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コトノハぽんぽん#2「眠り」「手紙」

眠り。寝息。すー……、スー……、天井に包まれている。「まだ起きてる?」って訊いただけで修学旅行みたいになる。「あのさあ」なんて言って、「好きな子いる?」なんて言ったりして、その話してる相手の子が「好きな子」だったりもする。この天井の向こうには屋根があって、そのまた向こうには星空があって、星空のことを考えるとまだ起きていて「あのさあ、好きな子いる?」なんて言ってるふたりはまだ雨上がり間もないみずみずしい野原に寝そべっているような気持ちでいる。帰ったらお風呂に入るのだ、それぞれ。そうして別々の床に着くのだ。と思って実際はおなじ寝床にいて、おなじ天井を見ている。たまに宇宙のことを考えたりしながら、「あのさあ、宇宙のこと、好き?」なんて訊いてみようか迷ったりしながら、いくつもの勇気を胸にいつの間にか眠りについている。

手紙。まず、紙に触れる。それを選ぶとき、色を気にしました。それから厚みを気にしました。ペンを選びました。(ペン立てが、なんとも擬音にしにくい音を立てる。カラカラ? チャカチャカ?)気になったことを頭の脇に追いやって、フリースペースをつくる。さあ、何を書いてもいい、ということになって、私はほんとうの気持ちを書こうと思い、それから、どんなことを書いたら喜んでくれるかなと考え、生まれてきてくれてありがとうと思いながらも実際には書いたりせずに、指に込める。それはペンの先に伝わって、インクに宿る。修正液は使いたくないしね、間違えたら間違えたこともありありと照れながら伝えたいしね。これは、手紙で、ふいに見返すことにもなるし、意外と残るものだから、未来をちょっとでも救ってくれるようにも、しなくちゃね。あっ。……間違えた。矢印を引いて、「ごめんね」と書こうか、もじゃもじゃに書き潰して毛虫ちゃんにしちゃおうかで悩む。悩んでいる私のこの「うーん」も、そんな些細な迷いも書いてしまうことにする。折りたたんで、封をしてからいつも、書きそびれたことに気づいて、それはまた次の時までに……なんて取っておこうとしたら絶対忘れちゃうから電話しちゃったりする。手紙に書いたことだって、いくつかは話せたことが嬉しくて、口を滑らせてしまう。私はあなたが生きていて、こんなにも嬉しい。これは、手紙には、書けないことだね。




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