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マンガ『左ききのエレン』は、凡人に向けられたアイの手紙である

世の中には「天才」と呼ばれる人たちがいる。原子を利用してエネルギーを増幅させることをおもいついたアルベルト・アインシュタイン、直流電流のメカニズムを発見して電球をデザインしたトーマス・エジソン、交流電流とWi-Fiの父であるニコラ・テスラなどがしっくりくる。

天才と呼ばれるにふさわしい人たちは偉業を成し遂げている。ちゃんと深堀りしていけば誰がきいても納得できるような物事に、体系的に、そして論理的に革命をもたらせているのだ。数学や科学、文学の領域で見かけるが、芸術においても名を馳せた猛者たちが多くいる。

立体を平面として捉えてキャンバスに収めたパブロ・ピカソはキュビズムで有名だ。モナ・リザを描いたレオナルド・ダ・ヴィンチは画家であると同時に、建築家であり数学者であり科学者だった。天才とは、ひとつ先のフェーズへ進める人のことなのだ。

天才だと謳われる人は現在でもちらほらいるが、圧倒的に凡人の数が多いのがリアルである。
凡人ばかりがはびこる世界で、「天才」と呼ばれる人たちを中心に描いたマンガがある。それが『左ききのエレン』というマンガだ。

エレンは左ききの絵かきだ。左ききというエレンの特徴がタイトルに収まっているが、物語全体をとおして常にエレンが登場し続けるというわけではない。天才に分類されるエレンは、左ききというのが名前が広がるきっかけとなってくる。希少のなかの希少ということだ。

エレンに関わった人間たちがどのようにお互いを刺激しあい、前に進んでいくのかが網羅的に描かれているのだが、この作品は凡人へ向けた手紙なのだ。天才に関わった凡人が社会を切り開いていく姿勢は、令和という地獄を生き抜く人々にとっても大変な活力になるに違いない。

SNS以降の広告代理店の在り方や、コロナを境にした人生観との向き合い方、マスと個人、メディアの存在意義など、リアルな文脈で堂々と織り込まれているところはマジでエモい。
天才とは集中力の質のちがいであるといった、凡人には嬉しい教えもおもしろい。

隣人が起こしたアクションに対して「やばい、それ天才!」というふうに、最近ではカジュアルに聞こえてくる。簡単につかわれる「天才」という言葉は、知らなかった概念を教えると同時に相手を気持ちよくさせる魔法の言葉でもある。ビジネスでも便利な言葉なのでぜひ。


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