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港の贅沢なカフェ

変わらない日常

結局、日常はどこへいっても変わらない。移住しようと、どこへ行こうと、お母さんであることを放棄しない限り、私の生活は変わらないのだ。

移り住む前から私はどこか冷めた感覚で現実を見つめていた。

引越しをして住む家と場所が変わり、周りの環境は変わったけれど、毎日の家事育児は待ったナシに続く。

当たり前のルーチンワークをただ淡々と積み重ねていくわけだが、さあやろうと取りかかるその瞬間に、子供達から寄せられる要望や兄弟喧嘩、トラブルが相次いで起こる。そうした数々の妨害に振り回されるのも同じく待ったナシだ。

地味にh.p.を削られながら動く。ここ数年、それが私の生活だった。

実際にこの島へ越してきても、やはりその思いも現実もさほど変わりは無いように思えた。

やっぱりな…。

そんなことを頭の中でぐるぐる思いながら、今朝も散り散りに動くと収集のつかない子供達をどうにか保育園へ送り届け、車を停めた駐車場に戻る。

海を眺めに

ひと息ついてふと、思い立ってそのまま車を港へ走らせた。

この日はとても天気がよく、海の向こう側に広がる景色もくっきりとして見えた。

車を降りて船着場から少し離れた防波堤に腰をおろす。

しばらくただ、ぼーっとする。
海を眺めながら、ただぼけーっと。

喉が渇いたら近くのコンビニへ。お気に入りの飲物を買ってまたしばし海を眺めながらいただく。

青く穏やかでどこまでも続く海。

「少し休んでから行きなよ。」

そう言われた気がした。

港に広がる自然

港には、都会にいた頃には考えられない程の雄大で豊かな自然が広がっている。目の前は穏やかで美しい瀬戸内の海、見上げればどこまでも果てしなく広く続く空、後ろを振り返ればまた山々の緑深い自然が目に飛び込んでくる。

…なんて贅沢なんだろう。

街中のお高いカフェなんか行くよりよっぽど癒されるしリフレッシュできる。何より安上がりだし!

最高の贅沢がここに

鶯や鳶の声を聴きながら、キラキラと輝く水面を見つめて気付けば30分以上経っていた。

そうか。

違っていた。

私は認識を改めた。

何も変わってなんかいないと思っていたのは私の心持ちだけだった。

この豊かな自然の中にただ身を寄せるだけで、生き返る。エネルギーを貰える。リフレッシュできる。

島に移住してきて知ったのは、この自然溢れる港からの眺め。これこそまさに最高の贅沢だ。

この景色を当たり前だと思ってしまったらバチが当たる。そんな気さえする。

港の贅沢なカフェはこんなにも近く、すぐそばにあったのだ。


2018/05/18 Sunao

※このショートストーリーは、実在する場所を題材にしたフィクションです。

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