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#43「楽観性」を育む - ポジティブ心理学 -

ここでは、ポジティブ心理学の「楽観性」の育て方について、一緒に学んでいきたいと思います。前回の記事では「楽観性」とは何かを一緒にみてきました。

「楽観性」は「なんとかなるさ」と前向きに考えようとか「コップの水がまだ半分も入っている」とポジティブに捉えようというものではなく、ネガティブな出来事が起きたとき、その原因を「一時的なもの・その部分だけ・環境要因もある」と説明することだというお話でした。今回の記事では、ネガティブな出来事によって落ち込んだとき、すぐに立ち直ることができるように「楽観性」をどのように育むことができるのかについて、一緒に学んでいきたいと思います。


「思考 - 感情 - 行動」は密接に結びついている

まず、いきなり「楽観性」の育て方に入る前に、前提となる土台のお話からしていきたいと思います。それは「思考 - 感情 - 行動」は密接に関わっているというお話です。例えば、「頑張って勉強したのにテストの点数が悪かった」というネガティブな出来事が起きたとき、「感情」は「落ち込み」ますよね。そして、落ち込んだら、机に向かわず、ベッドに寝転がるという「行動」をとるかもしれません。また、なんで落ち込んでいるのかを考えると、「だって、あんなに頑張ったのにテストの点数が悪かったってことは、どうせ自分は馬鹿にちがいない」と思っているかもしれません。確かに「どうせ自分は馬鹿にちがいない」と考えると、気持ちも落ち込んでいきますよね。このように、「思考」は「感情」に影響を与え、「感情」は「行動」に影響を与えています。(厳密には「行動」を変えることで「感情」が変わったり、「感情」が変わることで「思考」が変わることもあるんで、矢印は両方向に向いています)

「思考」と「感情」と「行動」は密接に繋がっている

このことを大前提として知っていると、気持ちが落ち込んでいるとき、どんな「思考」を持っているから、その「感情」が湧いてきているのかを探ることができます。「なんで落ち込んでいるのか(感情) → どうせ自分は馬鹿だと思っているから(思考)」みたいな感じですね。

「状況 - 感情 - 思考」で整理する

そのため、落ち込んだとき、まずは「状況 - 感情 - 思 考」の形で整理してみることをお勧めします。こんな感じです ↓

【状況】
 ↓ ← どんな気持ち?
【感情】
 ↓ ← なんで、そう感じたの?
【思考】だって・・・

ちょっと具体例で見てみましょう。

(例)
【状況】頑張ったのにテストの点が悪かった

 ↓ ← どんな気持ち?
【感情】落ち込み
 ↓ ← なんで、そう感じたの?
【思考】だって、自分は馬鹿だと思ったから

こんな感じです。ここまでオッケーですか?

自分の「思考」の説明スタイルをチェックする

ここからがいよいよ「楽観性」の育て方になるですが、上述のように整理した後、最後の自分の「思考」に注目してみてください。そして、自分の「思考」が前回の記事でみた悲観的な説明スタイルになっていないかを確認していきます。

ネガティブな出来事が起きた原因は、、、

  1. ずっと続く or  一時的 ?

  2. 全体に影響が及んでいる or  部分だけに限定されている?

  3. 自分のせい or 環境要因?

上の例だと、「だって自分は馬鹿だと思ったから」とあります。少なくとも、「数学」だけが悪かったのに「”自分” は馬鹿だ」と「全体」で説明し、環境を考慮せずに「自分のせい」にしてしまっています。結構、「思考」は自動的に湧いてきちゃうので、まずは自分の思考、そして、悲観的な説明スタイルに気づくことが重要です。そして、その説明スタイルに気づいたら、頭の中で「果たして、それってホント?」と自分自身に聞いてみて、現実に即しながら、変えられる説明スタイルがあれば、楽観的な説明スタイル(一時的・この部分だけ・環境要因もある)に変えていきましょう。(説明スタイルに関しての詳細は、前回の記事をご覧ください!)

