見出し画像

時には武器になりそして私を救ってくれた、好きで好きでたまらない執筆についての話。

こんにちは。
作家ユニット ソラニエの、尾崎レミです。


今日は、岸田奈美さんという方が開催されている「キナリ杯」という、とてもユニークでキラキラした賞に文章を出したいなと思いまして。

自分は作家なのでお話を書こうかとか少し考えたのですが、賞の内容を見ているうちに自分もキラキラした想いを書きたいな、っていう気持ちになり。

自分の大好きな、本を書くこと、について書こうと思います。
途中、育って来た経緯とかが少し暗いと思うかもしれませんが…自分にとっては単なる過去の記録なので、ふーん程度に思って下さい。笑



書く前に。
私は大人になってから、「私の個人的な話を延々と、なんて誰も聞きたくないだろうな」という思い込みがどこからか染み付いてしまって、でも自分の話を誰かにしたいという感情がすごくあったので「ぜひ話して下さい!」と言われることの嬉しさで今胸が一杯です。
こんな機会を作って下さって、ありがとうございます。

ちょっと長いかもしれませんが、お付き合い下さい。
とっても読んでほしいです。



私について

尾崎レミと申します。
ソラニエという、二人組作家ユニットのひとり。主に舞台の本を書いてます。

ざっくり、これまでのことを書きます。

小学校
小さい頃からおはなしを考えることが大好きで、学校でも仲がいい友達はほとんどいなかった。
寂しかったので友達の輪に入るために漫画やアニメを見て、楽しそうにしていたけど空白は余計に広がり。心にぽっかりと穴があく。
作文に目一杯の嘘を盛り込んで、小さい賞をとる。

中学校
友達同士が悪口を言い合ってて怖くてドン引き。仲良くしてくれる友達も居たが、基本どこのグループにも属してない流浪の民になる。
陰口を言う男子も多く、人を信じられなくなる。
孤独で、「誰かが私を探しているんじゃないか」と駅の二階のロータリーで何時間も待ったりするようになる。

高校
誰も知り合いのいない高校を選んで進学。
演劇部に入り、目が覚めるような楽しい日々を送る。
心から信頼できるような親友も出来る。



しかし、小さい頃に心にあいた大きな穴は塞がらず。
同じことを思ってる人を探してその後も彷徨う。
学校には毎日悪口や悪意が当たり前に溢れていて、大人になっても自分の身の回りに沢山転がっていることに気付き、それと戦う決意をする。


これはお話を書くことで救われた、私のお話です。



まず。
私は本を書くのが好きだ。
好きで好きでたまらなくて、
自分の本の中の人物達が日常に訪ねて来るようになって、
それで自分と毎日一緒に生活し始める。
構想を練っていて悩んでいる時は世界が灰色に見え、
それを乗り越えたら世界に色がつく。
それぐらい、おはなしを書くのが好きだ。

それは昔も今も、ずっと変わらない。

「あいつ」と戦う為に本を書いていた、5年間

貴方が本を書くのは何のため?とよく人に聞きたくなる。
私は相方とユニットを結成してから5年間、依頼が来て書いたもの以外は自分の為だけに本を書いて来た。
私が心の中で呪う、あいつ…「悪意」と戦うためだ。
悪意はどこに行っても存在した。どんなに違う場所に逃れても、いつでも私の目の前に姿を変えて現れた。
しかしターゲットはいつでも自分ではなかった。
イジメの標的になったのも私ではなかったし、すごく意地悪な先生に嫌みを言われるのも自分ではなかった。


ある日、友達が授業中に陰口を言われて小さなカッターナイフで手首を切った。
私はとっさに血の付いたカッターナイフをその子から取り上げたが、教室は混乱し、誰も気付かなかった。授業は自習になり、その後、先生に報告をした友達は落ち着いた様子で教室に戻って来た。
返そうかと悩んだがどうしていいか分からず、そのカッターナイフを家の引き出しに仕舞い込んだ。
次の日、教室は何事もなかったかのように元に戻っていた。友達の傷は絶対消えないと思うけど、その目に写る「平穏」が逆に怖かった。
引き出しに入れたはずのカッターは、どこに行ったのかもう分からない。


