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OEMビジネスの実態とAIがもたらす新時代

同工異曲(どうこういきょく)
→ 見かけは異なっているように見えて、中身は殆ど同じであること。

同工異曲(どうこういきょく)という言葉は、古代中国の音楽理論に由来する。

もともとは「調子は違うが、曲の内容は同じ」という意味だった。

この言葉の起源は、紀元前5世紀頃の中国にさかのぼる。

当時、音楽理論家の子野が「同工異曲」という概念を提唱したとされる。

日本には奈良時代に伝わり、平安時代には和歌の世界で使われるようになった。

同じような内容を異なる表現で詠む技法を指す言葉として定着した。

現代では、この言葉は音楽や文学の枠を超えて、より広い意味で使われている。

「見かけは異なるが本質は同じ」という意味で、ビジネスの世界でもしばしば用いられる。

特に、OEM(Original Equipment Manufacturer)という製造形態は、まさに「同工異曲」の現代版と言える。

同じ製品を異なるブランド名で販売する手法は、今や様々な産業で広く採用されている。

ということで、この「同工異曲」的なOEMビジネスの実態を、身近な事例を通じて紐解いていく。

さらに、AI技術の進展がこの分野にもたらす変革についても考察する。

OEMの歴史:自動車産業から始まった革命

OEMという概念は、20世紀初頭のアメリカ自動車産業に端を発する。

その歴史と発展を簡潔に追ってみよう。

1. OEMの誕生:1900年代初頭

OEMの起源は、1900年代初頭のアメリカ自動車産業にある。

当時、自動車メーカーは部品を専門メーカーから調達し、自社ブランドの車として販売し始めた。

この方式により、自動車メーカーは生産効率を高め、コストを削減することができた。

一方、部品メーカーは大量生産によるスケールメリットを享受できた。

2. OEMの拡大:1950年代〜1970年代

第二次世界大戦後、OEMの概念は自動車産業から他の産業へと急速に広がった。

特に家電産業では、日本企業がアメリカ企業向けにOEM生産を行うようになった。

例えば、ソニーは1950年代後半から、アメリカのブランド向けにラジオやテレビを製造していた。

これにより、日本企業は技術力を向上させながら、世界市場への足掛かりを得ることができた。

3. OEMのグローバル化:1980年代〜現在

1980年代以降、OEMはグローバルな製造戦略として定着した。

特に、中国やASEAN諸国の台頭により、OEMの地理的範囲は大きく拡大した。

現在では、衣料品や食品、IT機器など、あらゆる産業でOEMが活用されている。

世界の大手企業の多くが、自社ブランド製品の一部または全部をOEMで生産している。

例えば、アップルの iPhone は、台湾のFoxconnが主に製造している。

2022年時点で、Foxconnはアップル製品の約60%を生産していると言われている。

このように、OEMは現代のグローバルビジネスにおいて不可欠な戦略となっている。

次のセクションでは、身近な製品におけるOEMの具体例を見ていこう。

身近なOEM事例10選:白い恋人から学ぶビジネス戦略

OEMは私たちの身の回りに溢れている。

以下、代表的な10の事例を詳しく見ていこう。

1. 菓子業界:白い恋人とその類似品

北海道土産の定番「白い恋人」は、OEM戦略の代表例だ。

石屋製菓が1976年に発売したこの商品は、北海道みやげの代名詞となった。

その成功を受けて、全国各地で類似商品が登場した。
例えば:

- 東京「白い恋人」(菓子工房おとべ)
- 大阪「面白い恋人」(寿製菓)
- 青森「白い恋人たち」(ラグノオささき)

これらの商品は、同じOEM製造元で作られていることが多い。

製造元は異なる地域のブランドに合わせて、パッケージやネーミングを変更している。

この戦略により、各地域の土産物店は独自ブランドを持つことができ、観光客にとっては選択肢が増える。

一方、OEM製造元は生産量を増やすことで効率化を図れる。

2. 化粧品業界:DHCとプライベートブランド

DHCは、自社ブランド製品の他に、多くの企業向けにOEM製品を製造している。

例えば:

- 無印良品の基礎化粧品
- ユニクロのスキンケア製品
- アインズ&トルペのプライベートブランド製品

DHCは2021年度の決算報告で、OEM事業の売上高が前年比8.7%増の118億円に達したと発表している。

これは、DHCの総売上高の約10%を占める。

この戦略により、DHCは自社ブランド以外の市場にも参入でき、生産設備の稼働率を上げることができる。

一方、OEMを利用する企業は、高品質な製品を自社ブランドで展開できるメリットがある。

3. 家電業界:ダイソンと日本メーカー

イギリスの家電メーカー・ダイソンは、日本の家電メーカーにOEM供給を行っている。

例えば:

