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掌編「だから笑って生きたい」

 自分以外の人が何を考えているのか分からない。家族だろうと他人だろうと、分からない事だらけなんだから。

 もしも自分が何か、言いたいことを、自分の言葉で言ったとして、言われた相手はどう思うだろう。自分が言いたかったことは、伝えようと思った事はちゃんと伝わったろうか―そんなこと思い始めると夜もおちおち眠れない。暗闇に、一人起き上がって、ひゅうひゅう鳴る風の音を聞いている。星が流れるのを待っている。月が傾いて行くのを追い掛けている。

 ほんとはそんなことしてる場合じゃない。いや、そんなことしてる時間も好きだけれど、一つ温かいココアでも飲んで、ぬくぬく布団に潜り込んで安心して眠りたいとも思うんだ。きっとそうした方がいい夜だってあるんだ。つまりは、どちらも好きで、どちらも自分。

 明日の朝は、眠たいかも知れないな。でも、今夜見た「夜」は、自分の焦燥も寂しがりなとこも、傲慢もいんちきも、泣き虫も劣等も、全部ぜんぶ呑み込んでくれたな。受け取っておいてやるって、言ってくれたな。

 ありがたいな。嬉しいんだよ、本当に。

 自分は自分のことさえも分かっていないのかも知れないけれど、受け止めてくれて、君はそれでいいんじゃないかってさ、なんか言われた気がした。笑われた?それもいいかも。

 繰り返して、また立ち直って、そうやって生きていく。それでいい。

 だって明日も明後日も、笑って生きたい。


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