ソン ユニ

気の向くときに、素直に、しなやかに。

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最近の記事

#12 咳と現実感

私は演劇が好きだ。 演劇を観るとき、没入感というものはとても重要だと思う。少なくとも私にとっては。演劇が好きだからこそ、神経を集中させて全身の細胞ひとつひとつ全てで演劇を感受したいと思うのだ。 ある日の観劇で、通路を挟んで同じ列に座る子どもがコンスタントにずっと咳をしていた。 いくら周りが真っ暗な中で照明の当たる舞台に集中してお芝居に引き込まれて観ていたって、咳が聞こえれば脳のいくらかの部分は咳のする方向に持っていかれる。今まさに目の前に演劇という臨場感のある世界が存在

    • #11 私たちは心臓の鼓動さえコントロールできない

      大学時代に一番よくわからなかった授業が、一番印象に残っているのはなぜだろう。 その授業の教授は海外でフィールドワーク研究をしていたそうで、そのときの写真をパワーポイントで見せながら様々な経験を語ってくれた。 とある発展途上国では水はこのように運ばれてこのように使っているだとか、彼らはこんなものを食べていてこんなものでおもてなしをしてくれるだとか、家屋はこんな材料でできていて中はどうだとか、そんな話だった。 ずっとそんな感じで授業が進んでいくものだから、まあまあ楽しく受講して

      • #10 おめめがお月様みたいになるの

        世間より少し早めの夏休み。 母のいる実家に帰った。 穏やかな昼過ぎのこと。 ソファーでくつろぎタイムを過ごしていた私の膝にぽん、と優しく置かれたのは、ミッフィーちゃんが表紙に描かれたアルバムらしきもの。開くとそれは母がつけた私の育児日誌だった。 そこには、私が生まれたときから5歳までの日々のささやかな出来事と母の思いが、万年筆の青いインクで母の丁寧な字で綴られていた。 まめにつけられていたその日記で母は私の名前を何度も何度も呼びかけ、「かわいい、かわいい」と言葉を残して

        • #9 ひとりで食べるということ

          私は1人で食事をするのが苦手だ。 1人暮らしをするようになってから基本的にご飯は1人で食べるようになったのだけれど、これがなんというか、寂しい。 誰かと一緒に食べる食事は美味しくて楽しい時間を過ごせるのに、1人の食事はとてもつまらない。 大前提として、私は食への興味が多分薄い。 もちろん美味しいものを食べることは好きだが、普段の食事は割とどうでも良く思うので適当になる。 1人しかいないのならある程度の栄養が摂れていれば良いと思っている。食事を栄養摂取と捉えてしまう時点で

        #12 咳と現実感

          #8 舞台『Medicine メディスン』

          静かに、微かに、毒に似た何かに身体がじんわりじんわりと侵されている。 5月29日。 舞台『Medicine メディスン』を観てきた。 観るのにもの凄くエネルギーが要るお芝居だった。 何が起こっていくのか全く想像できない緊張感と不穏が這いつくばる空間。 ふっと笑えて力が抜ける瞬間があったかと思えば、激しい狂気とドラムの音に身体が強張って息をするのを忘れる。これ以上見ていたら自分までどうにかなってしまいそうで、全部受け止めるのが怖くて、腕を組んでしまった。 劇中、彼らは脚

          #8 舞台『Medicine メディスン』

          #7 明けていく空に残る月を見ていた vol.2

          夏休みが明けようとしていた。 限定的に対面での授業が始まることになっており、それはつまり、朝起きて支度をし、電車に乗ってキャンパスへ行き、人がたくさんいる空間で1日を過ごし、気の知れない人たちと話し、また電車に乗って家へ帰ってくる、という大きなミッションを含んでいた。 私には、授業に出られるビジョンが全く見えなかった。 電車に乗って移動できるエネルギーがあるのか。キャンパスに辿り着けたとして、横になったり気を抜いたりすることのできない空間で1日を過ごせるのか。今の気力で

