【企業インタビュー】「人材版・ふるさと納税」地方企業が大都市の企業に勝つには
地方企業にとって、人材不足は深刻な問題です。
特に企画やマーケティングなどの人材は東京など都市に集中しがちなため、地方での採用が難しいという切実な事情があります。
こうした人材不足・スキル不足という課題を都市部の副業人材活用で解決したのが、鹿児島県鹿屋市にある株式会社オキス。オキス社は地元鹿児島県で農産物を生産し、「水だしごぼう茶」など乾燥野菜の加工や販売・流通までを手掛けています。
オキス社では地方企業と都市部の副業人材をマッチングするサービス「Skill Shift(スキルシフト)」を利用して、営業戦略やデジタルマーケティングで副業人材を活用しました(※スキルシフト:株式会社みらいワークスが運営するサービス)。その結果、売上は前年比120%アップという大きな成果につながったそうです。
そこで地方企業が副業人材を活用して成功する秘訣について、株式会社オキスの代表取締役である岡本孝志さんと、代表のご子息であり「Skill Shift(スキルシフト)」導入を推進した課長の岡本雄喜さんにお話を伺いました。
事業づくりは常駐しなくてもいい。だから地方でも都市の人材を活用できると思った
ーまずは 今回、スキルシフトを使って副業人材を活用しようと思ったきっかけをお聞かせいただけますか?
岡本雄喜さん(課長・ご子息 以下敬称略):私は東京のベンチャー企業に勤めた後、Uターンでオキスに入社しました。入社直後から会社の問題だなと感じたのが、社長の業務負担がとても大きいということです。ミドルマネジメント層がうまく機能していなかったため、結局何かあると社長が下に降りてきて業務を担っている状況でした。これは多くの地方企業が抱える問題だと思います。
あらためて「ミドルマネジメント層の業務って何だろう?」と考えたところ、大きく2つあると思ったんですね。1つは組織づくり。いわゆる人の管理で、2つめは事業や仕組みづくり。組織づくりは会社に常駐していないと難しいけれど、事業づくりは会社に常駐していなくてもできますよね。そこで社外の力を活用する方法を探すことにしました。
そこで思い出したのが、東京のベンチャー企業で働いていたとき考えていた「放課後ベンチャー」というアイデアでした。放課後ベンチャーとは、大企業に勤める方が定時後2時間ぐらい副業としてベンチャー企業で働いてみるというものです。このアイデアをもとに「地方企業でも副業なら他の地域にいる人に依頼できるのでは?」と思ったことがきっかけですね。それから「地方 副業」などのキーワードでGoogleを検索していたところ、スキルシフトのサービスを知りました。
― 東京で働いていたからこそ、こんな人が来てくれるだろう、副業の人を受け入れたら自分の会社も変わるはず、そういう感覚があったのでしょうか?
課長:変わるはずというところまでは思っていませんでしたが、やはり東京をはじめ都市部の人材と地方の人材ではスキルに違いがあると感じます。ですから都市部の方が来てくれたら、ちょっとうちの会社も変わるかも?という期待はありました。
― 副業を、企画系の仕事というよりアルバイトのダブルワークのようなイメージを持つ事業者の方も多くいらっしゃいます。でも岡本さんは、前職の経験から事業づくりなどの仕事も副業人材に依頼できるという感覚があったのですね。
課長:そうですね。オペレーションをする人材は地方にもすでにいるので、その上に立って仕組みを作る人材が必要でした。それとオペレーションに関しては機械化ができていますので、むしろいかに人の手を借りずにやっていくかが課題だと思っています。
初回でGoogleの方から応募!即決で営業戦略を依頼
― スキルシフトを使って、どういった職種の副業人材を募集したのでしょうか?
課長:最初は営業戦略と、ネット通販も手掛けているのでWebマーケティングという職種で副業人材を募集しました。そこでいきなりGoogleの社員の方から応募があり、驚きましたね。鹿児島にいてGoogleの方と会う機会なんてないですから。
― 東京にいても、そんな機会はなかなかありません。その方にはどのような業務を依頼しましたか?
課長:主に営業戦略です。
弊社の実績データをすべてお渡しして商品別や新規・既存客別の売上を分析してもらい、今後どう営業すべきかについて提案をいただきました。
分析はもしかしたらSalesforceのようなツールでもできるかもしれませんが、弊社では導入していませんので。地方企業でこういうツールを導入しているところは少ないでしょう。分析から提案まですべてお願いできたのは、効率的だったと思います。また社内で運用できるよう資料やツールを納品していただいたので、助かっています。
この方はたまたま社長と私が東京へ出張しているタイミングで応募があり、その日に東京でお会いしました。その場で社長が即決でしたね。
― それはすごいタイミングです。通常はどのようなプロセスで副業人材を採用しているのでしょうか?
課長:最初は書類選考を行ない、それから話を聞きたいと思った方はSkypeを使ってオンライン面談をしています。
その中でさらに話を聞きたいと思う方を1人絞り、交通費をお支払いして鹿児島まで来ていただき社長と私と3人で打ち合わせ、それから契約という流れです。
最後はオンラインではなく、直接お会いすることが大事だと思っています。週末を使って鹿児島に来ていただき、土曜日は1日使って打ち合わせ。日曜日に帰っていただく感じです。これはほぼ契約のタイミングで行なっています。募集から採用までの期限は設けませんでしたが、2週間から1か月ぐらいでしょうか。近々、採用が決まっている方を含めて、現在副業人材としては6名の採用実績があります(取材日現在)。
― おっしゃる通り、対面することは私も重要だと思います。契約後も定期的に対面で打ち合わせをしているのでしょうか?
