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『三体』とは、自然界の力関係と視点が織りなす壮大なSF作品だ

中国人作家の劉慈欣〈リウ・ツーシン〉が手掛けた『三体〈さんたい〉』三部作がおもしろい。三体とは科学において難題とされている「三体問題」のことで、2つの個体で保たれていた環境に別の個体が加わると、力関係が変わり環境も変わるという物の見方、つまりは視点のはなしだ。

科学に詳しくない人にとっては内容の理解が難しいかもしれないが、簡単に言えば恋愛でいうところの三角関係だ。2人の関係に第三者が加わり、心が揺れてしまう。第三者が現れることで問題になり、解決するための視点が重要になる。これが三体問題の一つの例えである。

では実際に三体問題をとりあげるのは誰かというと、力関係を調べる科学者や物理学者だ。天体にはそれぞれ引力がある。天体の質量が大きいほど引力も大きい。私たちが住む地球には地球なりの引力があり、恵みの光をあたえてくれる太陽には太陽なりの引力がある。

太陽の質量は地球の質量よりも33万倍ほど大きいので、太陽に引っ張られる力が圧倒的に大きい。太陽による引きの強さを和らげ、環境を保つ役割を果たしているのが月だ。月がなかったら地球の周回軌道が変わり、生命が育まれる環境を維持できなかった可能性がある。

このように何かについて考えるとき、第三者を加えて前提となる条件などを組みこめば今までとアプローチが変わるので、自然と結果も変わっていく。もともと3つの関係があり、前提となる条件を変えることで、違ったものの見方ができるのも三体問題の妙味なのだ。

「三体」は文化大革命から物語が始まる。旧思想・旧文化・旧風俗・旧習慣を破壊して新たな世界をつくることを歌ってはいるが、学校が閉鎖し博物館や図書館が壊され、学者は異物として排斥した。どこの国にも忘れてはならない歴史上の汚点があるものだ。

文化大革命などの中国の歴史に触れることや、作品が自己組織化ナノファイバーといった最先端の科学をふんだんに取り入れていること。電波望遠鏡でメッセージを放ち未来を変えようとする人類の姿を描いたこの作品は、この世に名を残すにふさわしいSF群像劇だ。


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