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連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その44


44.   目指せ!5ポイント!



ふたりの勢いに乗せられて
ひとり自転車で夜道を走った。


お客さんの家の前まで来て
怖じ気付く。


(こんな時間に来て、契約なんてしてくれるんだろうか?)


出来るだけ明かりがいっぱい点いている家で、
家族が多そうで、テレビが好きそうな家を選んだ。


ここにしよう。


集金でも配達でもなく、契約だけしに来て
良かったのだろうか。


いや、大丈夫だ。
あの二人はこんな感じで夜の街を
拡張に行っているではないか。


それにあと2週間ほどで
5ポイントを取らなければならない。

背に腹は変えられないぞ。
えいっ!


ピンポーン!



インターホンを押した。


「はーい」
女の人の声がした。
奥さんだろうか。


この家は銀行口座からの自動引落で
購読料を払ってくれているから
集金には来たことがない。


ガチャ。
ドアが開いた。


「はい?」


「あ、あの◯◯新聞です。いつも配達に来てる者なんですけど、、」


「あ、それはそれは。いつもご苦労様です。」


なかなか優しそうな感じの奥様だった。


「あ、あのですね、新聞のほうの契約がもうすぐ終わるので、また引き続き契約を更新していただきたいんですけど、、、」


「あー、そう。いいわよ。」


「あ、ありがとうございます!」


私はそう言って奥様に頭を下げた。
これで1ポイントだ。
この調子で1日1ポイントずつ取れば
5日間で達成ではないか!
なんか簡単な気がした。


そんな事を考えながら頭を上げて
奥様のほうを見た。


奥様と目が合った。
優しくおっとりとした感じだ。


「何か書く?」


「あ!そうなんです!」


すっかり仕事を忘れていた私は、
契約カードとペンをポケットから出した。


「これに名前と住所を書いてもらって、ここにハンコを・・・」


「はーい。」


奥様はそう言って私が渡した契約カードとペンを受け取り、
下駄箱の上に置いて、それを書き始めた。


右手で書きながら、左手で髪をかきあげていた。
肌の色が真っ白だった。


綺麗な字だ。
字に性格が出るような気がする。
綺麗すぎず、砕けすぎず、愛嬌を少し残した字だった。


「そんなに見られたら緊張しちゃう。」


「あっ!すいません!えーっと、あの・・・
あ、洗剤を・・洗剤を・・」


外に居る自転車が
「今日は何も積んでないじゃないか。」と
言ってウインクしてきた。


「洗剤を、今日は持って来てないので、また今度持って来ます。
すいません。」


「なんで謝るの?いつでもいいわよ。あ、そうだ!
今度の日曜日ウチにご飯食べに来ない?」


「ええっ?!ご飯ですか?」


「うん。日曜日の夜だったらウチの娘も居るから一緒に食べるんじゃないかな。」


「娘さんが居るんですか?」


「うん。高校生だから何かと忙しいみたいで、なかなか家に居ないの。」


「部活とかバイトとか忙しいですよね。」


「そうそう。あなたは今、何歳になるの?」


「僕はハタチです。」


「そう。ウチの娘は18だから、同じくらいじゃない?」


「そ、そうですね。」


緊張とありえない誘いに
なぜか逃げ出したい気持ちになるのはなぜだろう?


ここは男だ、直樹よ。
黙って誘いに乗るのだ。
勇気を出せ!


心の声が耳元で囁く。
幼い頃から私は二重人格者だ。


私は自分の四畳半の部屋で一人、
布団にくるまって漫画を読みたい気持ちを
追い払ってから言った。


「では、日曜日の夜に洗剤持ってまた来ます。」


「うん。ご馳走作って待ってるわね。」


手を振ってくれている奥様が
閉めたドアの向こうに消えた。


後ろを振り返る事なく真っ直ぐに
相棒の自転車にまたがって、前だけを見て
全力で漕いだ。


汗がドッと出る。

相棒が言った。

「洗剤、持って来なくて良かったな。
次も忘れたらどうだ?」


「いや、きっとあの人は洗剤なんてどうでもいいんだよ。」


「なんてこった!今日はやけに自信たっぷりじゃないか!相棒!」


「何を言ってるんだ相棒。俺はいつでも自信たっぷりだぜ。」


そんな相棒の自転車との心の会話で、
荒れ狂った自分の気持ちの波を鎮めようとした。


1ポイント獲得した。
あと4ポイント必要だ。


心が耐えられるか心配になってきた。


〜つづく〜

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