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#32「褒めること」は良いこと? - 解決志向アプローチ -

ここでは、「解決志向アプローチ」の考え方について、一緒に学んでいきたいと思います。前回の記事では、「人間はできたことをすぐに当たり前にしてしまうため、”過去の自分”  から ”今の自分” を見て、成長や進歩をちゃんと実感することが大事だ」ということを一緒にみてきました。

特に、子育てや部下育成など、人を育てる立場の人は、相手の「こころのガソリン」を満たしながら関わっていくことが大切なので、相手ができるようになったことを「当たり前」にせず、しっかり成長度合いを振り返りながら対話をしていきたいというお話でした。ここでは「こころのガソリン」の満たすための他の方法として、「褒めること」について、一緒に学んでいきたいと思います。


「褒めること」は良いこと?

人を育てる上において、「褒めること」は良いか悪いかという論争(?)がなされることがあります。「とにかくシャワーを浴びせるように褒め言葉(コンプリメント)をいっぱいかけてあげましょう」という専門家もいれば、褒めると相手は「もっと褒められたい」と依存するようになり、自律性を蝕んでしまうため、褒めてはいけないと言うアドラー心理学の専門家たちもいます。このように色んな人が真逆のことを言っているので、何が正解なのか分からなくなっちゃいますよね。

皆さんは、「褒めること」って良いことだと思いますか?

「自分にパワーがある」と思えるかどうか?

ポジティブ心理学や解決志向アプローチを基にした面談では、ポジティブな感情を大事にするため、相手を褒めたり、承認しながら話を進めていきます。そのため、「褒めること」に関して肯定的なんですが、個人的に「褒めることが良いか、悪いか」は本質的なポイントではなく、褒める側と褒められる側の間で、「パワー(力)」がどこにあるのかがポイントになると考えています。

例えば、アドラー心理学をはじめ、「褒めること」を否定する人たちの多くは「褒める側にパワーがある」と考えています。そのため、「偉いね」などの「褒める」という行為はパワーがある人が無い人に対する評価になるので、褒めることはいけない。むしろ、「ありがとう」「助かったよ」などの感謝の言葉をたくさんかけて、「貢献感」を感じられるにしようと推奨しています。「自分も他者に何かを与えられるほど、価値(パワー)があるんだ」と思えるようになるからだという論理です。つまり、何が言いたいかというと、要は褒められる方がパワーをもつ言葉、つまり、エンパワーする言葉であれば、なんでもいいんです。感謝の言葉でも褒める言葉でも、相手(褒められる方)が「自分にパワーがある」と思えるかどうかがポイントだと思うんです。

相手が「自分にはパワーがあるんだ」と思える言葉かどうかが大事

どちらにパワーがあるか?

そのため、自分の発する言葉が、褒める側と褒められる側のどちらにパワーがあるかを見極めることが重要です。こちら、少し練習してみましょう。以下の言葉は、褒める側と褒められる側のどちらにパワーがあると思いますか?


  1. お片付けして偉いね!

  2. お片付けてくれたんだね、助かったよ!

  3. お片付けしてくれて、ありがとう!お菓子買ってあげるね!

  4. 君には、失敗してもそこから学べる力があるよね。

  5. それ、どうやって知ったの?へ~、自分で考えたんだ!

  6. それ、どうやったの?へ~、そうやったんだね!

  7. わあ~、すごい!(そんなことできないと思っていたけど、できるんだ)

  8. わあ~、すごい!(自分にはそんなことできないよ!)


いかがでしょうか? どちらにパワーがあるでしょうか?

こちら、僕の見解を書いてみます。


  1. お片付けして偉いね!【褒める側】

  2. お片付けてくれたんだね、助かったよ!【褒められる側】

  3. お片付けしてくれて、ありがとう!お菓子買ってあげるね!【微妙】

  4. 君には、失敗してもそこから学べる力があるよね。【褒められる側】

  5. それ、どうやって知ったの?へ~、自分で考えたんだ!【褒められる側】

  6. それ、どうやったの?へ~、そうやったんだね!【褒められる側】

  7. わあ~、すごい!(そんなことできないと思っていたけど、できるんだ)【褒める側】

  8. わあ~、すごい!(自分にはそんなことできないよ!)【褒められる側】


いかがでしょうか?1と2は、これまでの話から問題ないと思うんですが、「3. お片付けしてくれて、ありがとう!お菓子買ってあげるね!」とか、微妙ですよね。感謝の言葉だけど、「それをしてくれたから、これをあげよう」って、結局、褒める方にパワーがあるままですよね。一方、「4.君には、失敗してもそこから学べる力があるよね」は、褒める言葉ですが、相手の強みに目を向けているため、「自分にも、こんな力があるんだ」とエンパワーしています。4と5も、「へ~、自分で考えて、そうやったんだ!」と褒めていますが、相手は「自分で考える力(パワー)があるんだ」と実感しています。最後の「わあ~、すごい!」なんか面白いですよね。同じ言葉なのに、褒める側がどういう意図で言ったかによって、パワーが変わります。

このように、「相手をエンパワーしているか?」という点で見てみると、一概に、褒めることが良い、感謝することが良いとは言えませんよね。それよりも、自分の発する言葉は、相手が「自分にも力(パワー)があるんだ」と思える言葉かどうかを判断基準にされた方が、「こころのガソリン」を満たす素晴らしい声がけになるんじゃないかなと思います。今、子育てや部下育成など、誰かを育てる役割にいる方は、ぜひ、このポイントを心がけて、試してみてください。そして、それをすることでどんな違いが生まれるかも観察してみてください!

さて、ここでは、相手を「褒めること」の良し悪しについて、一緒にみてきました。次回の記事では、このことを踏まえた上で、僕がお勧めする具体的な「褒め方」のコツについてお話できればと思います。(つづく)

【参考文献】
De Jong, P. and Berg, I. K. (2012). Interviewing for Solutions. 4nd Edition, Brooks Cole, Pacific Grove, CA, 152.

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