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短編・実話怪談『心霊”未遂”事件』  ~次故物件~



 俺が不動産の営業として働いていた時なんだけど、今では「事故物件」って名称が出来るぐらい有名になって「住みます芸人」とか言ってさ、怪談話をネタにするお笑い芸人さんや、特集や専用サイトができるぐらいに流行っていると思うけど、当時はまだそんな事故物件って言葉すらなかった時代でさ。そういった物件があるにはあったんだけど、その申告義務が一応にある。だからって、全部”なにから何まで”言う訳ではないんだよ。

 例えば、事件の内容次第では警察側ですらおおやけにできないケースがあったり、微妙な事件もあるじゃない。あの、ほら、殺人だとか自殺じゃないようなさ。あ、逆に言うと『自殺ということにしたい』案件みたいにさ。
 明確に犯人が捕まったとか、有名人や資産家で遺書があったとかでニュースや公共的なものなら一応に義務は発生するけど、そうじゃないケースもあるでしょ?

 え?例えば?具体的に?んー・・・例えば、ほら。

・殺人現場だけど、死体は他に埋められた
とか
・自然死や孤独死ってことでいいよね案件
とか

 これは憶測や想像だけど
・殺人犯が政人や公人、組織的権力者と、もしくはその家族
など・・・・・・

 最後のはそもそも警察時点で情報操作が入ったりするんじゃないかなぁ?分かんないけどね。ただ事件現場である物件の扱いや情報に違和感があることは、ままにあるんだよ。取り壊しやリフォームがやたらに早かったりね。不自然だなぁって気にはなる程度だけで、ハッキリとした情報までは末端の俺ら営業には当然降りてこないことがほとんどよ?

 ・・・他には、その物件の大家、地主とかその関係者とかね。

 まぁ一応、当時のガイドラインを軽く簡単に言えば・・・・・・

①事故があった次の入居者には告知義務要

②孤独死などには告知義務はないが、特殊清掃が入った場合には告知義務が発生

質問があれば虚偽なく申告は必要

 こんな感じだよ。それに前提としてあくまでもこれらも義務なだけであって、怠ったからといってなんらかの罰則や厳罰されるってことはないんだよね。大体の問題は「信用問題」ってとこだ。

 俺のところはそんなめちゃくちゃなことは無かったけどさ、そもそも義務をちゃんとしてないとこもあったんじゃないかなぁ。
 ③っつ目の質問があればってのは、なんとなく分かるよね。
 ②の場合、特殊清掃ってのはよっぽどだよ。夏場や長期間の放置による腐敗進行が過度なケースなわけで、一か月以内とかに見つかるパターンがじゃあどれだけあるかって話だよね。
 ①は住む直前に事件があれば・・・ってなだけなわけだからさ、一か月であれ一週間であれ、誰かが一回住めばそれ以降はもう義務が免除されるってことだよねぇ。

 俺のこれからの話ってのは、そのでのことなんだ・・・・・・


就職


 因みに今現在①の基準は「三年以内に事件・事故があれば申告義務」に改正されているらしいんだけどね。

 俺って霊感とかそうゆうの全然ないしさ、ある意味で強いってか鈍感なのかな?
 不動産の就職前の面接時なんかに
「君って幽霊とかって信じる方?」

 みたいな質問があったぐらいで、今と同じように
「いや全然ないんです、多分、そーいうの鈍感な方でしてぇ」

 って答えた。「あぁ、そうかぁ」って笑顔で言われてとりあえずこの時はそういう事件・事故の物件とかもあるから、苦手な人とかなら営業は向かないからねぇとそういった補足の説明をされた。

 採用が決定して働くことになったんだけど、自宅から職場が少し離れていて・・・離れているっていってもまぁ大体、電車で片道三十分ぐらいの出勤時間だよ。でも、大変だろうって言われて近くの物件に寝泊まりしていいよって勧められたのよ。家賃も要らないし光熱費も会社持ちだって。一軒家だったんだけど借家しゃくやってやつだね。その時は「流石、餅は餅屋だなぁ」って感じで喜んで使わせて貰ってたんだ。

