なかなか難しい。

地味過ぎれば、人は集まりにくいだろうし、過剰であれば実際とのギャップにより、場合によっては評判を下げることにもなるだろう。

私も夫も、勝手に期待したのだと思う。

会場は2つに分かれていて、時間入れ替え制。感染症拡大への配慮である。

入口には隕石が展示されており、子どもたちと一緒に興味をもって見ていると、係の方が丁寧に隕石について説明してくださった。その後も展示場の中でも、パネルに書いていないことを傍で説明してくださる。二男が熱心にひとつひとつの展示を写真に撮っている様子をみて、「この子は恐竜が好きなのだな」と感じてくださるのだろう。そのような係の方がいてくださると、「好きなことを楽しそうに味わう仲間」の様な感じがして、喜びを感じる。

恐竜展の前情報は、このようなものだった。

三畳紀、ジュラ紀、白亜紀の恐竜時代に迷い込みながら、古生物を学ぶ体験ツアー。
●<ロボット恐竜>「アロサウルスVSステゴサウルス」生体ロボットによる捕食シーンの再現
●<ロボット恐竜>白亜紀最強の暴君「恐竜王ティラノサウルス」の生体ロボット展示
恐竜誕生・三畳紀ワールド(エオドロマエウス生体復元モデル・三畳紀環境化石)
●ジュラ紀の羽毛恐竜(ケラトサウルス生体復元モデル・頭骨標本) など

恐竜ワールド特設ページより。

アロサウルスやティラノサウルスの生体ロボットは迫力があり、二男も末娘も「おおぉ~!」と何度も行き来して繰り返し観ている。次にはデジカメで撮影する。他にも化石のレプリカをひとつひとつ撮影する。

〈会場は決して広いとはいえず、展示物も予想以上に少ないなぁ・・・この展示でこの入場料はどうなのだろうか・・・う~ん。〉というのが大人の感想だった。しかし、展示を企画するだけでも大変なことであり、生体ロボットの制作には多大な費用と時間が費やされている。そう考えると、子どもたちが、楽しめる部分を自分たちで見つけ出し、味わっているので、それで十分だ。

学校の教室の一部屋分くらいのスペースなので、すぐに観終わって、入場してきた人たちは、あっという間に第二会場へ向かってしまう。私たちより後に入場した人がどんどん出口へと向かう。

そのような中、二男は小さな会場の中を行ったり来たり。何度も何度も見返す。私と夫は、その姿を微笑ましく眺めていた。

そして、その姿を観ている人が、他にも居たのだ。テレビの撮影スタッフだ。

おそらく、〈夏休みのオススメ!おでかけスポット!〉などの特集で、地域情報番組の枠なのだろう。

「ちょっとお話聞かせていただけますか?」と声を掛けられる。「お姉ちゃん(二男)、熱心に観ていますね。恐竜好きなんですねぇ。スゴイですねぇ。」

・・・お姉ちゃん、ではない。が、それはあるあるなので、どうでもよい。
恐竜好きなんですね・・・スゴイ?

