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PMFしていないプロダクトをPMFさせるためのヒント

何回かにわたって、「スタートアップや大企業の新規事業がPMFするために必要なこと」について解説しています。

こちらのマガジンにまとめていますので、よかったら読んでみてください。

PMFとは、“市場からプロダクトが受け入れられている状態”のことです。

PMFできていれば、プレスリリースを打つだけでお客さんからの問い合わせがたくさん来たり、営業が売りにいくと短期間で受注できたり、若手の営業でもどんどん売れたりします。そこにマーケティング予算を投じると、さらに売上が伸びる。そんな正しいサイクルに入った状態です。

それでは、逆にPMFできていないとどうなるか。

PMFしていないときの苦境

まず、売れません。商談はあるけれど成約に至らないという状態です。リードはマーケティング費用をかければ取れるけど決まらない。これは興味は引けても、実際の購買につながっていないということです。

あるいは受注数は伸びているけれど、解約率が高いというパターンもあります。お客さんが一度は興味を持って契約してくれたものの、長続きしないということです。

そして、営業に売るためのトレーニングをしても全然売れないというのもPMFしていないシグナルの1つです。いくら営業スキルを磨いても、プロダクトそのものに魅力がなければ売れないわけです。

さらに、プレスリリースを配信しても反響がない、広告予算を投じても何も起きない。それもPMFしていない状態をはっきりと示しています。魅力がないし、ニーズがないから、見込み客からの関心を引き付けられないのです。

僅かな導入企業がいたとしても、なかなか事例インタビューが決まらないというのも要注意です。お客さんが自社のプロダクトやサービスを使って大きく成功した事例がないということは、価値提供ができていないことの表れです。

このあたりは最初の記事で述べた「PMFしているときのシグナル」の真逆ですね。

あと結構あるのが、競合と比べて自社のプロダクトが選ばれるべき理由がだれも説明できないというケースです。

私も営業トレーニングするときにもよく聞きます。「A社、B社と3社競合となったときに、御社の勝ち筋はどこにありますか」。この質問にすぐに答えられないというケースは往々にしてあります。

自社の強みや独自性が明確でないとPMFはできません。そうすると事業の継続性が見込めない。事業の転換、あるいは発想の転換が必要になります。

PMFしていないものをPMFさせるには

ではPMFしていないプロダクトをPMFさせるにはどうするか。プロダクトの機能を改善したり、事業そのものをピボットしたりすることももちろんありますが、その前にターゲットや売り方を変えることを考えてみましょう。

まったく同じプロダクトでも、訴求の仕方で売れるケースと売れないケースがあります。つまり、プロダクトそのものだけでなく、マーケティングや営業のアプローチも重要になってきます。

典型的な例として、とある「ハサミ」の話があります。これはPMFの事例としてめちゃくちゃおもしろいです。一般消費者向けの事例ですが、まったく同じハサミが訴求を変えただけで売り上げが3万本から100万本にまで伸びました。まさに驚異的な成長です。

どんなハサミかというと、最初は「海苔切りばさみ」として販売された商品でした。A4用紙くらいの大きさの海苔を、食べやすい大きさに切るための専用ハサミです。

1枚の海苔にハサミを入れるだけで、海苔を細かく均等に千切りにできる。お蕎麦やサラダに振りかけるときはとても便利ですよね。

でも、海苔を切るだけではマーケットが狭い。当初はスーパーや量販店の主に台所用品の売り場に置かれていました。

ところが、ある日そのメーカーの社員が、消費者がこの海苔切りばさみでシュレッダーのように紙を切っているという声を耳にしたんです。

これはおもしろい発見です。当時は個人情報保護への関心が高まっていた時期だったので、「シュレッダーを買うほどじゃないけど、個人情報を含む書類はしっかりと処理したい」というニーズがありました。

ここに「海苔切りばさみ」の新しい市場の可能性を見出したわけです。

メーカーはさっそく、海苔切りばさみに違う名称とパッケージを与えて、「シュレッダー用のハサミ」として売り出しました。それまでは台所用品やキッチン用品売り場に置いていたのを、文房具売り場で販売したのです。

これは単なる販売場所の変更ではなく、ターゲットの変更を意味します。その結果、なんと海苔切りばさみだった時は3万本しか売れなかったハサミが、シュレッダー用のハサミとして売ったら100万本の大ヒットになりました。

これはまさにターゲットと用途、売り方を変更してPMFを達成した瞬間と言えるでしょう。

つまり、PMFというのは単純に機能だけの問題じゃないんです。売り方も含めて考える余地があります。

プロダクトの機能や品質を向上させることも大切ですが、それと同じくらい、どのように顧客に価値を伝えるか、どのような文脈で製品を提示するかも重要です。

だれでもPMFに貢献できる。

私自身の経験でも、同じようなことがありました。メルペイ事業の立ち上げを担当していたときのことです。

最初は店舗をまわって、「メルペイという決済をお店で使ってくれませんか」という営業をしていたんですが、ほぼ門前払いだったんです。新しい決済システムを導入することへの抵抗感が強かったんでしょう。

それを「メルカリの売り上げ金があなたのお店でも使われるようになります」という訴求に変えました。これは単なる言い方の変更ではなく、店舗側のメリットを明確に示す方法への転換です。

そうしたら、前までは全然門前払いだったのが、だんだんと話を聞いてもらえるようになり、最終的にメルペイを導入してもらえることが増えてきました。店舗側にとっては、メルカリユーザーという、大規模な新規顧客を獲得できる可能性を想像できたわけですね。

商品はまったく一緒ですが、伝え方を変えただけで結果が大きく変わりました。

だから、たった1人の営業であってもPMFに貢献できるんです。

PMFは新規事業部門だけの課題ではありません。営業、マーケティング、カスタマーサポートなど、顧客と接点を持つすべての部門が解決のきっかけになり得る課題なんです。

さきほどのハサミの例で言えば、ターゲットと用途を変える判断に至ったきっかけは、ユーザーの声でした。それを的確にキャッチして、すくい上げたのはカスタマーサポートやマーケティングの部署のメンバーだったかもしれません。

それによって最後は単なる用途の変更ではなく、まったく新しい市場への参入がなされました。

これはすごく勇気を持てる事例だと思います。新しいプロダクトを開発しなくても、既存のリソースを活用して大きな成果を上げられる可能性があるからです。

一般的に、新しい商品とか斬新な商品じゃないと売れない、事業が伸びないと思われがちですが、それだけではありません。

狙うターゲットと用途を少しずらすことでPMFの可否が変わってきます。イノベーションは必ずしも新しい技術や製品を必要としないということです。

ハサミの例やメルペイの例が示すように、ときには小さな変更が大きな結果をもたらすことがあります。新規事業を立ち上げるのは実際にはかなり難しいですが、常に柔軟な思考を持ち、新しいアイデアを試す勇気を持つことが、PMF達成への近道となるでしょう。


「スタートアップや大企業の新規事業がPMFするために必要なこと」を書いていく連載。シリーズ第3回は“PMFしていないものをPMFさせるためのヒント"について解説しました。

次回は「新規事業のニーズを探る・検証する方法について」です。よかったらnoteをフォローしてお待ちください。

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