Spica Works

テキストと写真はコンテンツとして似て非なるもの。違う人がやればニュアンスの違いがでてく…

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テキストと写真はコンテンツとして似て非なるもの。違う人がやればニュアンスの違いがでてくるのも当然です。写真撮影と文章執筆は同一人物がやる。そうすることで本来の大筋も歪むことなく芯のある記事になります。そんなこんなで始めました、写真好きライターによるコラムです。

最近の記事

【コラム】鎌倉の御霊神社で受け継がれる面掛行列と歴史

毎年9月18日に神奈川県鎌倉市にある御霊神社では例祭が開かれる。窯で煮たてたお湯を使って占いや無病息災を願う祈祷などを「湯立神楽」として披露したり、御霊神社が鎮座する坂ノ下町一帯を練り歩く「面掛行列」が披露される。今回は面掛行列についての話だ。 面掛行列とは、能面をつけた10名が隊列をなして、坂ノ下町一帯を行進するイベントのこと。時代劇や舞台などで垣間見られる天狗のお面や強面の鬼面などの10種類のお面が登場する。通常は御霊神社の宝物庫で保管されており、本物のお面をつけての行

    • 【コラム】鎌倉の御霊神社で受け継がれる神楽と祭り

      神奈川県鎌倉市にある御霊神社では、毎年9月18日に例祭として、神楽と面掛行列が催される。神楽は御霊神社内で全10座が披露され、面掛行列は能面をつけた10名が1時間ほど隊列をなして坂ノ下の町を行進する。 御霊神社内で披露される神楽は「湯立神楽」と呼ばれるもので、文字通りに窯でお湯を沸かし、神職はお湯を使って神様との共楽を催すのだ。神様を地上へ招き入れるための領域が縄と台座で区画されており、神様が宿る御幣が設けられている。 披露される全10座の神楽にはそれぞれに目的がある。演

      • 【コラム】気象とは、変化し続ける複雑な循環システムである

        風は、太陽光が大気を熱した結果によるものだ。太陽光そのものが直接大気を動かしているわけではなく、太陽光により熱せられた海面が蒸発し、空気が膨らみながら上昇する。上昇した空気は上空で冷やされ、より温度が低い方へと流れていく。これが循環のはじまりであり、風の発生メカニズムだ。 1m²の面積に加わる大気の圧力を気圧というが、とある2つのポイントの気圧を比べると、より大きい数値・より小さい数値が割りだされる。小さい数値のポイントから大きい数値のポイントを眺めたときに高気圧と呼ばれ、

        • 【コラム】上野のアートで自然に寄り添う『大地に耳をすます|気配と手ざわり』

          東京・上野に、自然に寄り添った作品たちが集結している。「大地に耳をすます 気配と手ざわり」というタイトルで、5名のアーティストがそれぞれ自然をテーマにして、インスタレーションや写真、ドローイング、ライブペインティングなどで表現されているのだ。 展覧スペースへ足を踏み入れると川村喜一のインスタレーションが視界に入ってくる。入場料の1100円を支払いエスカレータを降りると、ドローイング・写真・創作物を使っての作品群が展示されているエリアへ入る。 壁にカンヴァスがあったり、写真

        【コラム】鎌倉の御霊神社で受け継がれる面掛行列と歴史

          【コラム】米津玄師6thアルバム『LOST CORNER』はPOPまみれの決意表明だ

          米津玄師6枚目のアルバム『LOST CORNER』は、全20曲を通して圧倒的にPOPな詩集だ。アニメ・CM・ニュース・TVドラマ・ゲーム・映画などの各種メディアに起用されたことから、1曲に秘める物語性も高い鮮度で顕在し、全体を通しても米津玄師としても全くぶれていない。 シティーポップ・アイドルポップ・エレクトロポップ・テクノポップ・ロックポップ・ダンスポップ・オルタナティブポップ・シューゲイザーという具合に、いまやPOPといってもこれだけの種類がある。1つの種類に縛られずに