色々疑問は浮かび上がるが、本人が嫌でなければ、インタビューを受けてみるのも経験である。

一通り観終わってからでいいです!と言われ、出口へと向かう際にインタビューを受けることになった。

まず、インタビューされた夫。

「いかがでしたか?恐竜展!」

「えぇ、そうですねぇ。思ったより、展示数が少なくて、規模が小さいなぁと思いました。」

夫よ・・・その通りです。
そして、絶対使われないヤツだ。
困ったインタビュアーは二男にマイクを向けた。

「恐竜好きなの?」
「うん。」
「どうだった?」
「思ったより、ティラノサウルスが小さかった。」
「面白かったかな?」
「うん、面白かった。」

噛み合っているようで噛み合っていない。

インタビュアー泣かせの親子である。

そして、私にマイクが向けられた。

「感染症が流行して、3年ぶりに規制緩和された夏休みですが、やはり今までの夏休みとは違いますか?」

インタビュアーの方の求める答えは、
「やっと規制緩和されて、好きなことろに行ける様になって良かったです!」だろう。

しかし、我が家は、ずっと同じスタンスで暮らしている。善し悪しではなく、ありがたいことに、困るほど行動に制限を感じていない。

「・・・そうですねぇ。安心して遠出できるようになったかな、とは思います。」

「ですよね!子どもたちを色々遊びに連れていけますよね。この夏休み!やはり、感染症が拡大して大変でしたよね!」

「そうですね、何にしても、子どもの学びの場が奪われないといいなと思います。」

インタビュアーの方は、明らかに戸惑った顔をしていた。

求められた答えを言っても良かったのかもしれないが、そう思っていないのに、マスコミの都合に合わせる義理はない。

一見、人の良さそうな家族に見えたのであろう。自分たちで言うのもなんだが、私も夫も第一印象が悪くなく、人当たりがよいと思われがちである。

人選ミスである。

私たちは、求められたことに応えるように教育で刷り込まれて来た部分があるのだと思う。

空気を読む、とか、相手の期待に応えるように発言するとか。小学校の感想文など、そのわかりやすい例ではないかと思う。知らないうちに、大人から求められているであろう感想文が賞を取ったりするのだ。

「こう応えてほしい」という希望が先にあっての問いかけ程つまらないものはない。

インタビュアーの質問に、終始笑顔ながらそのような圧を感じた。

それに対して、私は、違和感と不快感を抱いた。

恐竜が好きなら、スゴイ!
将来は、恐竜博士ですね!

薄っぺらい。

「恐竜が好き」でも、どこが好きなのかは個人によって違うだろう。恐竜が生きていた時代の自然環境に興味を示したり、化石という物体が気に入っていることもある。恐竜をきっかけに、何が子どもたちの中で育つかは未知だ。これは、引き出しの中にしまわれる〈何かの芽が出るかもしれない、一つの種〉でしかないのだ。

そんなことを思いながらインタビュアーを眺めてしまう私は、意地悪なのだろう。

撮影クルーも大変な仕事だと思う。望まれたを持ち帰らなくてはならないのだから。
彼らは仕事として、情報を提供するだけ。

そのを望むのは一体、誰?

テレビを観ている私たち?

誰だかわからない「みんな」?

そんなことをぐるぐる考えていたら、具合が悪くなりそうなので、一旦、思考停止することにした。

第二会場の模型で、「草食恐竜の食べ方」という展示があり、それを観た末娘が、「あぁ、この恐竜は前歯しかないから、お腹の中に草をすり潰す石があるんだね。」と言うではないか。

胃石のことである。

「なんで知ってるの?」と尋ねると、「二男と一緒に観た恐竜のテレビでやってたよ。」

点と点が繋がる。

こういう場に来ることは、新しい知識を得ることもできることだけではなく、今までの点と点を繋げる役割でもあるのだ。そして、繋がったものは、「自分のもの」として再び自分の引き出しにしまわれる。

二男もそのような作業をしているのだろうと思う。

帰宅してから、夫と、「ああいうインタビューって断るべきだったのかな?だって相手が望まれるようになんて応えられないもん。」「その方がお互いに時間の無駄にならないのかもしれないね。」という話にもなった。

「使えない・・・」とインタビュアーは思っただろう。

別に私たちの意見を知って欲しいわけでもなく、かと言って、その場で、異を唱える必要もないだろう。しかし、だからと言って相手の望む形で応える必要もないように思う。

誰が望んでいる応えなのだろう。
私は、どう思っているのだろう。

インタビューを受けながら、感じた「圧」は、社会に於いて、様々な場面に散りばめられているのだろうと感じた。

その「圧」を受け取り、相手の望む応えをし続けていたら、あっという間に〈自分〉を見失うのだろう。

いつでも、どんな時でも、自分に誠実でありたい。

時には誰かを傷つけない為に嘘を付くこともあるかもしれない。

でも、それによって自分を見失うようなことにだけはならないように。

二男と末娘は、恐竜展を楽しみ、常設展示も閉館まで堪能した。

「また来ようね!」と言っている子どもたちの姿が、大抵のことは、「まぁいいか。」と思わせてくれる。

しかし、大人は、その笑顔に甘え続けてはいけないのだとも思う。

もっと面白い世界が、これからも広がり続けているよ!と伝えるのが、大人の役割だと思うから。

熱心に展示物を画像に納める二男を画像に納める。
生体ロボットのティラノサウルス。サイズは子どもサイズとのこと。
デイノケイルスの前肢骨格標本。
私がこの日、一番感心した「恐竜コインロッカー」
40のロッカーの恐竜モチーフがすべて違う!
ドアの表面は木で、恐竜のシルエットを切り出している。
どのロッカーに入れるか迷った末、「フクイサウルス」のロッカーを選んだ。
二男はシルエットだけで恐竜の名前がわかる。


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