【SF】文系が読む『三体』と『プロジェクト·ヘイル·メアリー』
いざ尋常に、現実逃避。
今年は本当にに何もかも勝手が違っている。
そう思うことこそが卑小な自分の決めつけであると知りつつも、そう思わずにはやっていられない。
いつぞやと似たような理由で、私は現実逃避を求めている。
そういうときは、流行っていて、全く興味もなく、門外漢にも程がある作品に手を伸ばす。
今回はSFのお話。
巷で大流行の2大SF作品
スター・ウォーズは内容すらもう朧気で、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』に挫折したうえ、ジョージ・オーウェルも知らずに村上春樹の『1Q84』を読み、純粋SFというよりディストピアものとして伊藤計劃に耽溺した、という私のミーハーかつ貧弱なSF遍歴。
日々をちまちまと生きているので、壮大な宇宙空間に思いを馳せることがないのだが、最近あまりにも『プロジェクト・ヘイル・メアリー』と『三体』という2大SF小説の名前を聞くので、手に取ってみることに。
(「最近」と言いつつ、アンテナが弱いのでいつも数年遅れでついていく。)
「こっちから行く」系と「向こうから来る」系。
どちらも小説で読みたかったが疲れそうなので、『三体』は中国版ドラマがAmazon Primeで視られるという情報を得て、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』はハードカバーで読み、並行して『三体』はドラマを視聴し始めた。
お国柄、などと軽率に言っていいものでもないと思うが、やはりお国柄というものはあるのだろう。アメリカの刑事系は高確率でバディものだったり、北欧ミステリの重苦しい陰鬱さだったり。
アメリカと中国。
この世界を是とするのか、非とするのか。
2作品のコントラストが非常に興味深かった。
登場人物がみんな頭抜けて賢いうえに、やたらめったら行動力がある、という点は共通しているが。
※以下、薄ーーーいネタバレを含む。
①痛快・豪快・可愛い!『プロジェクト・ヘイル・メアリー』
明るい科学オタク(元分子生物学者・現科学教師)の主人公ライランド・グレースは、ある日突然人類の存亡をかけた地球規模のプロジェクトに巻き込まれていく。彼は穏やかな人生が7回転半くらいスピンしたような状況にもかかわらず、ずっと前向きで明るく、智慧とユーモアがあり、そのパーソナリティが物語を支えている。
常に科学の力で困難を打破していくため、専門的な知識が必要なシーンも多いが、翻訳が読みやすく、たとえ話も豊富で、私のような素人でもすんなり読めた。
終始「うんうん、何かいろいろ大変なことが起きたけど、どうにかうまいことやって乗り切れそうなんやね。」というノリで物語に食らいついた。
賛否の分かれる結末が、私はとても気に入っている。
すべてが完全でなくても、じゅうぶんに美しかった。
②とにかく暗い!重い!いいぞ!『三体』
世界中で相次ぐ科学者の死の謎を解くべく、ナノマテリアルの研究者・汪淼(ワン・ミャオ)は、訪ねてきた警官・史強(シー・チアン)によって正体不明の秘密会議に招集される。
とにかく前半はわけのわからない怪奇現象が続くので、投げ出したくなる視聴者もいそうなものだが、少しずつ描かれる過去のフックや美しい映像・音楽が視るものを捉えて離さない。
本作はNETFLIX版でもドラマ化されているが、中国版ドラマのほうが原作に忠実らしい。こんなに複雑なものをよく映像化できたなあ、と感嘆するばかりだ。
登場人物ほぼ全員が「暗い」か「やばい」のどちらかor両方の資質をもっているため、いつもガハハと笑って前向きな史強隊長の存在がオアシス。
汪淼と史強はバディ主人公だが、もう一人、物語の中心となる女性が登場する。
過酷な時代背景と運命に翻弄されながらも感情を表に出さず、理知的でありながら、ごく普通に愛情を求める少女でもあった彼女。
その裡に秘めた怒り・恨み・希望の熱のようなものに、ほんとうに圧倒された。
彼女を突き動かし続けたものは何であったのか。
それが本作最大のテーマかもしれない。
きょうも小さな星の、片隅で。
宇宙規模のSF作品に触れると、海外旅行をしたときのように、私たちの生きる世界は微小な一端に過ぎないのだ、と感じられる。
ミクロとマクロ。
全にして個、個にして全。
私の纏う懊悩も、塵のひとかけ。
それでも
えっちらおっちらと、
やっていくほかないのだけれど。
【作品情報】
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』
アンディ・ウィアー著・小野田和子訳、早川書房
『三体』
劉慈欣著、早川書房
大森望・光吉さくら・ワン・チャイ訳