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Episode 010 「う○こが漏れそう。しかも、毎日」

オーストラリアはアデレードの現地の小学校に入学し(Episode 004参照)、不思議な時間を過ごし(Episode 005参照)、苦痛な休み時間に耐える日々(Episode 006参照)が一変したのは、そう、トムに声を掛けてもらったあの日(Episode 008参照)。

この日を境に、私は毎日の様にみんなとサッカーをすることができた。このお陰で「教室内では一言も言葉を発しない、あまりにも謎すぎる東洋人の生徒」から、「算数の授業と休み時間にサッカーをしている時間だけは少し自信が持てる生徒」になった。尚、私がサッカーをしている様子を他のクラスの先生がたまたま見ていたらしく、休み時間の後に声を掛けられた。どうやら、「他の小学校との試合があるから、お前も来い」という様な内容を私に言っていたらしい。もちろん、(英語なので)理解はできていなかったに等しいが、おそらくそんな感じの内容だという事だったと思われる。兎に角、嬉しくなり、是非やらせて下さいという意図の返事をしたと記憶する。きっと、「YES」を連発する事くらいしかできなかったと思われるが。そこで、またしても、同じ問題(Episode 007参照)が発生した。「試合、どこでやるのだろうか・・・・」。さすがに「どこ」という単語である「where」くらいそろそろ知っていてもいいはずなのであるが、どうやら何も学んでおらず両手を広げ、周りをキョロキョロすることで「where」を表現したのである。振り付けをまともに憶えていない盆踊り、再び、である。因みに、このサッカーの試合は、後日、私が通っていた学校で無事行われた。無事、ゴールも決めた記憶がある。

人には誰しも癖であったり、ウィークポイントというものがあると思われる。例えば、人の話を聞く時の目が(本来、好ましくないが)小学生をも騙せない様な質の低いマジシャンの手品を見ている時の様な目になってしまったり、人前で話すのが苦手なあまり、話の筋が知恵の輪の如く絡まってしまっていたり、あるいは無意識にも(人が良すぎる故に)騙され易かったりする様に。人それぞれ、必ずなんらかのウィークポイントはあると思われる。私にも残念ながら幾つかのウィークポイントがある。その中でも、今まで苦しめられたのが、緊張すると腹痛に襲われる、というものである。緊張からくる腹痛により、よくトイレに行きたくなった。

「それくらい別に良いじゃん」と、と大人になった今でこそ感じるが、子供の時(特に小学生)に、例えば学校にて腹痛に襲われトイレに行く、というこの行為はご存知の通り非常に複雑な事情(きっと、男の子の場合は更に)なのである。つまり、学校のトイレでうんこをするという行為は、あまりにも恥ずかしい事として捉えられていた。

従って、何度となく友達の目を盗んでトイレに駆け込んだ事だろうか。わざわざ、人気のない体育館の裏を走って駆け抜けてトイレに忍び込んだり、など。人の目を盗んでトイレに駆け込むスキルを数値化できるのであれば、その数値は間違いなくトップクラスであるに違いない。日本代表レベルである。尚、小学校のサッカー少年団に入っていた時(Episode 009参照)も、必ずと言って良いほど試合になると緊張してよく(試合が行われる先の小学校にて)トイレに駆け込んでいた(しかし一度スッキリすると調子に乗り、それなりにパワーを発揮するタイプであった)。特に冬などは朝も早いと外は非常に寒く、緊張による腹痛に追い打ちを掛けるように私の便意を促せた。この様に、僕は常にうんちをしてた。とある日、どんな経緯でその話になったのかは憶えていないが、この様な会話があった:

友達A:「1日にさ、何回くらいうんこする?」
私:「ん〜、5回くらい」
友達全員:「え!5回?!?!多すぎじゃね?」

この様に、確かに、周りよりは多少(うんこをする)頻度は高いのかなぁ、とは感じてはいたものの、まさか世間とここまでかけ離れているのか、と実感した瞬間だった。

しかし!緊張するとトイレに行きたくなるという現象は、オーストラリアの綺麗な空気に触れた瞬間からピタっと止まったのだ!!

