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戦争について考える15曲(+3曲)

今回は日本のミュージシャンが発表した楽曲の中で戦争をモチーフにしたもの、関連するワードが入ったものを選んでアルバム1枚分(トータルタイム78'38")のプレイリストにまとめてみた。

選曲にあたっては「きのこたけのこ戦争」(打首獄門同好会)のように、戦争というワードが単なる争いの意味で使われている例は除いている。Apple Musicで同内容のプレイリストを作成し公開したので、同サービスのユーザーさんは是非そちらから。ちなみにサブスク配信されていない楽曲は最後にボーナストラックとして紹介した。こちらはリンクから補完してお聴きいただければと思う。なおSpotifyはCEOが軍事企業に加担したと公言しているため、ここで扱うのは相応しくないと判断し、リンクはありません。

1. 戦争がおきた/アナログフィッシュ (5'56")

アルバム「荒野 /On the Wild Side」(2011)収録。日常の中に突如として飛び込んでくる戦争の一報。胸がザワザワしながらも、遠い国で起きているそれに対して何かできる訳もなく、結局変わらぬ日常が続いていく。淡々としたリズムに飾り気のない下岡のヴォーカルが胸を打つ名曲。本楽曲収録のアルバムは2011年当時の混沌とした世相の中で鮮烈なメッセージを放ち、ファンから名盤として名高い。

2. No.9/ASIAN KUNG-FU GENERATION (3'33")

アルバム「ワールド ワールド ワールド」(2008)収録。軽快な四つ打ちダンスロックだが、詞はいたってシリアスである。サビで繰り返される"パトリオット"とは「愛国者」の意味で、直接的にパトリオットミサイルの事を指している訳ではないとゴッチは語っている。しかし原爆を思わせるワードも歌詞に見られるため、いずれにせよ反戦歌として捉えてよいと思う。"もう誰も泣かせないで" "もう何も落とさないで" "もう何も壊さないで"といった切実な表現が胸に迫る。

3. Horse Riding/the HIATUS (4'10")

シングル「Horse Riding EP」(2013)収録。これは戦地に赴いた兵士の歌ですね。擦り切れた写真から思いを馳せる「君」との関係性がすごく素敵な曲。

What do I want to do with all this turmoil over
(この騒乱が終わったら何をしたいかな)
Probably cry in your warm toxic embrace
(暖かくてくせになりそうな抱擁の中で泣きたい)

4. コバルトブルー/THE BACK HORN (4'27")

2004年にシングルとしてリリースされ、ライブではほぼ必ず演奏される代表曲。リリース当時は意識していなかったけれど、これは特攻隊の歌なんですね。だから"俺達は風の中で 砕け散り一つになる"なのか、と合点がいった瞬間をよく覚えている。こういった視点の曲は珍しいし、まして普通は代表曲にならなさそうなものだが、ある意味生と死を描き続けてきたバックホーンらしい気もする。

5. NO ~命の跡に咲いた花~/ストレイテナー (5'09")

2015年リリースのシングル曲。メインストリームのロックバンドが反戦歌を表題曲に持ってきた珍しい例の1つだと思う。(※今回のプレイリストでもシングル表題曲は僅かに5曲)  ホリエアツシが長崎出身である事から、"祈りの上に鐘が鳴り" "石畳の坂は続く" "港に花火が響き"など長崎の風景を思わせるワードが随所に見られる。

6. 戦争と政治家/ザ50回転ズ (5'06")

アルバム「50回転ズのビリビリ!!」(2007)収録。ハイテンションなロックンロールバンドのイメージがあるだけに、この曲はかなり異色なポジションだと感じる。戦争が始まるのも終わるのも、結局は政治家次第。そんな彼らに対し「忘れるな」「覚えとけ」と強いメッセージを投げかける。怒りのエネルギーに満ち溢れた曲。

7. 人間/銀杏BOYZ (10'15")

アルバム「DOOR」(2005)収録。いわゆる反戦歌ではなく、戦争について言及しているのは以下の1ヶ所のみ。

戦争反対 戦争反対
戦争反対 戦争反対
戦争反対 とりあえず
戦争反対って言ってりゃあいいんだろう

「戦争反対」と大きなメッセージを語ったところで、僕は目の前の「君」を救う事すらできないただの人間である。そのモヤモヤに折り合いをつけられず、堂々巡りのように同じメロディーを延々とループしていく。しかし中盤に入ると、それまでのアコギ一本の異様に生々しい録音から一転、轟音のバンドサウンドに至るのが興味深い。10分に及ぶ超大作ながら、長さを感じさせない構成力にも唸る。

