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短編小説から見る社会

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菅原ゼミで読んだ短編小説の書評を順次掲載していきます。書評は全てゼミ生が書いています。授業期間中の毎週末ごろ更新です。  ※ネタバレありですので気になる方はお気をつけください。
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#小説

シャーリイ・ジャクスン「くじ」書評(評者:リュウ・ジュンケイ、高瀬晴基)

シャーリイ・ジャクスン「くじ」(『くじ』収録)

評者:リュウ・ジュンケイ

 皆さんが知っている「くじ」はおそらく年末ジャンボ宝くじのような、当たった人が賞金やプレゼントを貰ったり、幸せを感じるものだと思う。しかし、当たったらひどい目に遭うくじというものを聞いたことがあるだろうか。
 この物語ではとある村で行われている行事で300人の村民がくじを引き、当たった人を集団で殺すという悲惨な話である。

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小川洋子「ひよこトラック」書評(評者:杉本優花、伊藤舞香、猪原琉矢、光成望未)

再び更新が滞っており失礼しました。5月19日の3回生ゼミでは小川洋子「ひよこトラック」を読みました。

小川洋子「ひよこトラック」(『群像短篇名作選 2000〜2014』収録)

評者:杉本優花

 沈黙は、時にどんな言葉よりも雄弁に心の内を語る。仕草、表情、纏う空気感には、言葉に代え難いほどの静かな感情があり、私たちはその沈黙を通して、人の真意を知ることがある。言葉にすることができない感情を、沈

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シオドア・スタージョン「死ね、名演奏家、死ね」書評(評者:北川結衣・吉岡渚)

先週の4回生ゼミではシオドア・スタージョンの異色ミステリ「死ね、名演奏家、死ね」を読みました。音楽について、嫉妬について、など、様々な観点から議論がかわされました。

シオドア・スタージョン「死ね、名演奏家、死ね」(『一角獣・多角獣』収録)

評者:北川結衣

 誰しも一度は他人の才能に羨ましさを感じたことがあるのではないだろうか。その「羨ましい」という感情は、強くなればなるほど「妬ましい」という

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長野まゆみ「45°」書評(評者:中島虎太郎・藤原明日加・小森翔太)

先週の3回生ゼミでは長野まゆみのミステリアスな短篇「45°」を読みました。そもそもこれはどういう話なのか?をめぐって興味深い議論が展開し、驚愕の解釈も生まれたのですが…ここに紹介できないのが残念です。

長野まゆみ「45°」(『群像短篇名作選 2000〜2014』収録)

評者:中島虎太郎

 私たち人間は様々な言動や物事などに対して自分なりの考えや、解釈を持ったりする生き物である。そのため簡単に

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江戸川乱歩「屋根裏の散歩者」書評(評者:山田瑠菜・柴田美朝

江戸川乱歩「屋根裏の散歩者」(『ちくま日本文学 江戸川乱歩』収録』)
評者:山田瑠菜

犯罪に魅せられてしまった只一人の人間

 こんな話を聞いたことがある。人間は誰しも、内に狂気を秘めている。その人格を表に出さずに、理性で覆い隠したものが自分自身だと人間は思い込んでいるが、実は無意識下に恐ろしい狂気じみた混沌とした別人格がいるのだと。"法律さえなければ"いや、もっと身近な表現をすれば"誰かに叱ら

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角田光代「ロック母」書評(評者:眞銅隼斗・芝本剛志)

更新が滞っていました。4月最終週の3回生ゼミでは角田光代「ロック母」を読みました。書評は眞銅隼斗さんと芝本剛志さんのお二人に書いていただきましたが、その後のディスカッションではゼミ生の間で読み方が分かれ、興味深い議論が繰り広げられました。

角田光代「ロック母」書評(1)(『群像短篇名作選 2000〜2014』収録)
評者:眞銅隼斗

 近く、臨月を迎える主人公が父と母に会うため、島にある実家に向

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ジョン・クロウリー「消えた」書評(評者:古賀芽衣)

ジョン・クロウリー「消えた」書評(評者:古賀芽衣)

 先週の4回生ゼミはジョン・クロウリー「消えた」でした。とらえどころの難しい短篇の解釈に、皆さん苦労されたようでした。

ジョン・クロウリー「消えた」(『古代の遺物』国書刊行会)

評者:古賀芽衣

 日々の生活の中で起こる出来事は、それらとは関係のないことにもしばしば変化を与える。食べ物の好き嫌いや人間関係など、全く繋がりがないと思われることであっても、見つめ直し考え直す機会を得ることもある。ジ

