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2021ファジアーノ岡山にフォーカス34 J2:第30節:ジュビロ磐田vsファジアーノ岡山(Away) 「守備は最大の攻撃」

1、 前置き

 プレーオフがない今季は、J2に残留できるかどうかという状況ではあるが、チームの状態を高めて行く中で、上位との対戦が唯一の楽しみである。別サイトのSNSサービスにて、プレビューを投稿して、自宅で、その時を待っていたが、抑えられない気持ちの高まりは、やはり磐田というチームが、今季のJ2では、特別なチームであることも関係しているだろう。

 岡山としても、スタメンに19ミッチェル・デュークと、リザーブの9李 勇載のピッチに共に立つ時間があるかどうか。スタメンとなった48石毛 秀樹が、チームにどういった変化を生み出してくれるのか。間違いなく今季のベストメンバーと言える布陣で、磐田に対して、どこまで戦えるかと考えると。サッカー好きで、岡山も好きとしては、試合前から試合が始まっている状態である。

 磐田のメンバーでは、元日本代表の50遠藤 保仁を筆頭に、得点王争いを繰り広げる11ルキアンなど、J2屈指の選手を中心に多くのタレントを擁する。10山田 大記が、怪我で欠場であるのは残念ではあるが、こういったタレントを擁する首位のチームは、選手層が厚い。また、磐田に関しては、メンバーを固定気味にすることで、一年通して、時間をかけてチーム作りをしてきており、完成度が非常に高いチームでもある。

 そして、この試合開始前の段階で、J2最多得点の磐田の矛と最少失点タイの岡山の盾との攻守の攻防というのは、最大の注目点である。こうしたチームの攻防から見えてきた岡山の現在地や方向性や特色、こういった強いチームとの対戦でしか見えないチームの発見にフォーカスを当てつつこの試合を振り返っていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

2、 シンプルにしたい磐田

メンバー:2021ファジアーノ岡山「第30節vs磐田(Away)」レビュー

「ファジアーノ岡山」
・いつもの1トップ色の強い4-4-2。
・19ミッチェルがスタメン復帰。
・エースの9李がリザーブ控える。
・5井上と7白井が全試合フル出場継続。
「ジュビロ磐田」
・完成度の高い3-4-2-1システム。
・得点王争いをするエース11ルキアンがスタメン。
・中盤の要の50遠藤と守備の要の3大井もスタメン。
・17ルキアンと17鈴木が全試合出場継続。

 磐田は、J1の首位チームらしく、自分達の個を活かすために攻守共に、シンプルにプレーする事を意識したサッカーを展開する。個の力、つまり技術を活かすには、シンプルな局面が一番技術を発揮し易い。1対1でのドリブルや一本のパス、クロスの質が問われた上で、最後のフィニッシュ。つまり、シュートの質が問われる場面を如何に作り出すか。そこが磐田のサッカーのテーマである。

 具体的には、攻守で無理をしない事で、人数を掛け過ぎない、走り過ぎない事である。攻められるときは、素直に守り、攻める時は、じっくりバランスを維持しつつ、ゴールに迫る。その上で、大事にすることが選手の距離感である。選手の距離感を適度に保つ事で、攻守でのチームのバランスを巧く保つことができる。

 その反面、攻守で、個で求められるクオリティはより高いものが求められる。例えば、パス1つをとっても、長くなれば長くなるだけ、精度の高いパスが求められるが、この試合の磐田のパスは、速く正確に足下につけるパスと、徐々に球足が遅くなるスペースへのパスの使い分けは素晴らしかった。特に後者は、岡山ではなかなか見る事ができず、ラインを割る事が多いが、磐田は止まるので、追いつく事が多い。

 クロスに関しても、距離感を保つことで、ピッチを広く使った上で、中央からサイドに展開する事で、サイドの選手がフリーで受けて、寄せが来る前に空いた空間へ正確なクロスを通す。グラウンダーであれば、8大森 晃太郎への低めのクロスもDFとGKの間の空間へ通す事で、決定機となったようなクロスを通すことを意図したクロスを狙って行く。

 先制点となったクロスは、DFとDFの間への空間への優しいクロスで、そこに飛び込んだ11ルキアンが、コントロールしたヘッディングシュートを放つことで、GKの壁を越えて、ゴールに吸い込まれた。岡山であれば、クロスを挙げる前に寄せられて、ドリブルや駆け引きでの局面打開が必要になる場面や、精度を欠いたことで、クロスが流れてGKにキャッチされる事や、ラインを割る事も多い。