例えば、上の例の場合、「あっ、いかんいかん、“全体“ に広がっちゃって、“自分は馬鹿だ“ と説明しちゃってたな。“数学のこの分野だけ” が出来なかったんだ」みたいな感じですね。

そして、その説明スタイルに変えてみた後、どんな気持ちになるのかも確認してみてください。「少し気持ちが落ち着いた」「落ち込みレベルは少しマシになった」みたいな感じで、ちょっとした気持ちの変化に気づくと思います。これ、「楽観性」を育てる練習として、めちゃくちゃ役立ちますんで、できれば、ぜひ紙に書き出してやってください!(こんな感じ ↓)

【状況】
  ← どんな気持ち?
【感情】
  ← なんで、そう感じたの?
【思考】だって・・・
  ← 果たして、それってホント?
【議論】あっ、いかんいかん・・・
  
【最終的な感情】

この一連の流れを「ABCDEモデル」と呼び、実際に「楽観性」が育まれること、それに伴い、折れない心(レジリエンス)が養われることが実証されており、米国の軍隊を始め、様々なレジリエンス・トレーニングの一環として活用されています。

肉体だけでなく、精神もマッチョに

皆さんも、ちょっとここで練習してみましょう。最近あったネガティブな出来事を思い出してみてください。筋トレと同じように、まずは、軽いものから練習していきましょう。

【状況】
 ↓ ← どんな気持ち?
【感情】
 ↓ ← なんで、そう感じたの?
【思考】だって・・・
 ↓ ← 果たして、それってホント?
【議論】あっ、いかんいかん・・・
 ↓
【最終的な感情/行動】

「議論」の切り口は「事実か?」と「役立つか?」

ここまで、「楽観性」を育てるために、①自分の「状況 - 感情 - 思考」を整理し、②「思考」の説明スタイルを確認し、③楽観的な説明スタイル(一時的・この部分だけ・環境要因もある)に変えられるものは変えて説明し直していく、という内容でした。

これで全て対応できればいいんですが、状況によっては「悲観的な説明スタイルから楽観的な説明スタイルになかなか変えることができない」というケースもあると思います。そんな時は「果たして、それってホント?」以外に、ぜひ、「この”思考” を持ち続けることって、役に立っている?」と、その有用性について自分自身に聞いてみてください。

(例)「自分は馬鹿だ」って考えること、自分に役立っている?

もし、役立っているのであれば、そのまま、その「思考」を持ち続けた方がいいと思いますし、もし役に立っていないんだったら、その「思考」を「手放す」という選択肢も出てくると思います。持ち続けてもいいし、手放してもいい。このように選択肢があることは、特定の「思考」に固執せずに、手放しやすくさせてくれます。そのため、ぜひ、「状況 - 感情 - 思考」を整理したあと、以下の2点を自分自身に伺ってみてください。きっと、落ち込んだとき、戻ってきやすくなるキッカケを作ってくれると思います。

1. 果たして、それってホント?(事実を確認)
2. その考えって、役立ってる?(有用性を確認)

さて、ここまで「楽観性」の育て方(悲観的な説明スタイルに気づき、楽観的な説明スタイルで説明し直す)について、一緒にみてきました。これまで慣れ親しんだ説明スタイルを無理矢理変えようとするのではなく、ぜひ、現実を丁寧にみながら、上述の2つの質問を大切にしてみてください!次回は、セルフ・コンパッションという概念を学び、他の方法での立ち直り方について、一緒にみていきたいと思います。(つづく)

【参考文献】
Reivich, K. J., Seligman, M. E. P., & McBride, S. (2011). Master resilience training in the U.S. Army. American Psychologist, 66(1), 25–34.

Seligman, M. E., & Schulman, P. (1986). Explanatory style as a predictor of productivity and quitting among life insurance sales agents. Journal of Personality and Social Psychology, 50(4), 832–838.

Seligman, M. E. P. (2006). Learned optimism: How to change your mind and your life. Vintage.

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