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【コラム】米津玄師6thアルバム『LOST CORNER』はPOPまみれの決意表明だ

米津玄師6枚目のアルバム『LOST CORNER』は、全20曲を通して圧倒的にPOPな詩集だ。アニメ・CM・ニュース・TVドラマ・ゲーム・映画などの各種メディアに起用されたことから、1曲に秘める物語性も高い鮮度で顕在し、全体を通しても米津玄師としても全くぶれていない。

シティーポップ・アイドルポップ・エレクトロポップ・テクノポップ・ロックポップ・ダンスポップ・オルタナティブポップ・シューゲイザーという具合に、いまやPOPといってもこれだけの種類がある。1つの種類に縛られずに、いくつかの種類をまたいでいる曲も珍しくない。

①RED OUT
②KICK BACK
③マルゲリータ
④POP SONG
⑤死神
⑥毎日
⑦LADY
⑧ゆめうつつ
⑨さよーならまたいつか!
⑩とまれみよ
⑪LENS FLARE
⑫月を見ていた
⑬M八七
⑭Pale Blue
⑮がらくた
⑯YELLOW GHOST
⑰POST HUMAN
⑱地球儀
⑲LOST CORNER
⑳おはよう

①RED OUTは、SpotifyのCMで流れている。タイトルのRED OUTとは、重力などの影響で目が充血し視界が赤くなってしまうことで、音楽業界の過酷な状況を表現している。素人でもAIを使えばサクッと曲が作れてしまうことからも、現代の音楽業界はまさにRED OUTだ。

ベースラインが耳につくロックテイストな①RED OUTから引き継がれるナンバーは、アニメ『チェンソーマン』でもお馴染みの②KICK BACKだ。アニメ繋がりで「薬屋のひとりごと」のEDでお馴染みの「アイコトバ」を歌うアイナ・ジ・エンドとのデュエットが③マルゲリータ。

ゲーム機の王道であるプレステのCMでは、この世は全て道化だと言わんばかりに④POP SONGが蹂躙。落語でお馴染みのお題目でもある、人間の欲深さを描いた⑤死神もポップに調理され、日常をテーマにした⑥毎日・⑦LADYは、ジョージアの缶コーヒーがお似合いだ。

世界の裏表を惜しみなく伝えるニュース番組news zeroでは、メローなリズムが心地よい⑧ゆめうつつが1日の狭間付近でTVからたゆたい、日本人初の女性弁護士である三淵嘉子の成り上がりを描いた虎に翼では、⑨さよーならまたいつか!が前向きで力強く振る舞う。

アルバム中盤の⑩とまれみよでは、止まったほうがよいのでは?という警告であると同時に、今更止まれないから腹をくくれ、と促される。⑪LENS FLAREでは、カメラレンズの屈折効果で得られる玉ボケを見てるような、思考と感情のぼやけた部分を美しく表現している。

世界的RPGタイトルのFF16では、主人公とパートナーである狼の孤独を月で表現した⑫月を見ていたがエンドロールで耳に焼付き、庵野秀明監督によるシン・ウルトラマンでは、ヒーローとしての孤独と心の在り方が⑬M八七で深淵に語られている。

異性間の性ともいえる恋愛の結果として結婚と離婚があるが、ドラマ『リコカツ』では磁石のようにくっついたり離れたりする人の心にそっと⑭Pale Blueが寄り添い、人間の悩みや苦悩を美しく描いたドラマ『ラストスマイル』では⑮がらくたが煌めいた。

煌めくことを知らずに、争いで朽ちる命がある。⑯YELLOW GHOSTでは、貧困なのか弾丸飛び交う戦場なのかはわからないが、まともな環境じゃないことだけはわかる。争いの歴史を繰り返すことだけが人間の業であるならば、未来は⑰POST HUMANに頼るしかない。

そんな苦境に立たされた人類は、⑱地球儀を回して『君たちはどう生きるか』と、今一度問い正すべきだ。「ぼくは道を曲がる」という歌詞から続くように、次の⑲LOST CORNERでは前進あるのみ、という文字通りの決意を表現しているのだろう。

単体でも圧倒的な物語でありながら、全体としてもしっかりと物語だ。米津玄師の6thアルバム『LOST CORNER』は、骨太な物語を束ねた詩集であると同時に、米津玄師としての決意表明でもあるのだ。AIに喰われるか、共に生きるか。思考を巡らし明日も⑳おはようと言いたい。


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