 この様に磐田の攻撃は、如何にシンプルな局面を作るかというのに特化しているチームと言える。磐田の最多得点は、J2屈指のタレントを擁する攻撃陣を如何に活かすか。そこに特化して、個で負けない事を前提としたチームである。更に、多くのポジションで相手チームを上回る事で、得点を量産し、勝ち点に繋げてきた。

 一方で、守備は、選手間の距離感を無暗に崩さない事で、シンプルに1対1で対応する。人数を掛け過ぎれば、攻撃へのパワーが落ちるので、必要最低限で耐える。そして、距離感が保てているので、危険なゴール前の空間を過度に開けない事で、一定の安定感に繋げる事ができる。ただ、距離感を意識するという事は、人数もギリギリなので、1対1で負けない事が求められる、負けて突破されてしまうと、一瞬で危険なシーンに陥ってしまう。

 個の守備の高さは、前半では、ほぼ思い通りにプレーさせなかった19ミッチェル・デュークへの対応や、試合終盤に27木村 太哉のカウンターに成りかけたシーンでの1対1でボール奪取してみせたシーンからも分かる。一方で、9李 勇載が入った時に、代表クラスのJ2でもトップクラスの2トップになった時には、流石に守備バランスは崩れていた。

 ドイツ一部に移籍した伊藤 洋輝が、磐田に残っていれば、この2人がいても効果的な攻撃は、難しかったかもしれない。岡山サポにも分かり易く説明すると、9李 勇載と19ミッチェル・デュークが、2人か1人かの差という感覚で捉えて頂いて差し支えないだろう。伊藤 洋輝は、ドイツで活躍すれば、肩書が好きな森保監督の目に留まる可能性は高く、A代表デビューの可能性も十分ある。

「磐田のサッカー」
・個を活かすためにシンプルな状況を作った上で質を活かすサッカー。
・一定の距離感を保つことを意識した上で自立したプレーを志向。
・ハードワークや人数をかけた対応は必要最低限で、均衡を保つ。
・組織は個のために、個の力を発揮できてこそ組織として機能する。

3、 カオスにしたい岡山

 前項の通り磐田が個の力を活かすためのサッカーであれば、岡山は、個の力の差は隠すために局面をカオスにする。つまり、複雑にすることで、ミスを誘発させて、良い守備から、少しでも良い状況を作る事や、攻撃回数を増やす。守備では、人数をかけて対応する事で、攻撃を遅らせる。もしくは、スペースやシュートコースを消す事で、最終的に失点する事を防ぐサッカーである。

 具体的に、どうするかというと距離感を攻守で近くする事で、攻守で連動して対応する。攻撃では、個でキープするというよりは、寄せが来たら近くの選手に預ける。そこで前を向ければ、人数をかけて、攻撃に移る。1人で、アクションを起こすというよりは、ベクトルを合わせる事で、人数をかけて、ゴールを目指す。

 個で勝負できる場面が少なければ、人数をかけた攻撃で、個性の部分で、磐田の選手にも勝負できるプレーで、チャレンジできる状況をパス回しによって作る。もしくは、勝負できる選手にパスを集める事で、対抗する。こうした様に、ハードワークする事で、攻守のバランスのどちらかに比重をかけた後に、運動量で素早く攻守を切り替えで修正する事で、試合を通して攻守のバランスを保って戦う事を目指す。

 実際に、14上門 知樹が、終了間際に疲労困憊であったのに対し、磐田に何処か余力が残っていた様に感じたが、それは、やはり岡山が、磐田に対抗するために、攻守でハードワークしていた事は大きいだろう。この様に、岡山は、工夫する事で、実力的に格上のチームに対抗するという戦い方を選択して、1-1というスコアに持ち込むことができた試合である。

 岡山のスタメンのメンバーの構成を見て行くと、攻守共にバランスの取れた選手が多くなっている。カオスな状況を作るためには、攻守共に関与できる選手が多い必要がある。攻撃に特化した選手は、48石毛 秀樹と16河野 諒祐、11宮崎 智彦の3選手ぐらいで、GKの31梅田 透吾ですらビルトアップへの関与の巧さや、FWの19ミッチェル・デュークすらプレス強度の高さを持っている。

 攻撃に特化した48石毛 秀樹に関しては、絶妙なバランス感覚でのパスセンスを、守備にも生かしている。16河野 諒祐も迷いない攻撃的なプレーのアグレッシブさを、守備アクションで、守備の軽さを隠したプレーができている。11宮崎 智彦も巧みなパスに裏付けされたテクニックをボールの持ち所で、ボール保持の攻防で、優位に立つ事で、後方に安定感を生み出している。