8. 明日なき世界/RCサクセション (4'52")

洋楽を日本語詞でカバーしたアルバム「COVERS」(1988)収録。核や原発について歌った曲が東芝EMI社内で物議を醸し、発売が中止になったという逸話で知られている。

結局は古巣・キティレコードから終戦記念日にリリースされた今作の1曲目がこの「明日なき世界」。歌詞はメッセージ性というよりは戦争への素直な感情を書き綴ったもので、終始口語で書かれたその口調が聴き手の共感を呼ぶポイントだろう。

近年”政治的”と批判されるような要素満載の楽曲及びアルバムなのだが、清志郎は真正面から対峙し、おかしいものにははっきりと「おかしい」と主張する。音楽に政治を持ち込むな、とよく言うけれど、その音楽に共感できないのなら別に聴かなきゃいいだけのハナシなのである。本作は政治的である事が、かえって聴き手の絶大なる信頼を得ている例の1つだろう。ま、そもそも「政治的な音楽」という捉え方自体もどうかとは思うのだが、ここでは便宜上。

9. 極東戦線異状なし!?/ソウル・フラワー・ユニオン (6'02")

2004年リリースのシングル曲。冒頭いきなり"その戦争をやめさせろ"とある通り、いわゆる反戦歌である。平和な世界からすれば異常な光景がもはや日常と化してしまった戦地のリアルな情景が綴られている。タイトルにのみつけられた"!?"に、戦地からの嘆きと叫びが詰まっているように思う。

10. 戦争と僕/サンボマスター (4'39")

※動画無し

アルバム「僕と君の全てをロックンロールと呼べ」(2006)収録。戦地に赴く前日の気持ちを歌った曲で、サンボマスター得意のメロウネスをたたえたアレンジが印象的だ。
余談だが、"今年も故郷じゃ リンゴがなったよ" "今年も故郷じゃ 雪が降ったよ"という記述からすると、主人公の男の故郷は青森あたりだろうか?

11. Love the warz/SEKAI NO OWARI (5'22")

アルバム「ENTERTAINMENT」(2012)収録。戦争と平和は相反する概念のようでいて、平和や幸福を守るための戦争もあるのではないか?本当の正義とは、愛とは一体何なのか?といったメッセージを投げかける曲。セカオワは若い世代(といってももう中堅?)にしては珍しく、「虹色の戦争」「世界平和」といった戦争や平和をモチーフにした楽曲を複数発表している。

12. シュプレヒコール/RADWIMPS (5'44")

2012年リリースのシングル表題曲。直接の反戦歌ではないが、「核弾頭」「三次世界戦争」といったワードを用いて、戦争を含む広義の「争い」について歌っている。平和に慣れていつしかそれが退屈に変わったら、結局人はまた争いを始めてしまうのだろうか?平和と争いは対極のようでいて実は隣り合わせにある、そんな事を考えてしまう曲。

13. 蛍/サザンオールスターズ (3'14")

バンド再始動第1弾シングル「ピースとハイライト」(2014)収録。映画『永遠の0』主題歌に起用されている。戦死した特攻隊の仲間を見送る情景が描かれたバラードで、美しいストリングスアレンジが胸を打つ名曲。最後には"夢溢る世の中であれと 祈り"と平和への願いが見られる。サザンには他にも「平和の琉歌」「平和の鐘が鳴る」など、戦争と平和への思いが込められた楽曲が複数ある。

14. War&Peace/坂本龍一 (5'32")

アルバム「CHASM」(2004)収録。ベースとなるアンビエントなトラックがループされる中、徐々に音数が増えていく構成になっている。リリックも異色で、世界各国の20人もの人々が"Is war as old as gravity?"(戦争は重力と同じくらい古いのか?)、"Why do they compare war to a man and peace to a woman?"(何故戦争は男と、平和は女と比較されるのか?)などといった様々な問いかけをしていく内容。後にYMOとして演奏された際のテイクも存在し、そちらはライブアルバム「LONDONYMO」で聴く事ができる。

15. 戦争は終わった (シングル・ヴァージョン)/ピチカート・ファイヴ (4'44")

1999年リリースのシングル「パーフェクト・ワールド」のカップリングに収録。この曲では戦争に言及するサビ以外においては、何の関係もない主人公の1日を時系列で表している。2日酔いで午後に目覚めた主人公の生活感溢れる描写から一転、サビでは"戦争はどうして 終わらないのかな"と突如スケールの大きな話へと展開していく。生活の自堕落ぶりを棚に上げ、壮大なテーマに思いを巡らせ始めるのだ。ここで唐突に出てくる戦争の話が、生活の退廃性との対比を生んでいるように感じる。平和でなければ退廃的な生活などできないのだ。

