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【コラム】鎌倉の御霊神社で受け継がれる神楽と祭り

神奈川県鎌倉市にある御霊神社では、毎年9月18日に例祭として、神楽と面掛行列が催される。神楽は御霊神社内で全10座が披露され、面掛行列は能面をつけた10名が1時間ほど隊列をなして坂ノ下の町を行進する。


御霊神社内で披露される神楽は「湯立神楽」と呼ばれるもので、文字通りに窯でお湯を沸かし、神職はお湯を使って神様との共楽を催すのだ。神様を地上へ招き入れるための領域が縄と台座で区画されており、神様が宿る御幣が設けられている。


披露される全10座の神楽にはそれぞれに目的がある。演目の始まりを告げる神楽として「初能〈はのう〉」からはじまり、招き入れる神様に無礼のないように演じる場所を清める「御祓〈おはらい〉」に続き、神様を御幣に降ろす「御幣招〈ごへいまねき〉」という順序だ。


窯で煮たてたお湯を神様へ献上する「湯上〈湯上げ〉」が行われ、ここまでを前段としている。小休止として「直会〈なおらい〉」が挟まれ、以降は後段として全5演目の神楽が披露される。


煮立っているお湯をかき混ぜることで気泡を発生させて豊作を占う「掻湯〈かきゆ〉」で演目が再開された。大きな笹の葉をお湯に浸し、笹でお湯を周囲にまき散らす「大散供〈だいさんく〉」では聴衆から歓声があがった。


お湯で清めた笹で軽やかに舞う「笹舞〈ささまい〉」で神様と五穀豊穣への願いが演舞される。弓矢で邪気を祓う「射祓〈いはらい〉」では、4回ほど小さな矢が周囲に放たれるのだが、御幣にむけて放たれるはずの5本目の矢は実際には射られない。天界には邪気がないから届かないという表現だ。


演目のトリを務めるのがもっとも見ごたえのある「剣舞毛止畿〈けんまいもどき〉」だ。天狗が邪気を祓う「剣舞」と、山の神が聴衆をなだめる「毛止畿〈もどき〉」の合同演目だ。山の神のけばけばしい衣装とせわしない動きはどうしても印象に残ってしまう。


前段  |「初能・御祓・御幣招・湯上」
中入れ |「直会〈小休止〉」
後段  |「掻湯・大散供・笹舞・射祓・剣舞毛止畿」


神楽とは神を天界から降ろして共演すること。「鬼滅の刃」でお馴染みの火の神神楽は、火を恐れた人間たちが火への戒めが舞われた。「君の名は」の巫女舞では、最古の酒とされる口噛み酒で披露されているとおり、五穀豊穣を願ったものだ。


天災を恐れた人間は、祈りの在り方を表現し体系化され、伝統として受け継いでいる。浅草の浅草寺では、毎月1日におこなわれる「月次祭〈つきなみさい〉」で神前にて巫女舞を観覧できる。祭りや神社の行事を通じて、伝統文化に触れることも、また一興である。

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