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短編小説

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#日記

【短編小説】散々だちくしょう

【短編小説】散々だちくしょう

3年日記を持っている。
同じ日付の中に3つ書き込めるエリアがあり、どんどん書き進めていくと2年前、3年前になにをしていたかがすぐにわかる日記だ。3年前の今日に、今まで日記なんて書いたことがなかったのに買ってみたのだった。

多分、恋人と付き合い始めたばかりでいろいろ思い出を残したかったのかもしれない。さらに言うと、デート中に購入したので、『ていねいな女』とか思われたかったのかもしれない。

案の定

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【短編小説】誰も知らない話

【短編小説】誰も知らない話

気になっている人がいた。

手でまるめてぎゅうぎゅうになったみたいな会社の雰囲気の中で、その人は一人だけ浮いていた。

自分は中途採用で入ったから余計に社内を俯瞰で見る事が多かった。
離婚して親権も奪われて、婿養子だった自分は家族経営だった会社からも追い出されてかなり苦しい生活を送っていた。
そんなぐしゃぐしゃになっていた自分を拾ってくれたこの会社には心から感謝している。

でもやっぱり、昼休憩の

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【短編小説】夏に吐く

【短編小説】夏に吐く

空を見上げると入道雲がそびえたっていた。

雲の向こう側で太陽が輝いている。

入道雲は後光をたずさえて,僕の心を離さない。

ドラッグストアのだだっ広い駐車場で立ち尽くす。

今が朝なのか夕方なのか分からなくなる。

夏が大嫌いだけど,こんな景色が見られるのなら少しぐらいは許してあげてもいいのかもしれないという思いが掠める。

さっき家にいた時に吐いた気配をまだ口の中に残したまま,目を細めた。

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