そして歌詞とは逆に「戦争は終わった」とタイトルをつける小西さんのセンスもエグい。少なくとも日本において現状戦争は行われておらず、歌詞では他国の戦争についても言及されていない事から、余計な心配をする主人公へのアンサー、ツッコミのようにも思える。この辺りは解釈が分かれるところだろう。

なおアルバムでは大幅にアレンジが違うほか、小西康陽のソロプロジェクト・PIZZICATO ONEではYOUを迎えてセルフカバーもされている。
ちなみに「戦争がおきた」で始まり、「戦争は終わった」をラストに据えた点が本プレイリストのこだわりポイント。

[Bonus Track] ※サブスク未配信

1. THE WAR SONG/山下達郎 (5'12")

アルバム「POCKET MUSIC」(1986)収録。本作は2020年にリマスター盤もリリースされた。

THE WAR SONG=戦争の歌という事で、達郎本人も反戦歌であると語っている曲。前半部分においては戦争は未だテレビの中での出来事で、"本当の事なんて 何一つ届きはしない" "悲しみの声に答える術もなく 僕はどうしたらいい"と、戸惑いや若干の諦念ムードが見られる。しかし後半になると、戦争が我々の元にも忍び寄ってくるのが窺える。

誰一人知らぬ間に
鋼鉄の巨人が目覚め
老人は冬を呼ぶ
キャタピラの音が轟く

そしてラスト、唯一の英詞で"WE JUST GOTTA GET UP RIGHT NOW!" "WE MUST SAVE THIS WORLD SOMEHOW!"と強い決意の言葉が並ぶ。キャリアの中でも異色の楽曲なのは間違いないが、あくまで自然にポップソングとして成立しているのが達郎さんらしい。ライブアルバム「JOY」には10分を超えるロングバージョンで収録されている。

2. Beginners/曽我部恵一 (2'59")

2022年、ロシアのウクライナ侵攻を受けて書き下ろされ、早々にアップされた曲。サニーデイ・サービスのYouTubeチャンネルで公開されている。反戦を高らかに叫ぶわけではなく、これといったメッセージ性もない。分かるのはグーグルマップが教えてくれるウクライナとの距離、そして"戦争よりもセックス"だってこと。全編打ち込みのトラックにも意表を突かれた。

3. 兵士Aくんの歌/七尾旅人 (6'13")

2015年、SoundCloudにて発表。音源としては未だCD化などの正式リリースはされていないが、DVDやYouTubeでライブ映像を見る事ができる。

ニュースで報道される戦死者Aくん。Aくんという呼び名で見えなくなっているが、彼にも友達が、兄弟が、恋人が、そして親がいる。歩んできた人生がある。戦争はそれらを全て破壊し尽くし、犠牲になった人達は戦死者というラベルのもとA、B、Cのように単純化されてしまう。一人一人の物語は、そこにはもうない。

兵士Aくんとは、近い将来に現れるかもしれない1人目の戦死自衛官を指しているのだという。そんな日が本当に来てしまうのだろうか?この詞がフィクションであり続けるためには、我々はいかなる戦争危機にも抵抗しなければならない。戦争に反対する人を揶揄したり、嘲笑ったりする余裕など、もうそろそろないんじゃないだろうか。

おわりに

戦争が始まって約1週間。反対の声を挙げる人、ウクライナに対し寄付などで支援をする人、そんな彼らを冷笑する人、静観する人。SNSにおいてその人のキャラクターと戦争に対するスタンスの関係性を、日々興味深く見ている。

では、ミュージシャンはどうだろう。野田洋次郎のようにはっきりと言葉にする人、曽我部恵一のように早速曲にしてアップする人、あるいは戦争にまつわる他者の曲を紹介する人もいた。

日本では音楽に政治を持ち込むな、という主張がなぜか多い。それに対してボブ・ディランは、ジョン・レノンは…などと大物ミュージシャンの名を引き合いに出した反論も随分と手垢のついたものになってきた。

同様に反戦歌を揶揄する人達も一定数おり、戦争は音楽として扱うのが依然として難しいテーマである。ただそこには市井の人々の悲しみや平和への祈りがあり、アーティストの主義・主張と切り離して描く事ができるのもまた事実だ。

音楽家は実に多くの切り口で戦争を描いてきた事が、プレイリストからもよく分かる。今回のウクライナ侵攻を受けて何を考え、何を表現するのか。引き続き見守っていきたい。

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