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こどもの読みもの

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こどもにおすすめの本。 かつて、こどもだった大人におすすめの本。
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2021年12月の記事一覧

初恋

初恋

「初恋」
島崎藤村
明治三十年刊「若菜集」より

まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり


やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり


わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな


林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふ

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ベロ出しチョンマ

ベロ出しチョンマ

斎藤隆介 作
滝平二郎 絵
1967

千葉の花和村に「ベロ出しチョンマ」という玩具がある。
チョンマとは長松が訛ったもの。
背中の輪を引くと舌を出す。誰でも思わず吹き出さずにはいられない。

十二歳の長松は三歳の妹ウメが泣くと、眉毛を八の字に下げ、
ベロを出して間抜けた顔で妹を笑わせていた。
天災で苦しんだある年、百姓達は年貢をもっと出せと要求され、
生きる道がなくなる。長松

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霧のむこうのふしぎな町

霧のむこうのふしぎな町

霧のむこうのふしぎな町

「霧のむこうのふしぎな町」
柏葉幸子 1975
小学生六年生の上杉リナは、夏休みに初めて一人旅にでる。
「毎年長野に行くんだから、今年は霧の谷へ行ってみろ。」
と父親に勧められたのである。
風に飛ばされるピエロの傘を追いかけるうちに「霧の谷」の森を抜け、
洋館の建ち並ぶ外国のような通りにたどり着いた。
リナはピコット屋敷という下宿屋に泊まり、意地悪な婆さんに自分で働いて生

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井筒

井筒

[能の謡曲]鬘物(かずらもの)
『井筒』 世阿弥 室町時代

「筒井筒 井筒にかけし まろがたけ 生いにけりしな 妹見ざるまに」
(昔あなたと遊んでいた幼い日に、井筒と背比べした私の背丈はずっと高くなりましたよ。あなたと会わずに過ごしているうちに)

「くらべこし 振分髪も 肩すぎぬ 君ならずして 誰かあぐべき」
(あなたと比べあった、振り分け髪も肩を過ぎてすっかり長くなりました。その髪を妻として

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100万回生きたねこ

100万回生きたねこ

作・絵 佐野洋子 1977

📙📙📙📙📙
・・・・・
100万回も死んで、100万回も生きたねこがいました。
王様、船乗り、手品使い、どろぼう、おばあさん、女の子・・・。
100万人の人がそのねこを可愛がり、100万人の人が、
そのねこが死んだときに、泣きました。
あるとき、ねこは誰のねこでもない、のらねこになりました。
自分が大好きなねこは、めすねこたちにチヤホヤされて
有頂天になりま

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ビルマの竪琴

ビルマの竪琴

竹山道雄 1948

うたう部隊
・・・・・ほんとうにわれわれはよく歌をうたいました。
嬉しいときでも、つらいときでも、歌をうたいました。
いつ戦闘がはじまるかもしれない、そして死ぬかも分からない、
せめて生きているうちにこれだけは立派にしあげて、
胸一杯にうたっておきたい・・・・・。

太平洋戦争敗戦間際のビルマ(現・ミャンマー)に音楽学校出身の隊長が率いる日本軍部隊がいました。その隊では、水島

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はてしない物語

はてしない物語

ミヒャエル・エンデ 1979

[ 屋本古 ]
ーダンアレコ・トーランコ・ルーカ
こんな字が、ある小さい店のドアのガラスに書かれていた。といっても、うす暗い店の中からそのガラスごしに表の通りを眺めるとき、そう見えるのだったが。

臆病な少年バスチアンがいじめられっ子に追いかけられて飛び込んだコレアンダー氏の古書店で『はてしない物語』というタイトルのあかがね色の本と出会う。バスチアンは黙って本を持ち

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おぢいさんのランプ

おぢいさんのランプ

新美南吉 1942

東一少年が土蔵の中で祖父のランプを見つける。
祖父「巳之助」が語る話が始まる。

岩滑新田(愛知県知多郡半田市)の孤児、巳之助が荷車引きの手伝いで、
初めて大野(常滑市)の街に行き、そこで街中が「ランプ」で、
明るく活気に満ちている事に驚く。
巳之助の村には「行灯」しかないからだ。
文明開化に遅れた暗い村を村人の生活共々明るくしようと、
巳之助はランプを売り出す事を心に決める

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