          【コラム】米津玄師6thアルバム『LOST CORNER』はPOPまみれの決意表明だ

          【コラム】漆の話|東京芸術大学「うるしのかたち展」で漆に寄り添う

          「漆」とはウルシの木から採れる樹液のことで、加工して使う天然の塗料だ。ウルシの樹液は時間がたつと硬化して耐久性が高まり、光沢のある表面をつくりだす。日常品に漆を塗ることで重宝されることからも、北は青森、南は沖縄まで、それぞれの「漆塗り」が存在する。 日本が島国であり山の民が多いことから、日本人は古来より自然物をうまく使いこなすことに長けていた。石川県の三引遺跡から約7200年前に造られた「くし」が見つかったのだが、漆が塗られていた。青森県の是川中居遺跡からは、3000年前の

          【コラム】漆の話|東京芸術大学「うるしのかたち展」で漆に寄り添う

          【コラム】関東の水事情|江戸時代から始まる首都機能の大型アプデ

          日本は水の国である。それは地理的な要因が大きい。太平洋は遮蔽物がないため、太陽光線が海面を熱して蒸発させる。蒸発した太平洋上の湿気は風に吹かれて日本に運ばれる。山岳地帯の多い日本では、風に運ばれた湿気は、山にぶつかり上昇すると気温が下がり雨となるのだ。 このサイクルが頻繁に現れるのが梅雨だ。大気中の水蒸気量が増えてくると、雨となって水分が地上に落ちてくる頻度が「たまに」から「頻繁に」へ変わる。太平洋上で蒸発した湿気はどんどん日本へ運ばれ、その過程で蒸発しきれなくなり、雨が降

          【コラム】関東の水事情|江戸時代から始まる首都機能の大型アプデ

          【コラム】志賀直哉の書斎巡りからトライアスロンまで|手賀沼がつむぐ魅力と歴史

          8月3日に手賀沼花火大会が開催された。毎年8月初週の土曜日に開催され、40万人以上の人が手賀沼周辺に集結する。手賀沼は柏市・我孫子市をまたぐ湖沼で、利根川の氾濫によりできあがったものだ。縄文土器の出土や古墳もあり、志賀直哉にまつわる歴史的な場所でもある。 手賀沼周辺には10種類以上の古墳と貝塚がある。いまだ現存していて現地へ赴けば確認できる遺跡もあれば、調査を行った場所として名前だけが残っている場所などそれぞれだ。我孫子市の下ヶ戸貝塚(さげとかいづか)は現地に看板があるので

          【コラム】志賀直哉の書斎巡りからトライアスロンまで|手賀沼がつむぐ魅力と歴史

          自然と共生する暮らし|やまとけいこ著『黒部源流山小屋暮らし』を読む

          都会の喧騒を離れ、自然の懐に飛び込む。山小屋での生活は、そんな心の声に応える場所だ。都市生活がますます便利になる一方で、自然に身を置きたいという欲求も強まってくる。その在り方を示した体験記が、やまとけいこさん著『黒部源流山小屋暮らし』だ。 自然との向き合い方が記されているだけでなく、山小屋初心者への手引きとしても機能する。美大出身のイラストレーターということもあり、水彩イラストでの解説は、言葉よりも具体的なイメージを伝えてくれるのが嬉しい。 山小屋での暮らしは、単に緑に囲

          自然と共生する暮らし|やまとけいこ著『黒部源流山小屋暮らし』を読む

          たまや~!江戸の夜空を彩る花火は、徳川吉宗公による願いの歴史だ

          ついに夏が始まった。キンキンに冷えた部屋で浴衣を着ながらビールやサイダーで乾杯するのも一興だ。夏の風物詩といえば、海・祭り・花火あたりが思いうかぶ。東京でもっとも早く開かれる花火大会「足立の花火」が7月20日に開催予定であったが悪天候により中止となった。 気まぐれな雨雲が期待に冷水を浴びせ、花火会場付近で落胆とともに引き返すこととなったのだが、はしゃぐ子供たちは花火が中止と知りながらも、「たまや~!」と叫び散らかしている。都電荒川線の熊の前駅から三ノ輪橋へ向かうあいだ、「た

