#クリエイターフェス
なぜクトーニアンを殺さなかったのか
リングの中央で、半裸の男が2人、がっちりと組み合っている。
したたる汗と血が、マットの上に、大きな血だまりを作っている。
観客はいない。
否、いなくなっている。
打ち捨てられた鞄、片方だけの靴、踏みつけにされた新聞……それらの痕跡が、ここに超満員の観客がいたことを物語っている。
今は、誰もいない。
がらんとした会場に、男たちの荒い息遣いと、リングの軋む音が、惨憺として響いている。
「迦陵頻伽(かりょうびんが)の仔は西へ」
身の丈七尺の大柄。左肩の上には塵避けの外套を纏った少女。入唐後の二年半で良嗣が集めた衆目は数知れず、今も四人の男の視線を浴びている。
左肩でオトが呟いた。
「別に辞めなくたって」
二人は商隊と共に砂漠を征き、西域を目指していた。昨晩オトの寝具を捲った商人に、良嗣が鉄拳を振るうまでは。
「奴らは信用できん」
「割符はどうすんの」
陽関の関所を通る術が無ければ、敦煌からの──否、海をも越えた
『カバリとジャンには、夜がお似合い』
彼の敵前逃亡は、小隊の運命には何の影響も与えなかった。路地の奥で殺された人数が、ただ七から六に減っただけだ。だがその夜は彼を、永遠に変えてしまった。
路地を、まるで連なる川獺のように小隊は進んだ。最後尾の彼だけが、分かれ道の手前で立ち止まった。兵士たちは低い姿勢のまま暗がりへ消えてゆく。おれは捨石の、囮役を引き受けたのだという言い訳を彼は考えた。自分一人だけなら逃げられる可能性がある。彼には
アノン・マキナは死んでいる
アノン・マキナの幻影を、今も戦場に見る。
――壊滅状態の部隊で弾倉に弾を詰め込めば、想起されるは、嘗て戦場を流れた長い銀髪。
二丁拳銃で敵の頭に一撃必殺。容赦無く慈悲深い戦乙女の姿。
だが彼女はもう居ない。
俺が強ければ、或いは……そこで歯を食い縛る。『泣くな。涙は照準がぼやけて悪い』という死に際の教えを守る為――。
「突撃用意!」
大尉の声が響く。既に右腕と左手指が無い彼の、喉
ドラゴンアンドデートドラッグ
「ヤバい」
わたしが復唱するとボスは首を振る。そうじゃねえ、今回ばかりはマジでヤバいんだ。何かに乗り上げて軽自動車が宙を跳んだ。がくん。着地の衝撃。車はガタガタの道をかっ飛んでいる。
「市街地にドラゴンが出た。それはいい。俺の責任じゃねえ。クスリ積んだトラックが検問に引っかかった。それもいい。織込み済みだ。ゲートのポリ公にいくらか握らせればいい。必要経費だ。全然ヤバくない。おいミンミン!行先