課長:日々の連絡は「チャットワーク」というメッセージツールを使ってやりとりしています。
時間帯を決めているわけではなく、いつでも連絡しあうという感じですね。あとは3週間に1回オンラインミーティングを行なって、3か月に1回のペースで鹿児島に来ていただき打ち合わせをしています。
東京と鹿児島ですと、副業人材の方に1回来社いただくと約5万円かかります。この費用は弊社で負担していますが、こうした交通費の支援制度があったりもするので、地方企業にとっては、今後、副業人材を活用しやすくなるのではないでしょうか。
最初のGoogleの方には5か月ぐらい業務をお願いして、現在は終了しています。ちょうど副業人材の募集とあわせて中途採用も行なっていて、営業を任せられる人材を中途で採用できましたので。ただGoogleの方には、またお願いしたいと考えています。
情報とスキルを持った人材がいれば、地方企業も大都市の企業に負けない
― 実際に副業人材を利用することで、どのようなメリットがありましたか?
岡本孝志さん(代表・お父様 以下敬称略):今までは東京や大阪、福岡といった大都市がまずあって、それから鹿児島、そのあと鹿屋市という流れでしか情報が来ませんでした。物は直接移動できる時代にはなったけれど、情報はなくお金だけ動くような感じでしょうか。今回東京にいる副業人材の方に入っていただくことで、情報を直接取り込めるようになってきました。これは本当にありがたいと思っています。
情報が入ると「次はもっとこうしよう」と考え始めますし、それなら「スキルを上げないと!」という意識を持てるようになります。
地方企業が東京や大阪の会社に負けない企業になっていくには、情報とスキルを持つ人材が必須だと痛感しました。
― なるほど。ちなみに副業人材を活用してから、売上など数字につながっていますか?
課長:ネット通販は大きく伸びています。前年の売上が少なかったということもありますが、ネットの売上だけで言うと前年の何十倍みたいな感じです。会社全体としては前年より売上は120%アップしました。
― 数字でもしっかりと効果が見えたということですね。まだ踏み出せない地方企業が副業人材を活用するにはどうしたらいいでしょうか。
課長:社長も最初はそうでしたが、「副業は悪いもの」みたいな考え方がもともとあったようなんです。
代表:悪いと言いますか・・・自分の会社の社員が副業をすることに、常に懸念が生じていました。副業に対して、いい思い出がなかったんです。
でも実際に副業人材を受け入れた今では、どんどんやればいいという感じになりました。社員が副業できるくらいのスキルがあったら、もっと会社はよくなっていると思いますから。
やはり地方企業は、意識を変えづらいですね。例えば働き方改革についても、賑わっているのは東京だけというイメージを持つ人も地方にはいます。私の会社は運送業もやっているので、働き方改革はものすごく関わりがあるのですが。
あとは地方企業だと、副業で大企業の人が来てもうちには合わないよ、みたいな先入観がある気がします。どう受け入れていいかわからない、という受け皿の問題が大きいと思います。
― なるほど。受け入れ側が仕事を渡すとなると、工数がかかってしまい受け入れ側の負担も大きくなります。副業の方に対して「経営課題がこうなので提案してください」という方針でやっているところは、わりとうまくいっています。仕事を引き出してもらうというスタンスだと、うまくいきやすいかもしれません。
「人材版ふるさと納税」で地方企業が活性化
― 副業人材を活用して、お二人の働き方や考え方に変化はありましたか?
課長:最初は副業にあまりいいイメージを持っていなかった社長も、今では「副業でこういう人いないかな?」なんて言うようになりました。
代表:この会社を立ち上げて10数年になりますが、設立して8年間は社員が3人だけだったんです。人が少ない方が収益は上がるので、それでもいいかなと思っていました。
でも3年後や5年後を見据えると、人が育たないと企業としての成長も見込めないですよね。そこで人材をたくさん採用しました。
成長させるため、なるべく任せて失敗も許すようにしましたが、ある程度成長するとその先は伸び悩みます。社内にも社外にも、その先を教えてくれる人がいないのです。
どうしたらいいかなと思っていたところ、副業というかたちで他の会社で頑張っている人が一緒にやってくれることで、会社全体の刺激になって成長につながるとわかりました。
ですからこの仕組みはすごくいいですね。私も最初は、社内のことを副業の方にオープンにするのに抵抗がありました。でも今はどんどんやった方がいいと思っています。社外の視点でいろいろと指摘してもらえるのはありがたいです。
課長:実はスキルシフトで人材募集を始めたとき、弊社のFacebookでもその告知をしました。
すると弊社のある鹿児島県鹿屋市の出身で東京在住という方から「何か手伝えることはありませんか?」というメッセージが届きました。「地元に関わりたいけど手段がわからない」という方にとっても、スキルシフトのようなサービスは役に立つのではないでしょうか。
私はこれを「人材版・ふるさと納税」と勝手に名付けました。通常のふるさと納税はたいていお金を寄付して、それで終わりですよね。でもお金の代わりに他の地域から人材が地方に来て知見を伝えれば、地方企業の収益を上げられる。収益が上がれば、地方企業が自治体に納める税金も増えるはずです。「人材版・ふるさと納税」をうまく使えば、地方企業だけではなく地方全体の活性化に繋がるんじゃないかな、と思います。
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