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マーケティング戦略から入るプランニングは何が具体的に違うのか?

マーケティング組織が会社の中でひとつの目的を達成するために戦略的に売れる仕組みを実装することが最近は求められているということを前に解説しました。従来マーケティング組織が実施していたプランニングと何が違うのか具体的に知りたいという声をいくつか頂きましたので、今回はその詳細について紐解いていきます。

尚、前提として富士通のようにマーケッターが数十人以上いる、割と大きめの組織を想定しています。マーケッターが少ない場合は同じ人が複数のことをこなしているため、その人が複数の施策連携をきちんと考えられるかにかかっています。

前回記事:

従来から行われていたマーケティングプランニングの場合

今回の想定では、マーケティング部門は管理部、広告宣伝部、イベント部、デジタルマーケティング部、インサイドセールス部の5つの部門から成っているとします。

期初に各部門で行われているプランニングの様子を覗いてみましょう。

  1. 広告宣伝部: 普段お付き合いをしている代理店から新聞の広告枠を格安で貰ったので5,000万円の予算を申請。社内で広告掲載希望を募ったところ、会社の主力賞商品Aを持っている製品部門と新商品Bを持っている部門が手を挙げたので話し合いの結果、今回はまだ社内で力がない商品Bの声が小さかったので商品Aの露出を行うことにした。去年よりも露出効果を高くできそうで、広告宣伝部としてのインプレッションのKPIは達成できる見込みである。

  2. イベント部: 9月に行う年次イベントは毎年3,000人を集めているため、今年も同様に実施すべく、予算5,000万円を申請。今年は前年よりも人数を少し増やして3,300人を集客目標にした。社長のキーノートと、毎年行っているブレイクアウトセッション10個、懇親会を実施。営業にはお客様の頭数を集めてきてもらうように依頼。セッションの品質もとても高く去年に比べて評判がいいものに仕上がりそうである。

  3. デジタルマーケティング部: 商品A、商品B、商品C、商品Dの4つに対して、作成されている会社のWebページからのデジタルキャンペーンの誘導、セミナー、社外イベントを実施。それぞれの担当者が1人ずつ割り振られているため、公平性を期すためにそれぞれに均等に予算を配分するため4,000万円の予算を申請。それぞれの担当者が独自のノウハウでマーケティングファネルを構成、Webページやセミナー、イベントを実施後に製品にあった独自のアンケートを取得、CRMに登録するところまでを実施。目標はそれぞれ5~20%の範囲でセミナー集客数を増やしてより多くのアンケートを取得できるように工夫している。

  4. インサイドセールス部: 部長が出身部門でよく知っており、かつコンバージョン率が高くて成果が主張しやすい商品Cを中心に部員をトレーニングして売上を稼ぐ戦略で売上計画を作成。今年度は10%の売上増加を見込み、予算も10%多い3,300万円を申請。

これらを見て、読者の皆様はどう感じたでしょうか?特に違和感なく「普段こうやっているよね~」と思われたでしょうか?

従来型プランニングの課題

前のセクションの其々の部門は、それぞれの部門としては目標を高く持って頑張って施策を計画、実行しようとしているように見えます。各部の部長の目線で見れば、それでいいかもしれません。

マーケティング本部長から見たときにはどうでしょうか?本部長によっては、それぞれの部門で前年よりも高い目標を立てて頑張ってくれているので、それで良しとする人もいるかもしれません。しかし、なんかやっていることがバラバラなように見えませんか?

そしてマーケティング部門の外にいる営業部門や製品部門から見るとどうでしょう?「なんかマーケの人はそれぞれの部門で好きなことをやっているけど、結局部門全体として売上にどう貢献してくれるのかよくわからないよね」という感想になってしまうことが多いでしょう。KPIや動き方がバラバラなだけでなく、全体として何を達成したくて、また肝心の売上に対してどう貢献したいのかという意思が見えてきません。つまり全体としての戦略がなく、かつ会社としての売上目標への貢献が不明です。これは、多くの会社のマーケティング部門が営業や製品部門からよく受けているフィードバックです。

マーケティング戦略から実施しているマーケティングプランニングの場合

それでは、マーケティング戦略から実行しているマーケティング組織では、どのように動き方が違ってくるのか、見てみましょう。

おさらいですが、マーケティング戦略から実施する場合、従来から行っていた以下の図の右側の「タクティクス」の計画と実行の前に、左側の「戦略作成」のプランニングを行います。

マーケティング戦略の作成と実行機能の全体像
マーケティング戦略の作成と実行機能の全体像

そしてこれを行うには専門のチームが必要になります。「マーケティング戦略部」と名付けて並列に置くことにします。マーケティング戦略部には、市場全体のプランをする担当、主要な製品の担当者を置きます。その他にテクノロジーや業種、顧客セグメントなど、会社が重要だと考えている単位ごとに担当を置くこともあります。マーケティング戦略部では、まず以下のようなことをプランします。

  • 新年度が始まる半年前から次年度のプラン作成を開始します。各戦略担当は、市場全体の分析、各製品のSTP分析、競合分析などを行っておきます。そして、製品A、B、C、Dはそれぞれどれくらい伸びそうなのか、どの地域のどの顧客セグメントを狙えばいいのか、競合と比べてどういうポジショニングでどういうメッセージを出せばいいのか、自社が足りない製品やサービスは何か、足りないとするといつまでに用意できそうか、それまではどうするか、などを計画します。