なんていう奇跡は残念ながらもちろん起こらず(オーストラリアに渡っても)引き続き起こった。毎朝、登校の時間になるとテレビで子供向けの番組にて、とある歌が流れる。クマのぬいぐるみを着たキャラクターが出演してた。その曲は、当時の1996年から28年経った2024年の今でも「🎶Happy Happy Happy day…🎵」という具合に頭の中でその曲を再生する事ができる。この曲がテレビから聞こえてくると、緊張からくる腹痛に襲われ、トイレに駆け込むのであった。

この番組の曲がテレビから流れるのを耳にすると「学校に行く時間だ・・・う・・・お腹が・・」
と言った現象が毎日続いた。
(※No copyright infringement is intended)

学校に到着してからも緊張はほぐれず、(便意により)トイレにいきたくなって仕方がなかった。しかし、僕が通っていたNailsworth Primary Schoolという学校のトイレ(授業が始まるまでは校舎に入れない為、外にあるトイレを使う必要があった)は、ドアがなかった。そう、トイレの中にある個室におけるドア、がないのである。井上陽水の「傘がない」では済まされない。こちらは「ドアがない」のである。なぜ個室のトイレのドアが無かったのかは未だに謎(恐らく安全を考慮した為だとは思われるものの、もし本当に安全が考慮されて、が理由であるのであれば、ドアの上下が(例えば日本の公共のトイレのドアと比較し)極端に短い、という事で問題ないと思われる。つまり、密閉した空間を作り出さない事で危険性を回避)である。

傘がない場合は、コンビニ買でうなりどうにでもなるが、トイレのドアがない場合はなかなかツラい
(※No copyright infringement is intended)

さすがに、そんなトイレは使えない(寧ろ、当時、使える生徒が果たして一人でも存在しただろうか)ので教員用のトイレを特別に使わせてもらった。もちろん、その状況を自分で(英語で)説明できる事は無く、バディであるルーク(Episode 004参照)から先生に頼んでもらっていた。つまり、「申し訳ないけどShingoがお腹が痛いと言っているので、教員用のトイレを使わせてあげてください」という具合に。そして、それを言われている相手(職員)も「毎日(例外なく)お腹が痛くなってるな、この生徒は。どんだけお腹弱いんだ」と思っていたに違いない。

授業中も、頻繁にお腹が痛くなった。ただ、授業中はさすがに勝手に席を立ちトイレに行くわけにもいかない。しかしながら、肝心な「お腹が痛くなってしまいました。トイレに行ってもいいですか」というフレーズを先生に英語で言うことができなかった。そこで、とある夜、家で辞書などを用いて「お腹が痛くなってしまいました。トイレに行ってもいいですか」というこのフレーズを自分なりに調べ、そして習い、それを丸々カタカナで紙に書き、翌日学校に持って行っていた。トイレに行きたくなる度に、ペンケースからその紙切れをゴソゴソと出し、頭の中で記憶するために何度か(声に出さず心の中で)言ってみる。まるで、そっと声にならない声で願い事を頭の中で繰り返す人の様に。

(カタカナ英語の)暗記ができたタイミングで席を立ち先生のデスクに行き、「お腹が痛くなってしまいました。トイレに行ってもいいですか」という渾身のフレーズ(きっとその文章には抑揚というものは存在しなかったに違いない)を丸暗記したカタカナで伝え、トイレに行っていた。そう、まさに、「アイハブアストマックエイクキャンアインゴートゥーザトイレット」(I have a stomachache, can I go to the toilet)というフレーズをカタカナで憶えていた。

しかしながら、後々気づいたことなのだが、どうやら、紙切れに書いたカタカナの意味は「お腹が痛くなってしまいました。トイレに“行ってもいいですか”」ではなく、「お腹が痛くなってしまいました。トイレは“どこですか”」であった事に気付いたのだ。そう、毎日毎日、トイレの「場所」を先生に尋ねていたのである。

尚、39歳になった現在はどうか。緊張からくる腹痛は完全に克服したのか。残念ながら、答えはNOである。今現在も、たまに、やはり腹痛に悩まされる時もある。恐らく、生涯付き合っていく必要のある現象の一つなのかもしれない。


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