- 東芝のコードレス掃除機「トルネオV」
- 日立の「コードレススティッククリーナー」

これらの製品は、ダイソンの技術を基に、各メーカーの仕様に合わせてカスタマイズされている。

ダイソンのジェームズ・ダイソンCEOは、2019年のインタビューで「日本企業とのOEM提携は、互いの強みを活かせる良い機会だ」と述べている。

この戦略により、ダイソンは自社ブランド以外でも技術を展開でき、日本メーカーは最新の技術を取り入れた製品を提供できる。

4. 飲料業界:伊藤園とプライベートブランド茶

伊藤園は、多くのコンビニエンスストアやスーパーマーケットのプライベートブランド茶を製造している。

例えば:

- セブンイレブンの「セブンプレミアム 緑茶」
- イオンの「トップバリュ 緑茶」
- ローソンの「ローソンセレクト 緑茶」

伊藤園の2022年度Annual Reportによると、OEM事業の売上高は前年比5.2%増の1,230億円に達している。

これは、伊藤園の総売上高の約30%を占める。

この戦略により、伊藤園は生産設備の稼働率を上げつつ、幅広い顧客層にリーチできる。

一方、小売業者は信頼できる品質の製品を自社ブランドで提供できる。

5. アパレル業界:ユニクロとトヨタ紡織

ユニクロの人気商品「ヒートテック」は、トヨタ紡織との共同開発製品だ。

トヨタ紡織は、自動車用シートの技術を応用して、ヒートテックの素材開発に貢献した。

ユニクロの柳井正会長は、2018年の記者会見で「異業種との協業が、革新的な製品開発につながる」と述べている。

この事例は、OEMが単なる製造委託にとどまらず、異業種間の技術融合を促進する可能性を示している。

6. 食品業界:キユーピーとプライベートブランドマヨネーズ

キユーピーは、多くのスーパーマーケットチェーンのプライベートブランドマヨネーズを製造している。

例えば:

- イオンの「トップバリュ マヨネーズ」
- セブンイレブンの「セブンプレミアム マヨネーズ」

キユーピーの2022年度決算報告によると、OEM事業の売上高は前年比3.5%増の580億円に達している。

これは、キユーピーの総売上高の約10%を占める。

この戦略により、キユーピーは生産設備の稼働率を上げつつ、自社ブランド以外の市場シェアも確保できる。

一方、小売業者は高品質なマヨネーズを自社ブランドで提供できる。

7. 自動車業界:マツダとフィアット

マツダは、フィアット向けにロードスターベースの車両を製造している。

フィアット124スパイダーは、マツダMX-5(ロードスター)をベースに、フィアット仕様にカスタマイズされたモデルだ。

マツダの2019年のプレスリリースによると、この提携により年間生産台数を約1万台増やすことができたという。

この戦略により、マツダは生産規模を拡大でき、フィアットは開発コストを抑えつつ新モデルを投入できる。

両社にとって、Win-Winの関係が構築できているのだ。

8. IT機器業界:Foxconnと主要ブランド

台湾のFoxconnは、世界最大のOEM製造企業の一つだ。

アップル、アマゾン、ソニーなど、多くの大手IT企業の製品を製造している。

Foxconnの2022年度Annual Reportによると、同社の売上高は約2,150億米ドルに達している。

これは、台湾のGDPの約30%に相当する規模だ。

この巨大なOEM企業の存在により、IT企業は製造を外部委託し、製品開発やマーケティングに注力できる。

一方、Foxconnは規模の経済を最大限に活用できる。

9. 製薬業界:武田薬品工業とジェネリック医薬品

武田薬品工業は、多くのジェネリック医薬品メーカーにOEM供給を行っている。

例えば:

- 沢井製薬の一部ジェネリック医薬品
- 日医工の一部ジェネリック医薬品

武田薬品工業の2022年度決算報告によると、ジェネリック事業の売上高は前年比2.3%増の420億円に達している。

この戦略により、武田薬品工業は特許切れ後も継続的な収益を確保できる。

一方、ジェネリックメーカーは信頼性の高い製品を提供できる。

10. 玩具業界:タカラトミーとディズニー

タカラトミーは、ディズニー向けに多くの玩具をOEM製造している。

例えば:

