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ショートストーリー

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短いのですぐ読めます。 僕の世界にようこそ。
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#ショートストーリー

孤独リフレクション

大学二年生の頃、僕は実家暮らしにも関わらず、大学帰りに頻繁に外食した。単に家に帰りたくない年頃だったといえばそうなのかもしれない。ただ、一つだけ言えることは、家族が当たり前のように安全地帯として機能している家は、恵まれているということだ。

僕は当時大学から一つ隣の駅にあるインドカレー屋によく一人で行った。間接照明の落ち着いた雰囲気の店だった。大抵いつもホウレン草ベースのカレーを注文し、ナンを二枚

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ザ・デイ・アフター・クリスマス

ザ・デイ・アフター・クリスマス

12月26日。朝の電車内。そこでは様々な物語が交錯し、そしていつもと違った空気が流れている。

あるいはいつもと違うのは空気そのものではなくて、その空気を見つめる自分自身なのかもしれない。

昨夜まで都会の隅々に満ちていたクリスマスソングの余韻に浸る人もいれば、浮かれた恋人の祭典が終わってホッと胸を撫でおろしている人もいるだろう。



朝の混雑したホームのあちらこちらで、電車を待つ人々が白い息

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深海のカタチ

深海のカタチ

人間というのは二項対立の間に生きている。その二項対立は誰の中にも、あるいはあらゆるものの中にも存在している。

人間というのは、普通と言う名の狂気と、変態性と言う名の普通の中で生きていると、僕は思う。変態こそ自然であると言った方がいいかもしれない。電車の中で50代のサラリーマンが通勤ラッシュにもかかわらず、アダルトビデオを見ていたとする。これが絶対的に変態なのかどうか、今ひとつ僕にはよくわから

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ブラウン管の中の星

ブラウン管の中の星

葵が事故にあった時、僕らの関係はもう既に終わっていた。それどころか、僕はもうその時涼子と結婚していた。でもそれ以来僕は一層仕事に励むようになった。ただ目の前の仕事をこなした。そうすることで何も考えないで済むようにしていた。死ぬということがどういうことかわからなかった。ときおり時計を見るといつのまにか時間が過ぎている、そんなことが唯一の救いに思えた。

市部にある取引先での仕事を終え、直接家に帰

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黒

9時のアラームで水田は起きた。
毎日がつまらなかった。ただただ時間を消費していた。どこへ向かっているかもわからないまま、水田は毎日満員電車に自らを押し込んでまで、大学の講義に出た。しかし一方で、自分が死に向かっているという自覚があるわけでもなかった。時間など無限に続くような気がしていた、いやもっと正確には時間についてまともに考えたことはなかった。
最近1日が終わるのが早い気がする。今日は特に予定も

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