 この様に、岡山は、選手の配置と特性を巧く、分布させた上で、上手くバランスを保っている。ただ、基本的には、守備強度を保つために、セカンドボールへの反応への意識や、人数を掛けた守備、前線から後方を含めた守備意識は高く保つことで、90分間通して、豊富な運動量で、1点差勝負に持ち込むことができる。

 そして、基本的には攻撃において、個の力での真っ向勝負では、磐田に対抗できない。実際に、パスがずれる事や、トラップが乱れてしまう事、クロスが合わない事。攻撃時のゴールに近いアクションこそ、岡山の技術的な理由によるボールロストが多くなるため、ボールロスト後のアクションを強く意識したサッカーとなっている。

「岡山のサッカー」
・組織を活かすためにカオスな状況を作った上で運動量を活かすサッカー。
・近い距離感を保つ事を意識した上で連動したプレーを志向。
・ハードワークや人数をかけた対応を軸に均衡を保つ。
・個は組織ために、組織力があって初めて個が活かせる。

4、 攻撃は最大の防御vs守備は最大の攻撃

 矛と盾の対決に相応しい対極のサッカーであることは、ここまでで、ある程度お伝えしてきましたが、この試合が、何故1-1というスコアになったのかという点に関して、両チームの攻防でのポイントにフォーカスを当てて、整理していく事で、よりこの試合を掘り下げていきます。この項目の題名が全てでありますが、特に後者と言える理由についてまで言及してきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。

 まず、岡山が多くシュートを打てた理由に関してですが、中盤の攻防が大きく関係している。50遠藤 保仁が、ほぼ攻撃に専念していて、ハードな守備を積極的に行うというよりは、ポジショニングによりパスコースの限定や、攻撃を強く意識したものとなっていた。そのため、23山本 康裕が、1人で、バイタルエリアをカバーする事になっていた。

 そのため、中盤での攻防で、セカンドボールが回収する機会も多く、ここでの攻防で、磐田がマイボールで落ち着かせる事がなかなかできなかった。逆に岡山が、ここで、ボールを奪えた事で、ショートカウンターを何度も発動させることができた。そもそもこのエリアが空いているために、ミドルシュートという選択肢を持ち易く、多くシュートを打つことができた。

 ただ、そこで得点が入らなかったのは、磐田の36三浦 龍輝のセーブ範囲の広さも関係している。特にペナルティエリア外からのシュートのセーブ率は高く、一時期は、0を続けていた時期もあった。こうした信頼と、乱れない磐田のDFラインのポジショニングのバランスにより、最も危険な所を抑えていたのも大きい。

 一方で、攻撃時に50遠藤 保仁にボールが渡った時には、高いパス成功率と、状況判断に優れたパスで、岡山の薄い所を的確に突いていた。CKで、意志疎通を誤り、ボールロストしたシーンこそあったが、基本的には、上手く散らす事で、磐田の奇麗な攻撃を可能とした。特に、サイドへ展開するタイミングとポイントが絶妙で、磐田のサイド攻撃のクロスまでに至る流れを巧く演出していた。

 また、中の選手の動きも洗練されていて、正確なラストパスやクロスが配給されるために、スペースへの動きやシュートへの意識を集中させることができるのも大きい。ゴール前での動きのスムーズさは、技術だけではなく、選手同士の信頼の大きさの現れでもある。岡山の人数は、揃っていて、スペースを一見消せていたが、磐田にとってはそれでもスペースはあり、そこを的確に磐田が突いて、得点シーンを含め、シュートに繋げていた。

 また、岡山が、良い守備をしながら攻撃に移る回数が多かったのにも関わらず、オウンゴール以外で、ゴールを破れなかった要因の1つに、19ミッチェル・デュークを抑えられていたのも大きい。19ミッチェル・デュークは、これまでの試合であれば、足下と浮き球問わず、足下であればしっかり収めて、浮き球であれば競り勝つ事で、そこから展開が、岡山の武器であったが、少なくとも前半は、長い時間に渡って抑えられていた。

 後半に、9李 勇載と19ミッチェル・デュークの強力な2トップになった時に、マークが分散する事で、磐田の守備時における2トップに対する抑止力が低下し、前を向けるようになった時間帯で、決めたかった岡山。しかし、最大の決定機も36三浦 龍輝の触ってないと判定を受けるような少し触っただけの神セーブによって阻まれてしまった。最後まで磐田の守備の個の力を破っての2点目は奪えなかった。