今も、この出来事を鮮明に思い出せる。
何年経っても私だけがまだあの日の教室にいる気がして。
私はまだ、このことを整理できていない。


だから私は、この「悪意」をやっつけるために、
自分の過去を清算するために、本を書くことにしたのだ。

転機が訪れる

私の過去の清算の儀式は続いた。
でも私の心は大きな穴があいたままだった。
どんなに本を書いてもその穴は塞がらなかった。
沢山の素敵な人に囲まれているのに、染み付いた孤独の感覚が消えない。
私はよく喋り、すぐ笑うタイプなので落ち込むときの反動は大きかった。

その中で私はだんだんと、「過去の清算」をすることより、そして「受け入れてほしいから自分を表現する」をすることよりもっと、今の自分にとって大事なものがあるんじゃないか、と考えるようになっていった。


いつも舞台の台本は、見てくれる人に何を伝えたいか、何を持って帰ってもらいたいかをもちろん考えて書いてはいたけど、最終的には全て自分に矢印が向いていた。
しかし三年ぶりに自分の団体で舞台をやることになり、直感で私が出したテーマは「祈り」だった。
相方の水辺くんの出したテーマは「救い」だった。それを聞いたとき、これまでにない、自分ではなく誰かのために本を書ける予感がした。

舞台は一年後。
私は生まれ変わらないといけない。
初めて誰かに向けて、「救い」と「祈り」の話を書く決意をした。


そして本の中の世界で見つけた、「私」との出会い

劇場を予約した私はあとに引けなくなった。
あと一年後に舞台ははじまる。
今回で自分は確実に成長しないといけない、変わらなければというプレッシャーは大きかった。
でも、不思議と全く怖くなかった。


絶対に手は抜かない、作品の中では嘘は書かない。
これが自分たちなりの、作品づくりのルールだ。
小さい頃の作文でも、そして友達や自分にも嘘をつきまくって来た私はもう本の中では嘘をつきたくなかった。それだけは守り抜いて来た。
それを軸に。
楽しくて辛い、本を考える日々がはじまった。



どんな人が出て来るだろう。
どんな悩みを持っているだろう。
どんな葛藤を持っているだろう。
どんな顔をするだろう。
何と戦うだろう。
毎日毎日、想像を膨らまし続ける。


本を書くことは。
ひょっこり顔を出した人物と向き合い続け、この感情をどういう言葉でこの人は伝えるだろう、と空想の横顔を見ながら何ヶ月も運命を共にし、一緒に試練を乗り越え、または一緒に追いつめられて行き、一緒に物語の渦に巻き込まれて行く。
そんな体験が出来る、他には変えがたい…かけがえのないものだ。


チラシ用のあらすじを決めた。
SFのような、でも現実のような世界の、不思議なブラックエンタメ。

目目目目目、目。
目の数だけ世界はある
どこまでも存在する、無数の世界。

ある日カメラマンの男は 目に違和感を覚えて眼科にかかるが、
医者にゴーグルのような形の器具を渡され、
謎のパーティーに参加させられる。
そこでは器具をつけた人間達が、
作り上げられた自分の世界に没頭していた…。
そしてカメラマンの男は 
その集団が崇拝する 「教祖くん」 という人物を目撃する。

一方。
仕事から帰って来たある男は、食卓に乗っているものを見て唖然とする。
ソテーになった黒い靴、
国旗が沈んだスープ、
野菜とスマホのマリネ。
「そういえば彼女は最近まで奇妙な器具をつけていた」
男が必死に考えを巡らせている横で
エプロンを外した女は笑って言った「さ、食べよう。あったかいうちに」

謎の器具は現実に浸食していき、
それを追う事になった彼らも みるみるその渦に飲まれて行く。
目の数だけ世界はある
だから隣にいる貴方と私、世界が同じように見えてるとは限らない
どこまで行っても分かり合えない、絶対に。
でも。 忘れた頃にそれでも、と。
光は無数の目を巡り、乱反射しながら旅をする。
ある一瞬の、希望だけを探して、
何度でも、どこまでも。

これはソラニエによるひとひらの、救いと祈りの話。


「付けると見える世界が変わる」という謎のゴーグルのような『器具』が流行りだした世界。それをつけた人々は現実逃避してそのゴーグルを楽しむが、その後世界は歪んでいき、登場人物たちは自分と対峙することになる。
葛藤まみれの群像劇。


