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短編・実話怪談『心霊”未遂”事件』   ~遊郭~


 これは、私が大学を卒業して間もないころの話です。

 ぶっちゃけていうと、私、その頃ある一人の”ホスト”にハマっちゃって。
 最初は普通にOLとして就職し一般的に真面目な社会人をしていたんだけど、当時は今ほどハラスメントとかうるさくなかったからさ、上司とはよく仕事終わりに飲み屋に連れられたり、同僚の子とたまに金曜日の週末とかにはCLUBに行ったりしてました。
 まぁ、普通に遊んでただけなんだけど、ある日たまたま行ったCLUBで高校の時にめちゃくちゃ好きだった男子と出会っちゃって・・・で、その子が今ホストしてるって言うんで興味本位に・・・ホストなんて行ったことなかったし、上司がキャバクラとか行く話は聞いてたし、まぁ経験やネタとしていいかなって感じでさ。もちろんまだ好きっていうか、数年ぶりに出会ったけど大人な雰囲気がプラスされてて、いいなぁって思ってたし・・・・・・

 本当にキャバ嬢に入れ込むおじさん上司と同じなんだなって。あわよくばワンチャン付き合える?って思っちゃうんだよね。ってか、やっぱり、頭では仕事だろうとか口から言ってるだけなんだろうって思うんだけど・・・言って欲しい言葉や行動をしてくれるんだよねぇ。それが本当に気持ちがいいし居心地がいいし、今までの彼氏や普通の感覚ではそんなに私の心?気持ちが分かってくれることや、今言って欲しいセリフなんて言わないじゃん。だから尚更、私のこと好きなんじゃないん?そうでなければこんなに分かってくれる訳ないじゃん!って・・・考えてしまうんだよねぇ。今では冷静になれるけど、その場ではそう思っちゃうじゃない。普通の女子が一般的に恋に盲目になるのと同じね。

 で、そんなこんなでハマっちゃってホストクラブに通い詰めることになるんだけど、当然、お金が無いってなっちゃって・・・最初は会社には内緒で手渡しで給料をくれるとこで副業しながら頑張ってたんだけど、当然そんなの長く続かなくて。

 そんな相談をシュウくん・・・あ、そのホストの名前ね。シュウくんに相談すると

「じゃあもっと稼げて時間も余裕がある仕事にすればいいじゃん」

 って言って、その仕事を紹介してもらったの。そしてそこがあっ旋してる物件、指定する部屋を借りてくれたら一緒に暮らせるよって・・・・・・

 これって、その条件ならもう付き合ってもいいよってことじゃない?

 大好きな人と同棲なんて、その頃はもちろん理想だったしさ。そのシュウくんが紹介してくれた職場の不動産は礼金、敷金といった頭金は一切いらないっていうし・・・即答でOKしたよね。

 そうやって直ぐに仕事は辞めちゃって、引っ越しして「風俗」で働くことになったの。

 ・・・そして、一年ぐらい経った頃かなぁ。

 シュウくんも殆ど帰って来なくなって。たまに寝に来たりお小遣いをもらいに来たり。・・・私、何してんだろって思いながら身体売っている時、一人目のお客さんの対応が終わって直ぐに、この辺では珍しい「着物」を着た男性が私が待機している部屋にいきなり入ってきてね、驚いたわ。

「え・・・あ、ちょっと、待ってくださいねぇ」

 そう言って、先ず急いで部屋の片づけを一応にしながらも、でも変に思ったの。店長やチーフさん、何で入れたの?って。
 今までそんなことは無かった。そこそこ私に指名が入るぐらいの人気はあったけどさ、こんな立て続けの場合はひと言は「大丈夫か?」と確認で聞いてくれるし、それでも少しは休憩を挟んでくれるからさ。少し不満に思いながら浴場や自分の身体に着いたローションを洗い流していると、その着物の男性が急にお札手渡してきたの。

「あの・・・お会計は受付でお願いします」

 たまに、本番や生を求めてくるお客さんもいるけど、店内だしバレたらお互いにヤバいのは分るでしょう?だから、素人っていうか私たちの間では「プロ童貞」って言うんだけど、ほら、逆の「素人童貞」って聞いた事はあるでしょ?そんな感じ。こういったお店は初めての人なのかなとも思ったけどさ、そういったシステムは受付が事前に説明してくれているはずだから、いきなりの「交渉」かと思った。それでもさ、普通は最中や盛り上がった時にするもんじゃん。いきなりかよって思った。

 でもね、よく見るとそのお金、見た事もないお札でさ。写っている人物も諭吉や野口ですら無いのよ。外国人?って一瞬おもったけど、書かれている文字は漢字で「日本銀行」って書いてあったと思うし。
 あ、結構、外国人のお客さんって多いのよ。場所にもよるかもしれないけど、私の経験上では半数が外国人かな。国によっては違法で「立ちんぼ」しか出来ないとことかあるらしいから、日本に来る理由が風俗っていう人も多いのよね。

 で、ちょっと気持ち悪いなって思って
「あ、すいません、そのままここでお待ちいただけますかー」

 って、適当にタオルとかの荷物交換のフリして出てきて、まぁついでに店長に文句言ってやろうとも思いつつ。片づけても無いのに何でお客さん入れるのよ!ってな感じで。

 すると、店長は誰も通してないって言うのよ。はぁ?って。

「じゃあ勝手に入ってきたの?」

「そんな訳ないよ。来たら嫌でも顔を合わせるでしょ、ここは」

「じゃ見て来てよ、部屋に待たせてるからさぁ。怖ぁ・・・・・・」

 そう言って店長は怪訝な顔をしながらさっき私が仕事していた部屋に行って、そして戻ってきたんだけど

「誰も居ないじゃん」

 また、はぁ?って言って。部屋に行くと、確かに誰も居なくなってた。

「ちょっと、まさか、ヤッてんの?ダメだよ流石にそれはぁ」

 そう言って腕に注射を打つ動作をしながら私の幻覚を主張してきた。

「そんな訳ないでしょう、もう・・・・・・」

 とりあえず、その場は冗談な雰囲気で過ごしたんだけど、私はめちゃくちゃビビっちゃってさ。その日は体調が悪いって言って上がって帰ったんだけど、でもずっと気になっちゃって。家でさっき見た紙幣、お札の絵を調べてみたら「大正時代のじゅう円札」だったの。

 それ以来、ビビりながら数日だけそこの店で仕事したけどやっぱり気になって辞めた。そしたらシュウくんも帰って来なくなったし、なんだったのか分からない私の無駄な人生の汚点な一年だった。

 ぼさぼさ頭の、そう、あの有名な金田一みたいな髪型で着物を着た男性。今でもたまに似た人をその辺で見かけることがあるんだよねぇ・・・・・・



後書き

 
 実話怪談というのは比較的「シュール」な結末や、なんだったの?というパターンが多く、なかなかセンセーショナルなストーリー展開にはならないものが多い。実際に劇的なケースは「村八分」や「猟奇殺人」「事故物件」としてすでに結構な事件として取り扱われてしまい、心霊現象ではなくなってしまっています。なので現在で話せるといえる、物質的に言えば「殺人未遂」のようなものの心霊バージョンを話すこととなり、もしかして・・・と、読み手、受け取り手のその後の想像力に委ねてしまう。
 しかし、逆にそこを楽しめるかどうかに面白さが左右するので、無限で夢幻な世界が生まれるのではないか、とも感じシリーズ化として放出していきたいと思います。

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