【蒸留日記 vol.113】北海道ラベンダー'1号ようてい'の蒸留。
こんちわこんちわラベンダー蒸留家のエフゲニーマエダです。
先の誰も蒸留を試していないだろう新進気鋭な品種では”ラベンダー研究家"を名乗ったんですが、研究余地があまり無さそうな北海道品種の1号ようてい蒸留回では素直に蒸留家/ディスティラーを名乗りました(笑)
というように、おおまかな記事内容で扱う植物種によって実は自己紹介の肩書きが変化しているよ!というプチネタバレ報告を前座としておきますw
2023昨年度の蒸留記事⤴︎⤴︎
■Introduction
導入意図
ウチのラベンダー見本園では昨年2023年度よりやっとこさ栽培を開始した、歴史ある北海道のラベンダー品種「1号ようてい」。
ラベンダーの栽培状況をリサーチしていると、
「3号濃紫早咲」は北海道生まれの園芸品種として市場に数多く出回っていて一般市民レベルで最も多く植えられている品種ということが判明。
「4号オカムラサキ」は中富良野町のファーム富田を創業した富田氏が手厚く熱心に栽培してきた品種であることもあり、ファーム富田を中心に数多く栽培されていて北海道ラベンダーのブランドを欲しいがままにしている品種であります。
さて残る「1号ようてい」や「2号はなもいわ」は?
というと、この2種はなかなか園芸市場で出回らない品種であり、北海道中はおろかファーム富田さんでも栽培面積がわりかし少ない品種で、栽培情報のあるスポットが片手で数える程度しかないという割と種の存続危機を感じ取るほどレア品種だったりするんですよ。
ようていとはなもいわは栽培数がすっごい少ないんです。
という北海道のラベンダーをとりまく実情を知り、後々にラベンダー研究花壇に1号ようていと2号はなもいわを加えたところなのですね。
「1号ようてい」品種の歴史
1号ようていは1937年に曽田香料が南フランスの香料会社から輸入した5キログラムの種子から発生した品種であることが知られています。
しっかり1930年代の南フランス(恐らくドローム県)の野生ラベンダー蒸留家の保存種子(採取は野生の丘)からやってきたんですね。
「1号ようてい」品種として成立したのは北海道にラベンダー産業が根付いた1960年代になってからのこと。
精油品質の向上と高収化を目的とした奨励品種トライアルで、最も早くに開花収穫が行える「早咲き品種」の1号品種として「ようてい」が1964年に作出されました。
(中咲ははなもいわ、遅咲きはおかむらさき)
しかしラベンダー蒸留産業が幕を閉じた後は、園芸品種として「3号濃紫早咲」が選ばれたこと、有名な観光農園ファーム富田では「4号おかむらさき」を精力的に栽培したこと、から大きく栽培数が減り「1号ようてい」はマイナー品種として扱われる状況となっています。
▶︎About L. angustifolia 'No.1 Yotei'(文法おかしい?)
まずは7月8日時点の1号ようていの花のようすから。
1号ようていは北海道品種のなかでは「早咲きグループ」(earlyblooming type)に分類されています。
完全に同期するというワケではないんですが3号濃紫早咲の数日後に開花が始まるイメージで、どちらかといえば3号濃紫早咲に開花が近いのです。
「3号濃紫早咲」と外見上すっごい似ているのですが、見抜ける人は微妙に異なった花穂の形状から判別できたりするようです。
3号濃紫早咲の花穂はコロコロっと丸っこい印象なんですが、1号ようていはやや縦長い印象があるのです。
「1号ようていの花色はやや赤っぽい」という解説をちょくちょく目にするのですが、わりとそうだと私も思っていて。
比較対象が隣花壇のおかむらさき派生品種とされる濃色品種のバイオレットメモリーしかおりませんが、わかりますでしょうかね?
やっぱり花穂がやや赤みを帯びるんですよ。色が明るめの花びらはなおのこと赤紫っぽい色合いに。よーく見比べるとつぼみ:がくも比較的赤っぽいのがわかります。
■Materials&Methods
早咲きグループのラベンダー開花シーズン真っ只中の7月8日のラベンダー品種たちのようす。
やっぱりこう様々な品種をババーッと並べると実にカラフルにバエて素晴らしい色合いのガーデンができますね。
まぁほんの1年のうち半月程度しか味わえない北海道の儚い夏景色なのですけれど…
収穫中は手元がまるで天国のようなこの世の何よりも美しい香りに包まれる至福のとき。
わずかな花収穫量ながらも精油回収しようと蒸留を試みた昨年度よりは明らかに収穫量増となっているので嬉しい気持ち!
エフゲニーマエダ、実は北海道品種のなかでも1号ようていの香り2番目に好きなんですよ。
Theラベンダーアロマ!というような爽やかで軽くフローラルに感じる香りがとってもお気に入り。
「1号ようてい」は紫色のラベンダーの中で最も好きな品種かもしれません。
蒸留に供される直前の1号ようてい花穂の勇姿。
このあと50分後に精油&残渣となる。
■Result
推定で0.8mLの精油抽出量となりました!
少なすぎて正確な計測ができてませんが、5mL保存ビンに移したところ1mLも無さそうだったので0.8mLとして収油率計算してみます。
1.収油率 - EO Yield
2.香りとか - EO Scent
ピペットに残った蒸留直後の1号ようてい精油の香りを味わってみますと、
やはり期待を裏切らない「北海道ラベンダー精油として最もバランスに優れた香り」がウチでも味わえました。
(強いていえばフローラル感、軽さが強い香り)
北海道ラベンダーとして名高い4品種のラベンダーアロマで比べてみると、1号ようていはやはり香り個性のバランスの良さ。
群を抜いて伸びるアロマ個性が無く最もオーソドックスな、軽やかで香料としてベストな香りを持っているのがラベンダー品種1号ようていの魅力だと私は思うんですよね。
「3号濃紫は焼き菓子のように濃厚で甘く」、
「4号オカムラサキは紅茶のように美しく清潔な香りが強く伸び」、
「2号はなもいわは芳醇で最も癒される香り」
という各品種それぞれ秀でたアロマ個性を持っています。
そんな中でも'1号ようてい'は、アロマテラピーやお菓子香り付けや香水など何に使用することを考えてもバランスが良く、濁りなく美しいラベンダーの香りとして評価できるTheバランサーポジションが1号ようていの香りの魅力だと思うのです。
ゆえにウチでは1号ようていを力入れて栽培することを決定していたりします。
まぁ事情もあって、「1号ようていを栽培しているよー」と公開情報があるのは中富良野町:ファーム富田さんや山梨県:ラヴァンドの小径さんくらいなんですよ。
まさかの品種名ゆかりのニセコエリアでは栽培が確認できていないんです。
なので4つの北海道品種としてみると、1号ようていは植栽・栽培量が少ないのが個人的に気にかかる点なんです。
歴史が証明した北海道ラベンダーの美しい香りを後世に残す活動に努めていきたい考えでっす。