          たまや~!江戸の夜空を彩る花火は、徳川吉宗公による願いの歴史だ

          『アリスとテレスのまぼろし工場』は、渋る気持ちを未来に押してくれる物語だ

          アニメ制作会社MAPPAによる『アリスとテレスのまぼろし工場』が秀逸である。『あの花』や『さよ朝』でおなじみの岡田麿里が脚本と監督を務めたのだが、『鏡の国のアリス』という物語と『アリストテレス』の哲学を交ぜた、若者への深遠なメッセージとなっている。 作品の舞台は1991年の見伏市となっているが、実際に見伏市があるわけではなく、まぼろしの田舎町ということだろう。住人のほとんどは製鉄工場で働くことが普通で、田舎特有の働き方と閉塞感が生々しい。 作品のタイトルにもなっている「ア

          『アリスとテレスのまぼろし工場』は、渋る気持ちを未来に押してくれる物語だ

          ■夏きたる。アニメと、音と、小説と。

          季節は夏である。春・夏・秋・冬という4つのレイヤーがあるが、次の季節へ移るための準備期間にも、日本には移りかわりの趣がある。まさに今なんかは春から夏にかけての夏準備ゾーンと呼べる境地で、カッと晴れる日もあれば、しとしと雨が一日中降ってたりする。 夏本番を前にして、おのずと自然にとる行動がある。テーマや背景が夏の作品に触れることだ。服がまとわりつくじめっとした季節に、突き抜けたような青を夢見てしまうのだ。アニメ・音楽・小説、どの媒体においても日本は本当に抜かりなく夏作品が揃っ

          ■夏きたる。アニメと、音と、小説と。

          『三体』とは、自然界の力関係と視点が織りなす壮大なSF作品だ

          中国人作家の劉慈欣〈リウ・ツーシン〉が手掛けた『三体〈さんたい〉』三部作がおもしろい。三体とは科学において難題とされている「三体問題」のことで、2つの個体で保たれていた環境に別の個体が加わると、力関係が変わり環境も変わるという物の見方、つまりは視点のはなしだ。 科学に詳しくない人にとっては内容の理解が難しいかもしれないが、簡単に言えば恋愛でいうところの三角関係だ。2人の関係に第三者が加わり、心が揺れてしまう。第三者が現れることで問題になり、解決するための視点が重要になる。こ

          『三体』とは、自然界の力関係と視点が織りなす壮大なSF作品だ

          石川九楊から書との向きあいかたを学ぶ

          書道家や水墨画家とよばれる人たちがいる。筆に墨汁を含ませ、何かを伝える人たちだ。紙や陶器に言葉や絵で表現する。アジアで生まれた墨をつかった表現方法は、白と黒の二色のみで人に世界を認知させられるのだ。書道家ならぬ書家・石川九楊の個展へいってきた。 前提として石川九楊は肩書をもうけていない。今回の個展にも「石川九楊大全」というタイトルが採用されている。本人からの直接的な言葉ではないが、筆と墨を使っての表現からもあくまで書道ではあるのだが、九楊独特の意思があることから「書家」とつ

          石川九楊から書との向きあいかたを学ぶ

          マンガ『左ききのエレン』は、凡人に向けられたアイの手紙である

          世の中には「天才」と呼ばれる人たちがいる。原子を利用してエネルギーを増幅させることをおもいついたアルベルト・アインシュタイン、直流電流のメカニズムを発見して電球をデザインしたトーマス・エジソン、交流電流とWi-Fiの父であるニコラ・テスラなどがしっくりくる。 天才と呼ばれるにふさわしい人たちは偉業を成し遂げている。ちゃんと深堀りしていけば誰がきいても納得できるような物事に、体系的に、そして論理的に革命をもたらせているのだ。数学や科学、文学の領域で見かけるが、芸術においても名

          マンガ『左ききのエレン』は、凡人に向けられたアイの手紙である

          上野界隈のArt空間へ。お散歩がてらにインスタレーション|『UN-FIT』

          気晴らしによく行く上野公園。芸大が近いこともありもともと外国人はよく散見していたが、インバウンドの効果も相まって、むしろ外国人のほうが多く感じる今日この頃。美術館や博物館もあることから、パリとは言わないが上野界隈は立派な国際都市にも感じられる。 気軽にアートの空間へ没入できることから上野は散歩にもってこいだ。今回は公園内の立派な施設で開催されているイベントではなく、上野公園からすこしだけ外れた池之端エリアにある「花園アレイ」というリノベされてオシャレに仕上がった団地の5階部

          上野界隈のArt空間へ。お散歩がてらにインスタレーション|『UN-FIT』