 スーパーセーブは、36三浦 龍輝だけではない。31梅田 透吾も至近距離からのシュートを防いだシーンも圧巻であった。その31梅田 透吾を上回った11ルキアンのゴールは、奇麗な崩しのゴールであった。岡山の様に凄いミドルシュートのような凄さではなく、シンプルであるが、高度なゴールといえ、チームの色の違いを感じた所ではあった。

 ただ、このシーンは、5井上 黎生人の安易な縦パスに起因したボールロストから始まった。ここだけ見ると、5井上 黎生人のミスのように感じるが、基本的には、前からのプレスをほぼかけなかった磐田が、このシーンは、人数をかけてプレスをかけた事により、慌てた5井上 黎生人の判断を狂わせた事で、生まれた。

 こうした磐田の嵌めようとする本格的なプレスは、この試合を通して、この一度だけであったように記憶しているが、磐田のこうした回数ではなく、質というのは、技術だけではなく、局面でのプレーの判断でも優れている事を、証明した先制点となった。岡山も、こうしたミスを誘発させる守備から攻撃の形を作っていたが、得点に結びつけられなかった。

 岡山の同点ゴールは、岡山の波状攻撃というか持続的攻撃として、この試合の攻防におけるウェイトの大きかったセットプレーの流れからの攻防で生まれた。ピッチ全体でバランスを取る磐田の守備の形が一番危ういのが、セットプレー時の守備である。やはり、イレギュラーというカオスな状況は生まれやすく、難しい対応が迫られる。

 岡山が、失点が少ない中で、主な得点源になっているのは、やはり人数をかけられるからで、毀れ球を押し込んだシーンを含め、リスクを小さくゴールに人数をかけられる数少ないシーンであり、オウンゴールになったシーンも本来右サイドの16河野 諒祐が逆サイドに流れて、そこではあまり守らないシャドーの4大津 祐樹が対応したが、クリアが意図せぬ方向へと流れてオウンゴールとなった。

 この様にイレギュラーの状況ができれば、盤石とも言えた磐田の守備にも多少の綻びが生まれる。そういった隙を感じたシーンの1つと言えた。こうしたセットプレーの攻防でも岡山は1点止まりであった。長く続いたのは、磐田がカウンターや守備の安全を第一に考えて、大きくクリアするというよりは、バランスを意識して、繋ぐ意識が高かったからである。

 磐田としては、セットプレーを防いだ後は、ボールを落ち着かせて、通常の体型に戻したかったのだが、クリアを含めた攻防で、守備で大きく反発するというよりは、柔らかく吸収するという守備を強く意識した部分が大きい。恐らく、大きく無人の所へ蹴るというボールがほぼ無かった事を考えても、嫌ではあったが、そこに焦りというのは、そこまでなかったとも言える。

 ただ、そうしたメンタルを以てしても、形が崩れる事によって、隙が生じる。サッカーとはミスのスポーツと言われるが、それはやはり状況が目まぐるしく変わる事によって、イレギュラー状況が生じるスポーツでもあるからであるだろう。イレギュラーを有利な状況で作ることに対してのアプローチがチームによって、多岐に渡るが、少なくとも岡山と磐田は、対極とも言えるものであったと試合を見て感じられた。

 磐田は、攻撃のアクションの質で、守備側の想定を超えるイレギュラーな状況を作り、得点に繋げる。守備では、守備の形を保つことで、攻撃側にレギュラーな形に誘導する事で、結果的に守備を安定させるサッカーである。基本的には、ピッチの11人全員がプレー質を、90分通してハイパフォーマンスを維持する事で、守勢であっても焦らず機を待ち、攻勢にでれば、1チャンスを高確率で活かすというサッカーである。

 一方で、岡山の主な攻撃は、人数をかけた守備のアクションの回数と強度によって、攻撃側を岡山の意図するレギュラーな形に、追い込むことで、ミスを誘発させて、そこから生じた隙を突く攻撃。守備では、イレギュラーな状況に陥る事を避けるために、攻撃に対して複数での対応を心がけて対応し、奪取力や回収力を高めて守備の時間や機会を短くすることで、攻撃時間や回数を確保する。

 つまり、磐田は、個人技を武器にした質が高い攻撃ができるからこそ、攻撃を意識した戦い方で、攻守を安定させるという「攻撃は最大の防御」というサッカー。そして、岡山は、人数をかけた組織的守備ができるからこそ、守備を意識した戦い方で、攻守を安定させるという「守備が最大の攻撃」というサッカーである。

