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#10 おめめがお月様みたいになるの


世間より少し早めの夏休み。
母のいる実家に帰った。


穏やかな昼過ぎのこと。
ソファーでくつろぎタイムを過ごしていた私の膝にぽん、と優しく置かれたのは、ミッフィーちゃんが表紙に描かれたアルバムらしきもの。開くとそれは母がつけた私の育児日誌だった。

そこには、私が生まれたときから5歳までの日々のささやかな出来事と母の思いが、万年筆の青いインクで母の丁寧な字で綴られていた。

まめにつけられていたその日記で母は私の名前を何度も何度も呼びかけ、「かわいい、かわいい」と言葉を残してくれていた。
私の成長を嬉しく思ってくれていたことが手に取るようにわかる日記だった。


私が初めて笑った日。

「おめめがお月様みたいになるの」

なんて慈しみがたっぷり込められた言葉だろう。これを書いたときの母が、うふふっと柔らかにほほ笑んでいる顔が浮かんだ。

私は母のこの日誌が大好きになった。


私がまだ記憶のない頃に母が私にくれた言葉を、20数年越しに受け取った。深い深い母の愛とそれを直に受けていた私を知った。愛されて生まれてきたことは(とても恵まれていることに)ちゃんと自覚して今まで生きてきたけれど、こんなにも溢れるほどに母が私の全てを愛おしく思ってくれていたことを知った。
嬉しかった。涙がぽろぽろして、拭ってもすぐにまたぽろぽろした。

普段生きていると家族であることが日常すぎて愛を見過ごしてしまうのはどうして、と思った。


母は私のお母さんだった。
知っていたつもりだった。母は私が知っていたよりももっともっと大きくて、深くて、あたたかくて、流動的な力に満ちていて、お母さんだった。
私のお母さんが母でよかった。
ほかのどんな母親よりも私の母が一番だもの。


母は私に愛を教えてくれた。
ありがとう。ありがとう。ありがとう。


いつか、私も誰かを慈しむことを知りますか。


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