 一応に住む通常の手続きだけは済ませるのに、その事務的な処理も「仕事を覚えるついでだ」って言って、自分で手取り足取り教えてもらいながら指示に従い処理していったな。
 その一軒家に一週間から一か月ぐらい住んでいると、次の入居者が決まったからって別のまた一軒家に引っ越しさせられた。まぁ、タダで住まわせてもらっているし身なので、文句は一つも言えないしなって思って指示に従っていった。

 で、また次の家も全然近場で利便性がよくて、仕事終わりにどこかで飲んで帰るにも徒歩で二十分ぐらいだから飲みすぎてもなんとかなるし、本当に色んな意味で仕事が捗って良かったんだ。けど、一件目の時はあんまり気にしなかったからなんとなく、今思えば同じだったかもってことなんだけど、朝とか休日の日でご近所さんと出合い頭に遭遇した時、皆、なんか俺のことを避けてるような気がしてきたんだ。俺はまぁ、近場の不動産で営業、接客している訳だから愛想よく

「こんにちは~」

 って、挨拶するよね。近所で働いていなかったとしてもまぁ、礼儀として挨拶は言わなくても会釈ぐらいはするじゃない。でもお隣さんなんかは確実に気が付いてないフリをしてちょっと足早に家の中に入っていくんだよ。
 変だなぁって思いながら、まぁまたすぐに次の入居者が決まったら出ていくんだし、俺が不動産関係者だって分かれば物件の下見だの管理だのと思ってくれるだろうと考えて気にはしなかったんだけどさ。

 二か月ぐらいしてから。

 前に俺が一か月ぐらい住んでいた家にいま住んでいるって言う夫婦が、俺の店に物件探しに来たんだよ。なんだか急ぎで引っ越し先を決めている風な節があったなぁ。希望の物件探しのエリアを聞いても、一駅分ぐらいの離れた場所を指定してくるし即入居が可能ならどこでもいいって言うし、ちょっとただ事ではなかった。

「今お住まいの家でなにかあったんですかー?」

 俺が同じ家に直前まで『タダ』で住んでいたなんてことを、会社から口止めされていたってのもあって絶対に言えないし、入居者募集中物件をデータの中から探し何も知らないフリして、ただの世間話、次の物件の適正でも聞いている風に聞いてみた。しかし「特に何もない」としか回答は得られなかった。

 先ずはいつものようにいくつかこちらから適当に三つ四つ候補を出すと、その中から一つを間もなく選び、内見もせずに決めて契約していった。いくらなんでもおかしい。こっちとしては無駄なやり取りもなく契約件数を稼げていいんだけども、男性の一人暮らしとかで極たまにそういった契約をすることはあっても、夫婦で即決は明らかに変だった。

 気になった俺は以前に住んでいた住人のデータを探して、名前や家族構成などを確認する。

 そのままうちの会社が管理会社になっている近場マンションへチラシなどの設置やピンクチラシなどの廃棄、共有部の灰皿の交換や自転車置き場の整理が定期的に必要な業務があるので、ちょっと席を外すと専門の事務員さんに声をかけて向かった。

 マンションで何人かとすれ違い、笑顔で挨拶をしながら作業をしているとふと思った。ここの誰かに俺が前に住んでいた家について聞いてみようと。すると比較的長く住んでいるだろう中年ぐらいの主婦っぽい人に他愛もない話から声をかけて、ストレートに聞いてみた。

「すいません、あっこの家って・・・前に何かあったんですか?」
 と聞くと
「ああ、あそこはねぇ、何があったかは知らないけど数か月前にパトカーがいっぱい止まっていたねぇ。毎日ワイドショーは見てるけど、特にニュースには出てこなかったから、大したことはなかったんじゃない?」

 俺はお礼を言って自転車の整理などをさっさと済ませて帰っていった。

 仕事を早く終わらせて帰宅後、TVで流れるような大きな事件ではなかったかもしれないと思い、ネットで検索したり各新聞の小さな見出しに載っていないか調べていくと、それっぽい記載があった。

 〇月〇日、○○県に住む金子さん宅の玄関に大量の血が散乱しているのを近所の住人が見かけて通報に至る。金子 徹かねこ とおるさん(二十九才)妻の○○さん(三十一才)娘の○〇ちゃん(三才)三人家族で妻の○○さんと娘の○○ちゃんは依然、行方不明で夫である金子さん本人から捜索願が出されている。警察は事件の可能性を視野に入れ捜査中。