  • マーケティング組織としてのビジョンを定義します。そして次年度は何に重きを置くのか、主力商品Aのさらなる拡販なのか、新商品Bの立ち上げなのか、それぞれにどれくらいの力を割くのか、といったことを、前述の分析を元に組織全体の目標として定義します。

  • 作成したビジョンと目標を元に、マーケティング組織としての経営へのコミットメント (売上貢献等)を定義します。たとえば製品A、B、Cの売上の20%はマーケティングからの貢献を行う、その他にも新商品Bは新規顧客を50獲得して事例を作成する、など。そして、これらはマーケティング組織の「スコアカード」として経営との間で合意の上定義され、成果が追跡されます。スコアカードには売上に直結する財務目標と、事例作成や顧客満足度向上などの非財務目標が含まれます。また、組織のビジョンや目標を達成するために年初に向けて組織変更が行われることがあります。

  • 会社が重要と考える単位 (業種や製品群のこともある) に従って「マーケティングプログラム」を作成しておきます。マーケティングプログラムには、その領域の市場分析、STP分析等を踏まえたその領域での「戦い方」とそれを達成するために望ましいタクティクスとその資源配分を記載します。

  • 年度が明けて新組織の実行体制になったら、マーケティング戦略部は、宣伝広告部、イベント部、デジタルマーケティング部、インサイドセールス部とプランを開始します。マーケティングプログラムに従って資源配分をして、各部とタクティクスの実施方法の詳細について合意、資源配分を実施します。マーケティング戦略部側の当初の想定と実行部側の思惑がずれることもあるため、この段階でそれが調整されます。

統一された「優先度」と「戦い方」に従った施策実行

今回は、主力商品Aはマーケティングではあまり注力せずに営業に任せ、新製品Bの新規顧客獲得に注力、かつ業種別の課題ベースでCxOへの訴求が戦い方としては鍵となるため既存顧客もCxOに注力するという方針を定めたとします。

この結果、前のセクションの実際の各部におけるタクティクスがどう変わったかを見てみましょう。

  1. 広告宣伝部: 商品Bは新聞でのリーチには適さないので新聞へは広告を出さずに、商品Bに適したデジタル上での広告に100%広告費を割り当てることにした。商品Bを直接露出するのではなく、「戦い方」に従って業種における課題ベースの広告で露出することにした。予算は半分に削減した。あわせてデジタルマーケティング部が実施するオンラインセミナーにオンライン広告から誘導できるようにターゲットを合わせて、かつ導線を確保した。

  2. イベント部: 9月に行う年次イベントは既存顧客へのリーチがメインであったが、方針が新製品Bの新規顧客獲得なので、このイベントは営業の重点顧客とのリレーション強化のイベントとして位置づけを変更。集客人数は500人に変更し、その代わり「戦い方」に従ってCxOクラスに限定して集客することにした。予算は2,000万円に削減した。また、このイベントからデジタルマーケティング部が行うオンラインセミナーにコンテンツがつながるようにして誘導施策も入れるようにした。

  3. デジタルマーケティング部: 商品A、商品C、商品Dは前年比10%減の予算で前年並みの結果を出せば良いという目標を設定。新商品Bは力を入れて新規顧客を集める必要があるため、予算を2倍にしてすべてのセミナー、イベントで商品Bを露出するように変更。単一のマーケティングファネル、アンケートにして商品Bについてすべての場合でニーズを追跡できるようにした。

  4. インサイドセールス部: 商品Bにフォーカスして新規顧客へのアプローチに変更。コンバージョン率は必ずしも良くないが、ゼロからノウハウを蓄積して改善活動をしたり、「戦い方」に従って業種トークを入れて複数の商品にフックできるようにしたりすることで全体の売上を確保できるようにした。デジタルマーケティング部のKPIと連携してインサイドセールス部へのハンドオフの仕方を協議することにした。

いかがでしょうか。部門毎に見ると前年よりも予算やKPIの実績が落ちるところもありますが、全体として同じ向きを向いて横連携しているように見えるだけでなく、売上貢献もスコアカードで明確になります。

また、各部でタクティクスをプランするだけの場合に比べて、前年度の下準備にかなり手間と時間がかかっていることが分かります。

"バリューオーケストレーション"機能と資源配分権限の集中

マーケティング戦略から実施する場合に中核となってくるのが「マーケティング戦略部」でした。この部門はマーケティング部門内の各部門だけでなく、各担当が営業部門や製品部門とも連携して、会社としての最適な戦略を作成して関係者と合意する、つまり「バリューオーケストレーション」を行うことが求められます。

そして、この部門が成功するためには、オーケストラにおける指揮者のように、全体を動かし統制する強い権限が必要になります。富士通の場合もそうですが、大抵の日本企業の場合、施策実行のための予算や目標設定は現場の部門が握っていてだいたい前年並み、もしくは少し効率化するように設定されます。しかし、それではマーケティング部門全体、さらには会社全体として活動が最適化されません。「マーケティング戦略部門」はマーケティングの長であるCMOや本部長の権限の下、この原則を壊してトップダウンで目標設定と資源配分を行うことが求められます。

そうは言っても、言って見るは易し、実際に行動変容をするには結構時間がかかります。最終的にはどのくらいの権限でどこまで中央集権にしてどこまでを現場に任せるかは試行錯誤の上の決定になります。そして、会社のビジネス環境にあったオペレーションを早く確立することが、マーケティング組織として、さらには会社全体として求められます。

最後までお読み頂きありがとうございました。それでは、また!

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