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Episode 008 「世界一気合の入った”YES”を発した日について」

控えめに言っても、心から楽しいと思える要素が一つでも存在したとは言えないそんなアデレードでの小学校生活が始まって(Episode 004参照)、どれくらい経った頃であろうか、とある日、ふとしたタイミングから昼休みにみんなと一緒にサッカーをできるきっかけがあった。

その日も、いつもと同じ様に、休み時間のチャイムが鳴ると(暗い気持ちで)校庭に座り、サッカーをしている皆を眺めていた。躊躇もなく、何の疑いもなく、自分の中では、「休み時間はつまらない時間だ」という考え方がすっかりと確立されてしまっていた。つまり、諦めの領域に達してしまっていたのだ。(Episode 006参照)

そんなある時、天然パーマの男の子が一人近寄ってきた。トムだ。当然の如く、彼が何を言っていたかは理解できなかったが、私を見ながら皆の方を指差し、何か言っている。この状況で彼が言っていた内容が「一緒にサッカーやる?」以外である確率は相当低いであろうと12歳の私にも理解できたので、彼に対し「YES」と答えた。トムが実際に何を言っていたのかは理解せずに、私は渾身の「YES」を言い放った。恐らく、世界一気合の入ったYESの一つだったと言っても過言ではないと思われる。

こんな具合のYESを連呼したと思われる。
(※No copyright infringement is intended)

「この日を境に、毎日が楽しくなった!」とまではいかないが、とりあえず休み時間が苦痛でなくなった。他の子供達と一緒にサッカーをできる様になったのだ。サッカーをしている時は特に会話もそれほど必要とされず、ひたすらボールを追いかければいいのであった。きっとこの時の私は、(サッカーの試合において)1−2で迎えた後半40分(試合時間残り5分)、待ちに待った選手交代でピッチに投入され、残り5分わずかでどうにか一点を取り返し、少なくとも同点に(試合の流れを)持っていきたいと考える監督の期待を500%背負った状態で、この試合に全身全霊を掛けている選手かの様にボールを懸命に追うプロサッカー選手の如くピッチを走り回っていたに違いない。その瞬間の私は、或いは、ボールより速く駆け回っていたかもしれない。もちろん、これは比喩に過ぎないが、つまりそれくらい興奮していたに違いない。12歳の子供いえども、必死だったのだ。毎日の日々と闘っていたのだ。28年経った今でも、そう思う。

こんな具合で走り回っていたと思われる。
(※No copyright infringement is intended)

そして何より、当時(1996年)のトムにお礼を言いたい。「ちょっとした一言で誰かの人生を変えられる」という事については、僕はそれを信じないわけにはいかない。なぜなら、確実にトムは当時12歳だった、一人の少年(=僕)の人生を変えたのだから。

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