 磐田は、攻撃が、機能していれば、守備も総じて安定する。岡山は、守備が、機能していれば、良い攻撃や攻撃機会を確保することができる。つまり、磐田は、攻撃の質で相手が上回ることができれば、勝利が近づく。岡山は、守備で相手を嵌る事ができれば、勝利が近づく。そう考えると、岡山の守備も良かったが、何より磐田のプレーの質も光っていた。内容を考えると、どちらに転んでも不思議では無く、納得の1-1であったと言える。

 また、磐田が、3点が獲るチームであれば、岡山は、3失点を防ぐチームである。3-3であれば、磐田の狙い通りの攻撃できたが、得点が足りず勝ち点3を取りこぼしたと試合となる。逆に、0-0であれば、岡山の狙い通りの守備ができていたが、1点だけが獲れず勝ち点3に届かなかった試合となる。得点を多く奪うアプローチで勝利を目指すのが磐田。失点を少なくするアプローチで勝利を目指すのが岡山。

 当然、得点を奪う方が、難しいのがサッカーであり、得点が獲れるチームの方が、勝ち点を伸ばし易い。ただ、得点だけが伸ばせても守備がその分乱れれば、勝ち点1すら逃す。特に、J1とJ2を見た時に、攻撃だけ優れるチームは少なく、守備が安定していないと、安定した勝ち点を稼がないそれが、今のJリーグとなっている。

「攻防の違いのポイント」
・守備が嵌って攻撃の回数で得点に繋いだ上で守り切れれば岡山の流れ。
・攻撃の質を活かした得点を重ねる事ができれば磐田の流れ。
・岡山の激しかった中盤の守備と奇麗だった磐田の中盤の攻撃。
・攻守のレギュラーな場面とイレギュラー場面へのアプローチに明確な差。

5、 総括(確かな手応え)

 個人的には、勝利こそ出来なかったが、内容的には、ベストゲームと言える試合であった。首位磐田に対して、今季の最多のシュート数を記録した事を含めて、中盤の守備が良く機能していた。ただ、ゴール前の崩しという点では、磐田と比べると、カテゴリーが違うと感じるぐらい質の部分で岡山は負けていた。その中で、ダブルエースと言える9李 勇載と19ミッチェル・デュークの2トップは、磐田に対しても一定の手応えを感じる事ができたという試合でもあった。

 19ミッチェル・デュークが、苦しんでいた時間帯でも48石毛 秀樹が、攻撃を巧く支えていた。絶妙なポジショニングでパスを呼び込み、出し手としても受け手としても間違いなく機能していた。この気の利いたサポートにより首位相手で気合の入っていた14上門 知樹の良さを引き出す事ができており、ゴールに迫る迫力に繋がっていた。

 この試合の14上門 知樹は、11宮崎 智彦のクロスに抜け出して1対1に近い形を作れたシーンの様に、MFのように主に組み立てに関与するというよりは、FWとしての得点をより意識したプレーに集中できていた。これは、48石毛 秀樹の存在が大きく、役割が磐田のサッカーのように少しシンプルになった事が大きい。このように出し手として、ある程度1人で自立できている48石毛 秀樹の存在は、今後に可能性を感じた。

 一方で、逆に同じポジションに入った27木村 太哉の判断の悪さが逆に際立ってしまった。磐田以外のクラブであれば、ドリブルで突破やキープできていたシーンでも磐田の守備の個の力によって、抑えられてしまっていた。空回りしていた部分もあったかもしれないが、それを含めて、判断の悪さや球離れの悪さが、48石毛 秀樹によって際立つ試合になってしまった。

 ドリブルが通用する試合であれば、抜群の存在感を発揮できる27木村 太哉。一方で、そこで突破できなければ、ボールを失っただけになってしまう。ここ最近は、中に切り込んで、逆サイドに展開するか、縦に切り込むかの2択になっている。シンプルで良いのかもしれないが、プレーの成功率を上げるためにも、引き付けてのスルーパスやシュートまで持っていく駆け引きを含めプレーの幅を広げていく事で、選択肢を増やすと同時に、その判断の正確さの部分を磨いていって欲しい。

 後は、出場機会のなかった18斎藤 和樹への有馬 賢二監督の信頼の大きさや、終盤のドリブルで、仕掛けるというスピードと守備のタフさを前面に出すというのも理解できるが、14上門 知樹が疲れてきた時に同じ役割ができる20川本 梨誉を18齊藤 和樹に代わって、リザーブに入れる事も選択肢をとしては、考えて欲しいところ。