書きたいこと盛りだくさんで、こんな内容になった。



しかし、どんなに書き進んでいっても主人公であるカメラマンがどんな人物か定まらない。

彼は混乱に紛れていって悪意と戦うことになる。
しかし彼は過去に世間の悪意に晒され、得意としていた人物写真を撮れなくなっていた。

……なぜ写真なのだろう。
なぜ、写真を撮っているのか。撮っていたのか。分からない。

いつも核となる人物は最も重要な訴えを持っているし、最後になって決まって来るので考える。

朝も、昼も、夜も。
朝も、昼も、夜も。
朝も、昼も、夜も。

お風呂でも、トイレでも、駅のホームでも。
主人公の彼のこと、登場人物のこと…この話で伝えたいことをあぶり出す。
想像をめぐらし、彼に話しかける。
しかし、姿は見えるようになってきても彼はなかなか喋ってはくれない。


そうやって、空想の横顔を見つめながら何ヶ月も生活と運命を共にした。
時には歩く背中を見つめ、葛藤に揺れ、一緒に追いつめられていった。
分からなくて苦しくて、押しつぶされそうになった。
こんなに真剣に向き合ったのは初めてだった。


タイトルは、 「乱反射パレード」 とつけた。
人物達の感情が乱反射していく、というイメージだった。



そうして話を考えだしてから、半年。
現実に私の意識はなく、街は灰色になっていた。
物語はクライマックス直前。
私は喋らない彼とともに、物語の分厚い渦の中にいた。






ある日の夕方。
薄暗い部屋で、私は言葉を書いては消し、書いては消しを繰り返していた。
いよいよ、彼が本当のことを喋りだすシーンだった。

ふと、目を閉じると目の前に舞台が広がる。
そこに灯る、一本の、スポットライト。
そこに彼が姿を現した。
私は彼を見た。はじめて目が合った。
次の瞬間カメラマンの彼は、ずっと心の中に閉まっていた本当のことを、すごい勢いで喋りだした。


「何回も話しただろ…みんなそれぞれ腹の中に膨れ上がるぐらいに渦巻いてる何かがあってそれはけっして綺麗なものじゃない、明るいものでもない、でもその人自身を形成する血と肉と骨なんだ 目であり感情であり言葉で説明できない何かなんだ それが内側から止めどなく溢れてきて隠しきれなくて表情になる、俺はそれを撮ってる。
人はみんな違う武器を手に持っててそれを振り上げて戦わないといけない時が来る、その時は嘘なんかつけないし格好付けたりもできない、渦巻いてる何かを抱えたまま逃げずにその武器をただ振り上げて戦う、戦うんだよ。俺はその姿を撮ってるんだよ!」


……

書いている手が追いつかない。
それぐらい、彼は捲し立てた。
もの静かだと思っていたのに……とても驚いた。

彼はまだ舞台に立っている、肩を揺らして、息を切らして。
表情、目に入る光。鮮明に見えていた。



私は必死に書き取ったのを少し直して、読み上げる…。
声に出したら涙が溢れて来た。
どんどん溢れて来てもう文字は読めなかった。


それは、自分のために今まで本を書いてきた自分のための言葉じゃなく。
どこにでも現れる、「あいつ」に殴られた誰かのための言葉だった。


ずっと分からなくて、喋ってくれなくて、追いかけて来たけど。
紛れもなく、彼の口から出た彼の「本当の言葉」は、
私の「本当の言葉」だった。


私は涙で目が真っ赤になったまま、出来たばかりの言葉を持って家を飛び出した。
劇場で登場人物達に会うのが、とても楽しみでならなかった。


あとがき

こんなにも自分の人生が変わるなんて、思ってもみなかったです。
ずっと何も変わらないって思ってた。
私を救ってくれたのは、本を書き、自分と出会うことでした。
私は本だけど、きっと他の人も違う武器を持っているのでしょう。
それを考えると、こんなにも尊いことはありません。


これからも彼に、自分に出会うべく、自分のため、誰かのために本を書き続けたいと思います。
嘘をつかず。


いつも読んでくれる人が私の光です。
こんな長い文章、最後まで読んで下さって、ありがとうございました。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?