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ケン・リュウ「紙の動物園」書評(3)(評者:田中小葵)

ケン・リュウ「紙の動物園」書評(3)(評者:田中小葵)

「紙の動物園」の書評3本目は、田中小葵さんに書いていただきました。

「紙の動物園」書評(『紙の動物園』早川書房)

評者:田中小葵

 これは幼き時代から社会人になる主人公の成長過程と心情が痛いほど共感できる小説である。中国出身の母が折り紙に命を吹き込む魔法を使う、という描写で物語は幕を開ける。アメリカ人とのハーフである主人公は、そんな母への反抗心が成長すると共に強くなってしまった。アメリカとい

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ケン・リュウ「紙の動物園」書評(2)(評者:村田睦喜)

ケン・リュウ「紙の動物園」書評(2)(評者:村田睦喜)

 「紙の動物園」の書評2本目は、村田睦喜さんに書いていただきました。

ケン・リュウ「紙の動物園」書評(『紙の動物園』早川書房)

評者:村田睦喜

 読んで最初に思ったのは、意外にも重い内容の作品であったということだ。
 物語の冒頭は母と幼い子どものファンタジックであたたかな日常の一幕だったために余計にそう感じたのかも知れない。物語中盤、主人公のジャックは同じ学校の男の子マークとの人形を巡るトラ

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ケン・リュウ「紙の動物園」書評(1)(評者:田中太陽)

ケン・リュウ「紙の動物園」書評(1)(評者:田中太陽)

 先週から新三回生のゼミが本格的に始まりました。初回の読書会はケン・リュウの名作「紙の動物園」を読みました。ジェンダー的観点からの読みなど、大変活発な議論がかわされ、とても楽しい読書会となりました。
 今回は3本の書評を紹介します。まずは田中太陽さんの書評です。

ケン・リュウ「紙の動物園」書評(『紙の動物園』早川書房)

評者:田中太陽

 この物語はアメリカ人の父と中国人の母をもつ主人公が過去

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中島らも「白いメリーさん」書評(2)(評者:根本龍一)

中島らも「白いメリーさん」書評(2)(評者:根本龍一)

中島らも「白いメリーさん」書評(『日本文学100年の名作 第8巻 1984-1993 薄情くじら』収録)

評者:根本龍一

 『庭訓』という言葉がある。これは、孔子の子の伯魚が庭で通り過ぎる際に『詩経』と『礼』を学ぶように呼び止めた故事から出た故事成語である。この言葉は、家庭内で親が子に教育することという意味であるが、「君子であっても、子に特別扱いはしないのである」という内容でも知られている。孔

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中島らも「白いメリーさん」書評(1)(評者:西 野乃花)

中島らも「白いメリーさん」書評(1)(評者:西 野乃花)

 1月7日は4回生の最後の読書会でした。2年間、約40本の作品を読んできましたが、最終回ということでなかなか感慨深いものがありました。最後の作品は中島らもの短編です。

中島らも「白いメリーさん」書評(『日本文学100年の名作 第8巻 1984-1993 薄情くじら』収録)
評者:西 野乃花

 私たちの生活には様々な情報が溢れている。全国ニュースになるような事件から親戚が身内だけに広げた朗報。誰

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吉田知子「祇樹院」書評(2)(評者:小家康寛)

吉田知子「祇樹院」書評(2)(評者:小家康寛)

吉田知子「祇樹院」 書評(『お供え』収録)

評者:小家 康寛

記憶と存在証明

 「我思う故に我あり」、世の中の全てを疑おうとも、疑いを向けている我自身の存在は疑う余地のない事実である、とする有名なフレーズである。しかし我々人間とは周囲との関係や記憶によって自らの存在を規定する生き物であり、私自身が存在するその事実は疑いようがなくとも、人間としての個の存在を認めてもらうためにはむしろ「他思う故

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吉田知子「祇樹院」書評(1)(評者:佐野稜典)

吉田知子「祇樹院」書評(1)(評者:佐野稜典)

ゼミの吉田知子回、4回生は「祇樹院」を読みました。

吉田知子「祇樹院」書評(『お供え』収録)

評者:佐野稜典

 この物語は主人公の「私」と雪乃が自動車で雪乃の親戚の家に向かう道中から始まる。二人は昼に食べた吉川の鰻の味について互いに感想を話ながら、雪乃の親戚の家に道に迷いつつも向かっていた。すると「私」はその土地には訪れたこともないのにも関わらず、見えてきた木造の建物に対して「ああ、小学校だ

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