 有馬 賢二監督は、恐らく20川本 梨誉を左右SH(OH)で起用する事での抵抗や、守備強度の不安と、20川本 梨誉が清水に戻る可能性が高い事を考慮しての選択ではあると思うが、ミドルシュートという飛び道具や、あの足元の技術は、やはり魅力的であり、18齊藤 和樹と同じドリブラーの27木村 太哉と、どちらかの選手のリザーブ入りに留めて、タイプの違う20川本 梨誉のリザーブ入りを推す理由である。

 そして、この試合でJ2屈指の2トップ言える強力なストライカーを2枚並べる有効性も改めて感じた所であり、今後の岡山が、J2で戦って行く中で、チーム編成への影響を与える可能性を秘めた活躍と言える。MFを強く意識したFWが多かったが、マークが分散した時の2ストライカーの破壊力というのは魅力的であった。

 この2選手が、今季仮に、岡山が抜ける事になっても、強化方針として、同クラスとまでは言わなくても、ストライカータイプの選手の獲得を軸にしたチーム作りを進める事で、岡山の守備と攻撃をより高みに目指す上での大きなヒントとなりそうである。それだけこの磐田戦での2選手のインパクトは凄いものであった。

 同時にこの試合で感じたのは、前半に19ミッチェル・デュークをほぼ抑えきった磐田の選手の個の守備の対応力と、30節時にJ2最少失点タイの守備を奇麗に崩すゴール前の質の高さ、そして、プレーの1つ1つの質の高さを考えても、岡山がJ2を勝ち抜くには、まだまだ足りないとも感じた試合でもあった。

 岡山の目指す方向性への手応えと、明確に出たと言える個の力の差。組織力でカバーしたが、勝ち点3に届かなかった。これは紛れ名もない事実で、これを今季の残留と、来季の昇格への道筋へと、どう繋げて行くのか。今季の主軸の慰留を含めて、ファジアーノファミリーのJ1昇格への一歩にできるかどうか。そういった価値のある一戦と言えるように、これからの岡山の躍進と成長に期待したい。

文章・図版=杉野 雅昭
text・plate=Masaaki Sugino

「ファンタジスタシステム」
2トップに技術のある選手を据えて、中央にポジションをとる。中央を通そうとするパスコースを制限し、サイドへ出した所を狙う。そこを突破された後も、粘り強く守り、ボールを奪ったら2トップにボールを集め、技術のある選手が攻撃に移った時に、2トップの傍にいき、技術と創造性を活かして、ゴールに迫るやや攻撃よりの作戦。
「ミッチェルプレス」
速さ・高さ・強さ・巧さ・持続力によって、19ミッチェル・デュークがプレスを繰り返して行く中で、攻撃的なMFが追随する中で、相手のパス回しの自由を大きく制限する。また、後方の選手もハイライン、中盤もコンパクトに保つ事で、高い奪取力を発揮する。ただ、チームとしての消耗も大きく、19ミッチェル・デュークの1トップ時しかできない作戦。
「勝利の方程式」
リードした場面で、4バックから3バックにシステム変更し、重心を完全に後ろに置く分けではなく、中間に位置をとり、遊撃に専念しつつ、カウンターにより追加点を狙う。スペースを空けずに、岡山の守備時の集中力や献身性を活かし、守備にハードワークし、攻め手側のミスを誘発させて、時間を稼ぐことで、同点や逆転のリスクを小さくし、逃げ切る作戦。
「高低縦横の攻防」
得点を狙う攻撃スタイルの属性の指標。9李 勇載と19ミッチェル・デュークが揃う事で、縦の攻撃と横の攻撃。どちらでも高い質の攻撃が可能となる。また、低い(グラウンダーの)クロスやパス、高い(浮き球)のクロスやパスの多彩な出し手も揃った事で、多彩な攻撃と柔軟性のあるチームスタイルが可能となった有馬ファジが目指す理想系の1つの形を感じさせる要素。
「守備は最大の攻撃」
良い守備からの攻撃が主な攻撃パターンの岡山のチームスタイルを表現する言葉。岡山が意図した展開の時は、自陣でのプレー時間が短く、シュート数が多くなる。ただ、現状は得点まではなかなか繋げられず、攻撃は最大の防御と言えるぐらい質の高い攻撃ができない現状のチームが行き着いた勝負に徹する岡山の献身性が反映されたプレースタイルと言える。

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