金子 徹かねこ とおる(仮名)

 この日、職場で確認した取引台帳に記載のある名前が家族全員、一致した。
 この物件内で死者が出たわけではない為に、今でいう「事故物件」扱いには当然ならなかった。大量の血液が玄関先にあった。言ってしまえばそれだけだということらしい。


契約


 それにしても少し気持ちが悪い事件だし、この旦那さんは何をしているのだろうか。別に俺は幽霊だとかそんなオカルトは信じていないし、全然気にしないけどさぁ、実際の人間は怖いよ。殺人鬼とかヤクザやカルトとかさ。
 だからそれからまた、一つの疑念と不安を感じる。今住んでいる家は?ってね。一応に調べてみると、今度の物件はここ五年間でかなりの数のお客が借りては直ぐに契約解除してる。殆どが三か月~半年。契約の最低期間が過ぎて直ぐに解除を申請している。これもまた借家では不自然だった。

 数が膨大だったから、関連事件を調べるのも時間がかかってしまいもたもたしながら接客をしていて、確信がないまま数日が過ぎていく最中、一人の男性が来店して俺がタイミングよく担当になってしまった・・・・・・
 なんでそんな言い方をするかって言うと、その男はこう言ったんだ。

「○○の場所の一軒家の借家、また借りれますか?」

 と、例の俺が住んでた『鮮血物件』を指名してきたんだ。『また?』ってこの時、一瞬引っ掛かったしそもそも一軒家を指名で借りるって珍しいよね。普通は大半がマンションやアパートだろ?もちろん、たまに超節約家や詳しいような人が借家を指定してくる場合もあるけどね。車持ちで駐車場代を考えると借家の方が断然安くなるし、そもそも借家を貸し出す人も殆どがなんらかの事情があって買った物件を貸し出すので、立地が良くてマンションよりも安い場合が多々あるんだよ。後は介護が必要だとかペットを飼っているとかならよくあるし分るんだけどね。

「あ、ちょうど良く今なら開いてますよ。内見に行かれますか?」

 俺も以前の夫婦も合計で三か月程度しか住んでいなかったので、大掛かりな清掃も必要がなく直ぐに提供できる状態ではあった。
 内心はちょっと不穏になりながら、とりあえず正体が分からないから通常の接客をしていこうとすると

「ああ、いいです大丈夫です。できれば急ぎたいので早速、手続きして下さい」

 って。また、簡単に時短で契約を取れるんだから当然俺は言われるがまま契約書に記入してもらい、専任の取引主任者兼事務員からの説明を聞いてもらっている間、俺はデータ入力しようとした時、この男性の名前を見て数十秒間フリーズしたね。そこには

 氏名:金子 徹かねこ とおる

 と書かれていた。

 この数十秒間で色々考えたよ。そもそも、俺の中で証拠もなにも無いんだけど、勝手にこの旦那さんが怪しいと想像してしまっていた。嫁と子供を殺してしまって遺体をどこかに隠したんだろう、とか・・・・・・いやいや、きっと行方不明になった家族がもしかしたら住んでいた家に帰ってくるかもしれない、そう思い契約し直しにきたんだ、とか。

 でも、俺は直ぐにこの仕事を辞めた。決め手はこの男、金子が契約が終わって最後に言ったセリフが

「住み心地は、どうでした?

 俺は何も答えれなかった。即答が無かったからか男は契約書の控えを持って直ぐに立ち去っていった。

 俺は不動産営業を辞めて直ぐ遠くに引っ越して、全部忘れるようにした。けど今でもニュースで「床下から遺体が出土」とか「壁から白骨化した死体」ってフレーズにはどうしても連想してしまい、思い出して動悸が激しくなってしまう。

 ・・・なんでそう思うのかって??・・・まぁ、君も住んでみると分かるよ・・・・・・

 恐怖心が大分落ち着いたころぐらいに、でも流石に例の『鮮血物件』の周辺にはもう近寄れないから、俺の後に住んだ夫婦に話を聞きたいと思って必死に記憶をひねり出しながら、夫婦が引っ越した場所だろう所まで行って探してみたんだけど、全く見つけられなかった。あの後すぐにまた引っ越したかもしれないなぁ。


画像はイメージです


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