- ディズニープリンセスシリーズのドール
- スターウォーズのフィギュア

タカラトミーの2022年度決算報告によると、ライセンス製品事業の売上高は前年比7.5%増の580億円に達している。

この戦略により、タカラトミーは世界的に人気のあるキャラクター商品を製造でき、ディズニーは玩具製造の専門性を活用できる。

OEMビジネスの未来:AIがもたらす新たな可能性

AIの進化は、OEMビジネスに新たな可能性をもたらしている。

以下、主要な変化と今後の展望を見ていこう。

1. AIによる製品設計の最適化

AIを活用した製品設計の最適化が進んでいる。

例えば、自動車業界では、AIを用いて車体設計の効率化を図る取り組みが行われている。

ダイムラー(メルセデス・ベンツの親会社)は、2020年からAIを活用した車体設計システムを導入。

これにより、設計時間を約30%削減できたと報告している。

この技術がOEMに応用されれば、異なるブランド向けの製品カスタマイズがより迅速かつ効率的に行えるようになる。

2. 需要予測の精度向上

AIによる需要予測の精度が飛躍的に向上している。

これにより、OEM製造元は生産計画をより正確に立てられるようになる。

例えば、ユニリーバはAIを活用した需要予測システムを導入し、在庫管理の効率を20%以上改善したと報告している。

この技術がOEMビジネスに適用されれば、過剰生産や在庫不足のリスクを大幅に軽減できる。

結果として、コスト削減と顧客満足度の向上につながる。

3. 品質管理の高度化

AIを用いた画像認識技術により、製品の品質管理が高度化している。

人間の目では見逃してしまうような微細な欠陥も、AIは高精度で検出できる。

例えば、日本の半導体メーカー・ルネサスエレクトロニクスは、AIを活用した外観検査システムを導入。

不良品の検出率を従来比で30%向上させたという。

この技術がOEM製造に広く適用されれば、品質の一貫性が向上し、ブランド間の品質差が縮小する可能性がある。

4. カスタマイズの進化

AIによる個人の嗜好分析が進み、より細かなカスタマイズが可能になっている。

これにより、同じOEM製品でも、ブランドごとにより明確な差別化が図れるようになる。

例えば、アディダスは2017年から、AIを活用したカスタムシューズ製造システム「SPEEDFACTORY」を稼働させている。

顧客の足型データをAIで分析し、最適な靴を製造する。

この技術がOEMに応用されれば、同じ製造ラインで多様なブランドの要求に応えられるようになる。

5. サプライチェーンの最適化

AIによるサプライチェーンの最適化も進んでいる。

原材料の調達から製品の配送まで、全過程をAIが管理することで効率が飛躍的に向上する。

例えば、アマゾンは、AIを活用したサプライチェーン管理システムを導入。

これにより、在庫回転率を10%以上改善したと報告している。

OEMビジネスにこの技術が適用されれば、多様なブランドの要求に柔軟かつ迅速に対応できるようになる。

6. 新素材開発の加速

AIを活用した新素材開発も進んでいる。

膨大なデータを分析し、目的に合った最適な素材を短期間で開発できるようになっている。

例えば、日本の素材メーカー・東レは、AIを活用した新素材開発システムを導入。

開発期間を従来の半分以下に短縮できたという。

この技術がOEMに応用されれば、各ブランドの要求に合わせた独自素材の開発が容易になる。

まとめ

「同工異曲」の現代版とも言えるOEMビジネスは、今や私たちの生活に深く浸透している。

白い恋人から始まり、化粧品、家電、飲料、アパレル、自動車など、様々な産業でOEMが活用されている。

この戦略により、製造元は生産効率を高め、ブランド企業は開発コストを抑えつつ多様な製品を提供できる。

消費者にとっては、選択肢の増加と価格の適正化というメリットがある。

しかし、AIの進化は、このOEMビジネスに新たな可能性をもたらそうとしている。

製品設計の最適化、需要予測の精度向上、品質管理の高度化、カスタマイズの進化、サプライチェーンの最適化、新素材開発の加

速など、AIはOEMの全プロセスを革新する可能性を秘めている。

これらの技術革新により、OEMビジネスはより効率的で柔軟なものになるだろう。

同じ製造ラインから、より多様で高品質な製品が生み出されるようになる。

一方で、この変革は新たな課題も生み出す。

例えば、AIによる自動化が進めば、雇用への影響は避けられない。

また、データセキュリティやプライバシーの問題も重要になってくる。

さらに、AIによる効率化が進むことで、製品の同質化が加速する可能性もある。

ブランド企業は、AI時代においてどのように差別化を図るのか、新たな戦略が求められるだろう。

結論として、OEMビジネスはAIの導入により、より効率的で柔軟なものへと進化していく。

しかし、その中で「同工異曲」の本質、つまり「見かけは異なるが本質は同じ」という状況をどう扱うかが、今後の大きな課題となるだろう。

ブランド企業は、AIを活用しつつも、自社ならではの独自性をどう打ち出すか。

消費者は、AIによってより洗練された多様な製品の中から、どのように選択するか。

これらの問いに対する答えが、AI時代のOEMビジネスの成功を左右するカギとなるだろう。

「同工異曲」の新時代は、すでに始まっているのだ。


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株式会社stakは機能拡張・モジュール型IoTデバイス「stak(すたっく)」の企画開発・販売・運営をしている会社。 そのCEOである植田 振一郎のハッタリと嘘の狭間にある本音を届けます。