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#049それは仕事に役に立つのか?ー学芸員の仕事は何をすれば出来るようになるのか

 秋に入り、仕事柄として繁忙期に入るもので、出前授業や講演、史跡見学会などの予定が立って混んでおり、もうへろへろです。そのため1か月ぶりの更新となりました。

 今回は高校生を対象にした講演で述べたことについて述べてみたいと思います。今回の講演では、終始2人だけ講演の最初から最後まで寝ていたので、何とか興味を持ってもらえるような話をして、起きて聞きたいという気持ちに出来ないかと思い、急遽自分の若いころにはどのようなことをしていたか、という話を途中で本筋に絡めながら、10代の学生さんたちにとって卑近な例として感じもらえればということで話をしてきました。結局、その2名は最後まで起きなかったのですが、今回はその時にお話しした内容などについて記してみたいと思います。

 10代のころ、中学、高校生のころの筆者は、現在のような仕事に就くことはまるで想像出来ない、どちらかというと美術方面で身を立てようと思っている学生でした。しかし、中学時代に美術部の同級生でどうにも素晴らしく上手な人がおり、身近でこんなに上手な人がいてるようなら、上の学校へ行けばもっとたくさんすばらしく上手な人がいてて、自分なんかでは太刀打ち出来ないだろう、とだんだんと思うようになってきていました。筆者の通っていた中学校のレベルは低かったものの、一応いわゆる勉強はそこそこ出来る方で、高校に入ってからは、その中でも社会科、特に歴史が得意であったので、そちらの方向で大学へ進学することになります。しかし「学芸員、研究者の仕事をするには何が役に立つのか?」でも記した通り、毎週一本は映画を見る、毎週一箇所は博物館、美術館、ギャラリーで展示を見る、より多くの人に合って話を聞き、交友を持つ、といったものでした。大学生の時でしたので、まだまだレンタルビデオが華やかなりしころでしたので、レンタルビデオ屋でアルバイトをして、役得として無料で借りて帰ってみることが出来たので、さまざまな作品を見る経験が出来ました。海外のものでは「イントレランス」や「メトロポリス」、「戦艦ポチョムキン」など映画草創期の作品や、チャップリンの出演、監督作品などを見、日本の作品では黒澤明や岡本喜八の監督作品などを重点的に見ました。もちろん当時のハリウッドの大作や話題作なども見ましたが、何せ役得で無料で見れるので、少しでも引っ掛かりを感じたら片っ端から見るということをしており、年間約50本、4年間で200本は見た事かと思います。ただ、これらを見たからといって、特に歴史学を学ぶうえで何かの役に立つわけではないのですが、映画についての話をする際には、実際に見たものについて実感をもって述べることが出来るので、これはこれで他の人が持ち得ない感想などを述べることが出来るため、よく学会の後の飲み会の席や泊りがけの史料調査の宿での憩いの場では非常に重宝しました。これはのちにさる研究者に言われたことなのですが、史料調査も、読書も、映画鑑賞もたくさん数をこなせば、それらの量はいずれ質に転化する、と。これを言われた当時は、そんなものなのかと、よく判らなかったですが、今にして思えば、多くの凡例、データを蓄積する事から来る実証性の精度の高さなどに役に立つ、ということなのだ、ということが判ります。こちらも先輩研究者から言われた受け売りですが、別に学問的な事で色々と詳しくなる必要はない、別にコンビニ・スイーツについてならどれでも食べたことがある、ということや、インスタント・ラーメンなら任せてくれ、ということなど、何でもいいので凝り性であることが、研究や学芸員をする上で役に立つ資質だということを言われたことがあります。高校で講演した際には、こういうことを言うと親御さんに叱られるかも知れませんが、という前置きで、これから先、自分にとって何が武器になるかは判らないので、何でも経験する、その上で多くのデータを集める、それがたとえくだらないものだったとしても、直接的ではなくても間接的にでも役に立つ日が来る、と伝えました。若い人たちには、実際、どのくらい響いているのかは判りませんが。

 また、学芸員は何でもする「雑芸員」とも言われます。それこそ、展示の企画から予算編成、史料の調査、収集、研究に、図録の作成や展示の実務。職場の受付や電話対応もしますし、掃除もします。たくさんの雑務をしつつ専門の仕事をこなします。学芸員の専門性というのは必要ではあるのですが、必ずしも自分の専門の仕事ばかり出来る訳ではなく、所蔵者から持ち込まれた史料を使って分析、研究し、展示に繋げることや、学校などで望まれるまま新しいジャンルについて知識を仕入れて出前授業をする、などのことを行います。そのため、短期間で「その道のプロ」になる必要がある訳です。これは聞くとなかなか難しそうなことに思えるかもしれませんが、大学院時代に、自分の指導教員が「君たちの卒業論文ぐらいのものなら1ヶ月くらいあれば書くことが出来る」と言われたことがあり、それなりのキャリアを積めば、そのようなことが出来るのだなぁ、などと思っておりました。実際に筆者が30代以降になって、この発言の意味が判るようになるのですが、これは20代で卒業論文や修士論文などをきちんと仕上げておくことで、1つのテーマをどのように調べて論文に仕立て上げるか、という方法論を身に着けることが出来る、そのため新たなテーマに出会っても、その方法論を用いて準備すればやみくもに時間がかからない、ということが言いたかったのだと。この調べもののの方法論を身につけていれば、少々ジャンル違いのことを任されたり、あるいは未知の史料の展示をするとしても、何とかものにすることが出来る、という訳です。

 冒頭で述べましたように、高校生への講演会では、このような話をしたのですが、壇上から会場を見渡してみて、どうしても2人だけ寝たままの学生がいたので、何とか面白い話、役に立つ話をして起こしてやろう、と思っていたのですが、ついぞ彼らには届かずに終了しました。もちろん、自分の親ほどの人の話は説教くさく聞こえるというのが若者の相場ではあるのですが、もう少し若い人の心に響く話が出来ないものかなぁ、と。自分の子供や友達の子供ならいくらでもツボにはまる話は出来るのですが、普遍的に心に響く話というのは、なかなか難しいものですね。

 

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