          #7 明けていく空に残る月を見ていた vol.2

          #6 明けていく空に残る月を見ていた vol.1

          パンデミック真っ只中の大学入学。 親しい友達にも話したことがない話をしてみようと思う。 2020年。 私は高校3年生だった。大学入試を無事突破し、卒業を間近に控え、早く大学生になりたくてうずうずしていた。 そんな中で、感染症はじわじわと姿を現す。 卒業式は短縮型ではあったものの、生徒たちを体育館に集めて執り行われた。卒業証書を手に戻ってきた教室には何だか明るくて新鮮な空気が流れていて、平和すぎた高校生活に爽やかに別れを告げることができた。 私は高校生でなくなった。

          #6 明けていく空に残る月を見ていた vol.1

          #5 INTJ(建築家)の女

          INTJ(建築家)の女性は全人口の0.8%しかいないらしい。 mbti診断なるものが流行っている。 初めてやったのが数年前。それから誰かと話題になる度に診断テストをやってみているのだが、INTJ(建築家)以外になった試しがない。 つい先日も同じ結果だったので、もうそろそろ違う結果を求めるのは諦めようと思う。 INTJ(建築家)は、紫色をした堅物らの一員である。内向的で直感型、論理的、そして計画的。顎に手をやり何か思考していそうな奴がそれだ。 INTJ、と検索をかけると

          #5 INTJ(建築家)の女

          #4 汗と息切れ、瞬き

          『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』を観てきた。 コートの中の臨場感と、緊張感と、汗と、息切れ、苦しさ、視界が眩んでもう倒れてしまいそうな感覚。 高揚した。 大学時代に演劇をやっていたときのことが思い出される。 もう1回がない試合。 勝敗こそつかないけれどそれは演劇も同じ。 同じ人たちで同じ台詞を喋っても、二度と同じものはできない。やる度に微妙に異なる化学反応が起きる。そして観てくれる人たちが違えば、演劇を共有する空間も変わる。 舞台にいる私たちが動く、その瞬

          #4 汗と息切れ、瞬き

          #3 ジャーナリングイズグッド

          かれこれ2年半、ジャーナリングを続けている。 日記と何が違うのって。 私がするジャーナリングは、心が感じたこと、思うこと、自分の頭の中に浮かぶ考えを書くもの。ポジティブなこともネガティブなことも、過去のことも今のことも未来のことも書く。 毎日書くわけじゃないのが私なりのポイント。 書きたいときは1日のうちに3回くらい別のことを書くときもあるし、ばーっと長々書くときもある。かと思えば1週間に1回だけ1行で終わる、なんてこともある。 1日の中で書く時間も定めていないから

          #3 ジャーナリングイズグッド

          #2 古本屋のすすめ

          もう新品には戻れない。 昨年の夏くらいから、古本屋で本を買うようになった。 古本屋、と言ってもそこらへんにあるような本のリサイクルショップだけれど。 きっかけは、『ハリー・ポッター』シリーズを読みたいと思ったこと。 せっかく読むなら、小学生のとき学校の図書館で見たあの硬くて分厚い表紙の単行本で揃えて読みたい。でも全部新品で買いたいと思うまでの熱量は自分の中になく、近所の古本屋に足を運んでみることにした。 それまで私は、本は本屋で買うものだと思っていた。古本屋にはほぼ行

          #2 古本屋のすすめ

          #1 早寝は三文の徳

          早起きは三文の徳、とよく言う。 しかし早起きは早寝からすでに始まっていることをあなたはどれくらい実感しているだろうか。 私は朝型人間だ。 だって夜は眠くて起きていられないし、友達とオールする夜はどう頑張っても午前3時には電池切れだし、夜中まで起きていると身体のリズムがどうも狂ってしまう。 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、 午前6時30分にかけた目覚ましが鳴る。 ピピ。 だいたいいつもこのあたりで目覚ましを止める。お気に入りのスモーキーピンク色の太縁のメガネをかけて、起き上がる

          #1 早寝は三文の徳